雨が降り…そして
朝、普段と同じように起きて支度をした。
顔を洗ってご飯を作って両親が起きないように小さいボリュームでテレビをつけて。
ご飯をつくりながらテレビをぼんやりと見て…天気予報を確認する。
季節はすでに六月にさしかかっていて、天の邪鬼な天候が雨を降らしたり止ませたりしていた。
―今日の天気は曇りのち晴れ、局地的に大雨がふる所もあるでしょう―
なんていうアバウトな天気予報なのでしょう。
テレビを見ながら外を見たが、雨が降る予感もないような晴れた天気で…天気予報はやっぱりアテにならないですねーなんて思ってみたり。
ぼんやりとそんなコトを思いながら支度を急いでいたんです。
いつもと同じ朝。
お弁当をつくり制服を着て学校へ行き…机と下駄箱を確認するだけ。
そう思っていたんです。
電車に揺られて学校へ行き、下駄箱を確認――以上なし!
最近はイタズラされるのも不確定で毎日ってワケではなかったので――私はすっかり油断してしまっていたのです。
だから私は――本当にびっくりしたんです。
教室に着き目に入ったのは…普段と違う光景で
ポツンと椅子だけ取り残されている場所がひとつ。
私の机が行方不明になっていたんです!
えっ!えっっ?!
机が…えっ??ありません!!!
どうなって…えっっ??
一人慌てる私。
無い机を探せども、教室に隠してあるはずもなく…
「本当に机がありません!!!!一大事です!!!!」
叫んでみてもどうにもならなかった。
いやいやいや…冷静に…冷静に考えろです私!
教室に無いってコトは?何処に行ってしまったのでしょう?
他のクラスでしょうか?それとも――
いや、ここにいてもしかたがありません!急げ自分!走れ私です!!
私は荷物を自分の椅子の上に置くと、鈍い足をフル稼働させて学校内を駆けめぐった。
空き教室に談話室、更衣室に部活棟。
思い当たる校内全てを見て回ったが…無い。
「後は…後あるとすれば…」
後あるとすれば…それは外。
広い教室棟のほとんどは見て回った。
あと調べてないのは…外だけ。
広い学校の何処にあるのでしょう…私の机。
トロトロと探して既に一時間近く過ぎている。
登校ラッシュが始まる時間までおよそ後30分。
その間に何とか見つけないと…
私は靴を履き外へ飛び出す覚悟をして昇降口へむかう。
さあ、外へ!…と出ようとしたら、ポツポツとアスファルトを水玉にしていく水滴。
いつの間にか外の雲行きは恐ろしく不安定なものになっていた。
今にも大雨がこぼれ落ちそうな空…
ゴロゴロと遠くで鳴る雷鳴。
―今日の天気は曇りのち晴れ、局地的に大雨がふる所もあるでしょう―
天気予報のお姉さんの声が木霊する。
局地的に大雨…局地的ってもしかしてココですか?
あぁ…タイミングが最悪です!
家を出るときは晴れていたから…傘なんて持ってきていません!
だからといって…このまま外を探さないワケにも行きません!
覚悟を決め私は外に飛び出した。
グラウンドの隅から隅を探し…無い。
校舎裏を探して、校門前を探して…残るは後、体育館裏。
体育館の裏には廃材を置くスペースがあったような気がします。
よく考えたらアソコに一番あるかも!
天気は既に目も当てられないくらい最悪で
大粒の雨が容赦なく地面めがけて落ちてきていた。
私の制服は雨をすってどんどん重くなる一方で、鈍い体が重い制服を纏って動きはどんどんトロくなっていった。
それでも止まるワケにはいかない。
今ココで止まってしまったら…今まで必死に早起きし隠してきた全てのことがバレテしまう。
『なんで言ってくれなかったの?友達だと思ってたのに』
『そんなに俺たち信用できない?』
違う…違う。私がただただ臆病だったんです。
素直に言えなかっただけなんです。
二人のコトが大好きで大切で…私のことで悩んだりしてほしくなかったんです。
『お前…ドンクサイだけじゃなかったんだな…本当にみっともねぇな。こんなヤツと俺は結婚しなくちゃならねぇの?』
ごめんなさい。ごめんなさい。私なんかがリオ君の側にいてごめんなさい。
お願いだから嫌わないで…笑っていて欲しいんです。
いろんな言葉が頭の中で木霊する。
いろんなコトが想像できる。
悪いコト…悪いコトばかりが!
私は冷えて疲れた体を引きずるようにして体育館の裏に急いだ。
体育館裏の廃棄置き場には私の机がポツンと置かれ…雨に打たれていた。
「よかった…ありました…よかった」
机に近づき抱きかかえるように崩れ落ちた瞬間
「何やってるの…美晴…」
不意に後ろから声が掛かった。
おそるおそる振り返り、そこに居たのは…シュウちゃんだった。
「体育館から見えたんだ…美晴が傘も差さずに歩いて行くとこ。だから…」
シュウちゃんは歩いてきて、差していた傘を私に傾けてくれた。
「風邪引くよ…?行こう美晴」
シュウちゃんは私に傘を渡すと何も言わずに机を持って歩きだした。
私は机を持つシュウちゃんの後を追うコトしかできなかった