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俺と彼女とお弁当

いろいろ考えて過ごしていたらいつもより寝るのが遅くなって遅刻ギリッギリの登校になった。


先生に「もっと早く来いよ」と怒られつつ席につく。

美晴の方を見たらペコっと頭を下げられた。

何故か緊張した面持ちの彼女を見て、俺は少し笑ってしまった。


ねぇ美晴?俺の方が緊張してるんだよ?


彼女の前だとどうしても格好つけてしまう。

昔みたいに話したいと思うほど、空回りして表情は硬くなり、冷たい言葉が口から出て来る。

幼い頃、彼女の側に居た頃はニコニコと良く笑えて話せていたはずなのに…あの頃の自分が羨ましい。


でも今日はちゃんと伝えるんだ。

俺の為に彼女はきっと早起きしてお弁当を作って来てくれているだろう。

そんな彼女にちゃんと伝えるんだ…おいしいって。ありがとうって…。


時間は刻一刻と進んで行く。


そして時刻はとうとう昼休みとなった。


授業終了のベルが鳴る。

ガタガタと移動を開始するクラスメイト達。

食堂に行ったり買い出しに行ったりと教室は一気に人が少なくなる。


俺の周りにもいつもの面子が集まってきた。

ガヤガヤと騒ぎながら集まってくるヤツラをよそに俺は美晴を見つめていた。


彼女は思い立ったように席を立つと一直線に俺の前まで歩いてきて

「ゆっ結城君!昨日言ってたお弁当、作ってきたので…食べてください!」

そう言ってお弁当箱を差し出してきた。


俺は嬉しくて緩みそうになる顔を押さえながら、彼女をジッと見つめた後「あぁ」と短く言ってお弁当を受け取った――早く中が見たかった。


巾着の包みからお弁当を取り出して、後少しで蓋を開ける――そんな時


「ねぇ藤波さん?飲み物買って来てくれない?いつもみたいにさー」


俺の前の席からそんな声が聞こえた。

そこに居たのは吉澤マナミで…醜く歪んだ顔で美晴を見上げていた。

いまにも彼女を傷付けてやる――そういった顔だ。


美晴はビックリした顔で吉澤を見つめ固まっている。


「ねぇ、ボーっとしてないでさ。リオも飲み物欲しいよね?マナも喉渇いちゃってさーお願いしてもいいよね?」


「あっ…えっと…。」


畳み掛けるように言葉を紡ぐ吉澤に俺は内心焦っていた。

このまま美晴をここに置いていたら吉澤に何か言われるかもしれない。

こんなよくわからない女に…美晴は傷付けさせない。


「そうだな…飲み物欲しいかも。美晴頼める?」


俺は美晴をこの場から遠ざけることにした。


「わかりました。」

美晴は小さくそう言うと、みんなの注文を聞き教室を出ていった。




彼女が教室から離れたのを確認して俺はお弁当の蓋を開けた。

「あっ……」

思わず声が漏れるほどそのお弁当は丁寧に作られていた。

入っているモノはどれも、昔俺が好んで食べていたものばかり。

美晴は…ちゃんと俺のコトを覚えていてくれている。


「うわーっすっげぇー藤波さん料理得意ってマジなんだな!旨そ~リオ、ちょっと貰っていい?」

俺の弁当を覗きながら手を伸ばす金木を睨みながら「ダメあげない」と短く言っておかずを一つつまんで口に放りなげた。

食べたのは卵焼き。口の中にほんのりとした甘さが広まって幸せな気持ちになった。

甘い卵焼きが好きだって…そんなことも覚えてるんだな。


俺は前の席でほうけた顔で弁当を覗く吉澤に向かって

「美晴をパシらせられるご身分なわけ?お前もこれぐらい料理つくれるようになっておけよ?嫁のもらい手がつかなくなるぜ」


俺は皮肉たっぷりにそう言って席を立った。


「ちょっと出て来る。金木、弁当見張ってて。つまみ食いしたら殺すからな」

「えっちょっっ何処行くのさ!?リオ!??」


戸惑う金木を置いて、教室を出で走り出す。

自販機に向かってからしばらく経つ彼女を探すためだ。

何かに傷ついたって顔をしながら出ていった美晴。

酷い言葉を言われる前に逃がしたつもりだったのに…俺はまた何かを間違えた?


でも…そうだとしても…それを挽回したいんだ。

彼女に伝えたい。自分の素直な気持ちを――


急いで自販機まで行くと美晴がぽつんと立っていた。

俯きながらメモをめくり困っているようだった。

買い出しメモを何処に書いたか忘れたのか?

俺はそんな彼女の後ろにいってお金を入れると自分が飲みたかったジュースのボタンを押す。


ピー。ガゴン。


ジュースが機械から落ちてきて…美晴が驚き振り返る。



えっ何で…?



何故か美晴が…泣いている。

驚いて見開いた目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。

その顔は誰にも見せたくないって思うほど可愛くて…可愛くて…


なんで泣いてるんだよ…しかも泣いてるの忘れてるだろその顔。


俺が居たことに驚いて泣いているのを忘れてる可愛い美晴。

そんな彼女にフッと笑いながら

「何泣いてんのさ…その顔止めてよ」

と言い制服の裾でゴシゴシと涙をぬぐってやった。


美晴はまだ状況が理解できていないようで「あっ…えっっとっ…ぇえっ?」といいながら混乱しているようだった。

そんな彼女が可愛くて…愛しくて緩む顔が押さえられず、思わず口を手で隠す。


困る彼女をもっと見ていたい――そんな風に思った瞬間、俺はここに来た当初の目的を思い出した。


俺は言わなきゃいけないことがある。


そのためにココまで彼女を追って来たんだ。


格好悪くたっていい。


多分彼女はそんなコト気にしない。


言葉を…紡ぐんだ。


思っているコトを…感じているコトを…素直に。


言えっ。

言うんだ。


「美晴に言おうと思ってさ…あの…さ。弁当俺の好きな物ばっかでさ…おいしかった。だから…ありがと。でさ…明日もお弁当作ってって言ったら…美晴…嫌?」



格好悪い。つっかえながら話す俺。


でも…思いは伝えた。


だからお願い…嫌って言わないで。


俺のこと拒まないで。


美晴…お願い。



「嫌じゃない!嫌じゃないです!むしろ明日も明後日も明明後日もずっとお弁当がいいです!」



手をブンブン横に振りながら否定する彼女をみて緊張がフッと解けた気がした。


拒まれなくて良かった…


「そう、良かった。じゃあ明日から俺の昼飯は美晴のお手製弁当ってことで」


俺は歓喜しながらそう言い、いくつか飲み物を買って1つ美晴に手渡し

「明日のも…期待してるわ」

そう言って教室へ戻った。


お弁当を食べる。

横で金木が「なぁなぁー一つくらいくれてもいいじゃんよー」とかのたまっているが無視だ。


誰があげるか!コレは俺のだ!


一つ一つの料理にいっぱいいっぱい彼女の愛情が詰まっているようで

俺は味わいながら食べる。

とても美味しいお弁当。



とても幸せな――昼休みだった。


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