暴露
悪夢のような晩餐会を終え、記憶を記録を綺麗サッパリとデリートしたいと願っても、そう簡単に物事は運ばない。
とすればだ!私がまず第一にすることは完璧に動揺を隠し通すことだ。
学校に行ってむやみやたらにアワアワしたりしたらリオ君の逆鱗に触れるかもしれない。
それだけは避けたい。怒りに満ちた彼の顔なんて見たくもない。
…私は笑ってるリオ君が好きだったのだ。
薄茶色の髪に白い肌、碧眼の大きな瞳にシャープな輪郭。芸能人顔負けのパーツから繰り出される笑顔は殺人モノだった。私はあの笑顔見たさに何回も彼のわがままに振り回されドジをやり、そのたびに笑顔を見ては天に昇るような気持ちになったものだ。
そんな彼が私に笑顔を向けてくれることは…まぁもうないだろう。
それならば、せめて迷惑にならないようにイライラさせないようにするのが私のジャスティスである!
あの時なんで「了承している」なんて言ったのかはわからない。
けれど、彼が不満に思っていることは多分おそらく間違いないのだ!
そんな彼の怒りを不満を増長させないように冷静を装い、ウチの母親と彼の母親がおそらく結託して出来たであろうこのアホな婚約話を世に広まる前にデリートするのが今の私の使命なのだ!
気合いを入れて学校に登校する。
ドキドキしながら来た割には、機嫌が悪いであろうリオ君の姿は見つからない。
それもそうか。彼はいつも学校に来るのがおそいのだ。
「ふぅー」っと息を吐き席につく。すると「おはよ、美晴」と声を掛けて来た人がいた。
「なんだぁーシュウちゃんか!ビックリして損したよー」
「なんだよ美晴。俺が挨拶するのが不満か?」
笑い半分に聞いてくるシュウちゃんにほっとしながら話は進む。
幼等部時代あんなに無口であったシュウちゃんは今では特にそんなこともなく。
バスケに青春を捧げる部活少年へと生まれ変わっていた。
その華麗なるボール運び、点を入れた時のハニカム笑顔が素敵と実は隠れファンがいっぱい居るらしい…とのサトちゃん情報である。
そんな彼は昔と変わらず私に話しかけてくれる一人である。
心までも青春爽やかな彼はこのクラス唯一のお友達だ。
「うんん。不満なわけがありますかぁ~このクラス唯一のお友達だよ?シュウちゃんの機嫌まで損ねたら私なんて孤独なお一人様になってしまうのです。」
「おやおや、美晴嬢はすでにこのクラスで友人を作るのを諦めたらしいと見える」
「当たり前です!胸を張って答えられます!答えはイエスです。リオ君がいるんじゃ誰も仲良くなんてしてくれないのですよ。せいぜい元気よくパシラれてパシリキャラの定着につとめるまでです。」
そんな会話をシュウちゃんとしていると、ガララと教室のドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは眠そうなリオ君で、こんなに距離が離れているのにもかかわらずバチィと目が思わずあってしまった。そしてとたんに彼は不機嫌そうな顔になる。
まずいまずい!見ちゃダメ見ちゃダメ!平常心平常心!
私は心で呪文を唱えるとシュウちゃんに向き合いヘラぁっと笑った。
私はシュウちゃんと話してるだけです!けっしてアナタの話題を出したりしません!
っというオーラ?を放ちながら私がシュウちゃんに話しかけようとした時だった。
「おい、俺の婚約者様はさっそく浮気ですか-?ちょっとはこっち来ておはようの挨拶くらいできねぇのかよ」
…。いやいやいやいや!何言ってるんですか?ちょっと発言に気をつけてくださいね?頼むからこれ以上変なコトを口ばしらないで――
「なぁ?どうにか言ったらどうなんだよ――美晴?」
あぁダメだ。俺様リオ君健在です。本当にありがとうございました。
「えぇ!?どーゆーコトだよリオ?」
「結城君って婚約者いたの??」
「ってゆーか今“美晴”って言わなかった?」
「美晴って藤波さんのことだよね?うっそー信じられない!」
様々な言葉が飛び交う教室で私はひとり取り残されたようだった。
目の前にいるシュウちゃんは信じられないって顔をしている。
うんうん。わかるよ。だって私だって信じられないんだもの。
ねぇ?なんで言っちゃうの?
ソレをバラしちゃったらリオ君のキラキラした世界に染みが出来ちゃう。
私っていう汚点が残っちゃうでしょ?なのに…なんでかな?
リオ君がじっと見ている。私だけをじっと。視線を感じる。
でも臆病な私はその視線をやっぱり確認することができなかった。