止められないコトバ
―今日の天気は曇りのち晴れ、局地的に大雨がふる所もあるでしょう―
振るんだか晴れるんだかわからない中途半端な天気予報を無視して登校したら、案の定雨に降られた。
シットリと濡れた体を拭きながら、何やらざわつく教室に入ると――
空気が一瞬にして凍りついた。
振り向くクラスメイト達。そして…その先にいる人物達と目が合った。
キッと睨み付ける紗都子と――悲しげな表情の修二。
…そして泣き顔の美晴。
美晴は何故かすごく大きなジャージを着ていて…それが誰から借りた物かスグにわかった。
なんで泣いているの?なんで修二から服を借りるの?二人とも美晴に近づきすぎ。いつまでお前らは美晴にくっついてるつもり?どっかにいけよ…美晴は…
美晴は…俺のだ!
「何してるの?三人で。」
自分の口からえらく冷たい声が出ているのが解る。
あぁ…これはダメなパターンだと自分の頭で理解できているのに…
「つうか…何?修二から借りたのソレ?ブカブカだね。」
黙れと命令しているのに言葉が勝手に口から出ていくのがわかる。
「なぁ…何してんのって聞いてるんだけど?」
声に怒りが混ざっていく…
「何も知らない脳天気なアンタに言う必要ない。」
紗都子が静かに…しかし語気に力を込めながら言い放った。
「何も知らないってなんだよ」
「そのまんまの意味だけど?何も知らないで…美晴の事縛りつけて…振り回して…楽しい?」
嘲笑気味に言う紗都子に俺の怒りが煽られる。
なんなんだよ。何を知らないっていうんだよ!
「止めろよサトコ。結城も。少し落ち着け。お前らがそんなだと美晴が怯える。」
まずい空気を察した修二がすかさず止めに入る。こんな張り詰めた空気の中でも冷静に対処しようとする修二に…そんな彼を見つめる美晴に…さらに気持ちが揺さぶられた。
「なんなんだよお前も!一人冷静ですってか。お前ら三人でいつもべったりして気持ち悪いんだよ!俺が何を知らねぇって?言えよ!言ってみろよ!」
「あのねぇ!アンタの考え無しの言動のせいで美晴は―――
「サトちゃん!!!」
さっきまで泣いていたとは思えない強い口調で紗都子を止めたのは…美晴だった。
「もう…大丈夫ですから。あの…ちょっと雨に降られてですね?濡れ鼠状態の私にシュウちゃんが服を貸してくれてですね?サトちゃんが服を乾かしてくれようとしてですね?その…そうです!二人の優しさに感涙してただけなのです!」
美晴が一気に話をまとめようとした。だけど…そんなの嘘だってわかる。なんなんだよ…何があったんだよ。なんで俺には話してくれない?そこの二人ならいいのに?
俺は…そこの二人に勝てないワケ?
「あっそ。もういいよ。言いたくないってわけだ。わかった了解。まぁ俺も聞きたくないし、お前に興味もないし。でも…だったらそんな“聞いて欲しい”って顔してるな。」
俺は冷たくそう言い放って教室を出た。
それと同時にチャイムが学校中に響き渡る。
授業を受ける気にはなれなかった。
グチャグチャの気持ちのまま俺は空き教室で時間をつぶした。
やっと少し…気持ちを立て直して教室に戻ったのは2時間目が終わった頃で…入れ替わりのように美晴の姿が消えていた。保健室に向かったとの事だったが…
そこから放課後まで美晴は教室に戻ってこなかった。




