間違った手段
それから俺は一年間、美晴を物理的に側においた。
「あーなんか喉渇いたわー。美晴、自販機で何か買ってきて?」
「美晴―腹へったー。飯買ってきてー」
「なんか疲れたわー肩叩いて」
俺が何かを頼むたびに美晴は傷ついた顔で笑い
「わかったよ、結城君」
そう言って俺の世話をやく。
その光景を見て、まわりのヤツらは美晴を『パシリな美晴』なんて呼び始めた。
「美晴ちゃーん、俺のもついでに頼むわー」
「俺のもついでにねー」
「「ギャハハハハ」」
俺だけの美晴なのに…そう思えども言えるはずもない。
俺は彼女を傷付けている張本人だ。
そして無茶苦茶な理由で服従させている。
そんな今の状態で何を言っても…彼女の心には届かないだろう。
好きだよ…俺だけの美晴でいて…そう伝えるコトは…もうできない。
本当は昔のように俺の隣で笑って欲しい。
ふにゃっと笑う美晴は本当に可愛くて「バカっぽい」なんて言ってからかってたけど
俺はあの柔らかい笑顔が大好きだったのに。
それももう手に入らない。
俺が本当に手に入れたかったものの大半はもう手に入りそうも無い。
でも…だからって手放すつもりもない。
彼女が側にいない未来なんていらない。
しかし…このまま何もしなければ、美晴は修二に奪われてしまうだろう。
だから俺は俺にしか使えない手段をとる。
それがどんなに卑怯で間違っているコトだとしてもかまわない。
彼女が手に入るなら…俺はどんな酷いコトでも平気な顔でやるだろう。
可哀相な美晴。俺みたいなヤツに好かれちゃって。
美晴と過ごした中等部二年は瞬く間に過ぎていった。
そしてまたクラス替え。俺は美晴と…別のクラスになった。
中等部三年の春、俺は…
「ねぇ母さん、あのさ…お願いがあるんだ。」
『間違った手段』を実行した。