昔のこと1
結城家とは親交が長い。
それは何故なのかと言うと私の母、藤波茅花が結城のおばさまコト結城セアラさんとご学友で大親友だからだ。
金髪碧眼を持つ結城のおばさまは、お父様がフランス人だそうで、日本人のお母様との間に生まれたハーフさんだ。その派手な外見から当時はイロイロとからかわれたり、いじめられたりしたそうで、人間不信に陥ったりもしたそうだ。そんなときに知り合い、友達になったおっとり天然な母にフォーリンラブしたらしい。
おばさまいわく「私が女じゃなかったら茅花を手籠めにして嫁にもらってたわ!」だそうだ。
母も母で「キラキラ笑うセアちゃんが大好き。洋司さんに出会わなかったら嫁にしてもらってたわー」とのこと。
ちなみに洋司は私の父である。
おばさまがおじさまの熱烈プロポーズに根負けして先に結婚、母がしばらくしてから父と出会い結婚。同時期に妊娠し生まれたのが私コト藤波美晴と…結城リオ君だ。
母同士が仲良しということで、私とリオ君はよく二人で遊ばされた。
母親達は居間でお茶を飲みながら話に花を咲かせ、私はリオ君と子供部屋。
よく話豪快に笑うおばさまと違い、子供の頃のリオ君は、それはそれは可愛い子供で、薄い茶色の髪に、母親譲りの大きな碧眼、女の子?男の子?いえいえ、そんなのどうでもいいんです!カワイイは正義なんです!ってくらいの美少年だった。
そんな美少年リオ君にも1つだけ問題がある。無口であまり言葉をはっしない子だったのだ。
いいや『あまり』なんていうレベルじゃない。無口で無反応。生きているお人形みたいな子だった。
そんなだから何もしないで二人でいると沈黙が続く。私がいくら話しかけてもリオ君は常に無反応。
家を訪れるたびに子供部屋に突っ込まれ、無限無口タイムを満喫させられるのではまいってしまう。
そこで私は考えた!当時の私は母に買ってもらったリナちゃん人形と、父に買ってもらった超怪獣ガジラを戦わせる遊びに一人熱中していた。結城家に連行される時にこっそりと私は人形を持参して子供部屋にて『超怪獣ガジラvs魅惑の美少女戦士リナ』ごっこを開催しはじめた。
ごっこ遊びに夢中になっていれば何、この無口タイムも乗り切れるというものだ。
「どしゃーん!がしゃーん!ガジラ怒りの攻撃!!がしゃーーん!」
「街の人の平和を乱す怪獣め!私が相手よ!ばびびびびーーーーん!」
響き渡る私の一人芝居。無口で無反応のリオ君。でも――無反応ように見えるが彼は私をみながら時々クスっと笑っていたのだ。私はソレに気がつかないフリをしながら『超怪獣ガジラvs魅惑の美少女戦士リナ』ごっこをひたすら熱演し続けた。
強制結城家連行が終了し、やっと『超怪獣ガジラvs魅惑の美少女戦士リナ』ごっこの展開を考えなくても済むと思ったら、今度は幼稚園入園が待ち構えていた。
「「仲良しの二人だから同じ学校へ☆」」
と言う余計な配慮をされて、私はめでたく幼稚舎から大学までエスカレーター式に上がっていける有名私立に入れられた。
いろんな子供で騒ぎ遊ぶこの園で無口で反応の薄いリオ君に友達ができるはずもなく
―彼は気がつくといつも一人だった。
そんな独りぼっちの彼に果敢に挑むのが私の日課となっていた。
「リーオ君。あっそびましょ!」
「…。」
「あのねっあっちのジャングルジムでね?すーぱー超人あんど美少女戦士vs超怪獣メカガジラって遊びをするの!でね?リオ君はとらわれの王子様の役をやって欲しいの!お話苦手なら黙ってても大丈夫だから!ね?あっちで遊ぼう?」
「…。」
「ダメかな?嫌?」
いつもなら「…。」プイっってされてショゲ帰るのが恒例となっていたが、挑むこと10回目の今日はひと味違っていた。
「…誰がメカガジラの役をするの?」
おお!しゃべった!!!
「あのねっうんとね!私がガジラ役やるの!すーぱー超人はシュウちゃんで美少女戦士はサトちゃんがやるんだよ!」
「…ガジラはやられちゃう役なんだろ?そんなのやって楽しい?」
「うーん?でもね、私は簡単にやられたりしないから楽しいの!だからリオ君もやろう?」
「…仕方ないから手伝ってあげるよ。ごっこ遊び。」
初めてまともに会話した時からリオ君は俺様リオ君で一緒に遊んだシュウちゃんとサトちゃんはエライ不満げだったけど、それでもリオ君とお話できたコト、リオ君と友達になれたコトが嬉しくて私は終始笑顔だったんだ。
初めてまともに会話したあの日から、リオ君は私の後をついてまわるようになった。
ピョコピョコ。てくてく。
ピョコピョコピョコ。てくてくてく。
私が行く先々についてくる。私が振り返り「リオ君どうしたの?」って聞いても
「別に…行く方向が一緒なだけだよ」なんて言うのだ。
そんな素直じゃ無い態度のリオ君が可愛くって私はニコっと笑うといつもこう続けて言った。
「あのね?私ね、リオ君と一緒に居たいよ?だから後ろにいないでお隣でお話しよう?」
私がそういうとリオ君は「仕方ないな」なんて言った後にとびきり素敵な笑顔で駆けてくるのだ。
幼稚舎を卒業し、初等部に上がってもリオ君と私の関係はしばらく変わらなかった。
でも――いつだっただろうか。あれは多分初等部5年生の時だったと思う。
それまで奇跡のように同じクラスを続けていた私とリオ君だったが小学5年にして初めてクラスが別れたのだ。
クラスが別れるとベッタリな私とリオ君の関係は自然と離れていった。
私にはクラスの女の子友達ができ、またリオ君も初等部5年にもなれば口べたは解消され、クラスの中心で男子を引き連れ騒ぐようになっていた。元からクウォーターっていう派手目な見かけに惹かれた子達がたくさんいて、本当はみんなリオ君と友達になりたかったんだと思う。運動能力も頭も抜群に良かったリオ君は、男女共に注目を集めるカリスマ的なクラスのリーダーになっていった。
そんなキラキラなリオ君とは対照的に、私は早々と自分の限界を悟った。
昔はあんなに駆けたり飛んだりはしゃいだりしたのだが、極めて運動能力がないことに私は初等部在学中に気がついた。
とんでもない運動オンチだと言うことに。
駆けっこやればクラスびり。運動会なんてやろうものなら私が出る競技は最初から諦めたものとされた。クラスのみんなには誠に申し訳ないのだが速く走りたくても、この体に接続している二本の足はどうしても高速稼働するのを拒否しているのだ。
そんな運動オンチな私は特にクラス貢献できることもなく、いつしか『どんくさ美晴』などと呼ばれお荷物的存在となっていた。
それでも仲良くしてくれる子はいたし、幼等部から仲良しなシュウちゃんコト麻生修二君とサトちゃんコト片岡紗都子ちゃんは「美晴の良いところはいっぱいあるの。運動がちょっと出来ないからってだから何?そんなの関係ないんだから。」と言ってくれていた。
そんな二人に励まされながら何とか初等部を卒業し、中等部に進学。
中等部二年のあの日が来るまで、あんなに仲良しだったリオ君とは疎遠になり口も聞かなくなっていた。そうあの日が来るまでは。