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明日は…頑張る

昼休みが始まり、俺は美晴を呼びつける。


「美晴ーお願いがあるんだけどさ。」


美晴は緊張した面持ちで俺のところにくると

「なんですか結城君?」と言った。


「今日は購買のパンが食べたいんだよね。買ってきてくれる?サンドイッチとカレーパンと後、焼きそばパンかな。あと飲み物も頼むわ、パックのカフェオレね」


美晴は俺の頼みを聞くとポケットからメモを取り出し注文した品を書き始めた。

その姿を見て、俺の周りにいた連中はおもしろがって「俺のも頼むよ」「私のも」などと言ってお使いを頼み始める。


美晴にそんなに頼むなよ!持ちきれなくなるだろうが!


と思ったが…一番最初に頼んだのは俺だ。

彼女に話しかけるのに用件がないと無理だなんて…これじゃ昔と何も変わらない。


健気な彼女はみんなの注文を聞くと「では、行ってきますね」と言い教室を後にした。


「うわ~マジでリオのパシリなんだーウケルー」

そう言って笑うのは吉澤マナミという女。

さもあたりまえと言う顔で俺の隣に座ってくる。

金木いわく、このクラスで一番の美女だそうだが…正直どうでもいい存在だ。

いや、むしろコイツが美晴にとる態度にイライラするくらいだ―なんだ?この女。


「ねぇリオ?マジで藤波さんと婚約したの?あんなにパシってる相手と婚約?」

馴れ馴れしい態度にいらつきながらも、俺は話を聞いていた。


「あーソレ俺も思ったわ!結城相変わらず同じクラスになったらパシり再開だしさーそんな相手と婚約っておかしいっしょ。それに結城の婚約者って感じじゃないよね藤波さんってさ。そんで、本当のところはどう思ってるわけ?」

金木が不思議そうな顔で聞いてくる。


「どう思ってるって?別に、俺は不満に思ったりしてないけど?」

あたりまえだ。自分が望んだ結果なのだから。


「えっそうなの?以外だわー。でも…そういやお前って彼女とかいたこと無かったよな。美人で有名な5組の野木さんの告白を断ったあたりから、実は結城は女に興味がないんじゃないかって疑惑があったんだぜ?」

「なんだよソレ…ふざけんなよ」

「いや、だって結構いろんな子から告白されてるのに全然くっつかないからさ。んで、だから俺、実は結城の本命は片岡さんなのかなーって思ってたんだけど…今朝の言い合い見た感じだとそーでもないみたいだし?」

紗都子とかよ…冗談じゃない!あいつは只のライバルだ!

「案外ずっと本命は藤波さんで、今回の婚約話も結城が裏で暗躍した結果…とかだったりしてな!」


笑顔で話す金木。

一瞬にして場がシーンと静まり返る。


バカだアホだと思って来たが見解を改めなきゃならないな…。

コイツそのものズバリを突いてきやがった。


「そうだって言ったら…どうする?」

俺が意味深な顔でそう言うと


「えっマジで…?」

金木は焦ったように聞き返す。


「さぁな。」

俺はあえて答えをはぐらかした。

なんでお前らに本人にも言えないコトを告白せねばならない。


「ちょっと金木!変なコト言わないでよ!」

「えっなんで俺が怒られてるの?!」


騒ぐ金木と吉澤を放置して、俺は美晴の帰りを待った。

購買は人でごった返しているだろう。

華奢でおっとりした美晴が購買で物を買うのは至難の業だ。

そんなことわかっている…。

それに…絶対一つ彼女には買って来られない物があることも。


しばらくして困った顔をしながら美晴が帰ってきた。

俺は帰ってきた美晴に安堵しながら「おせぇよ」と彼女を詰る。

どうして素直にお帰りって言えないのだろうか…いや、ここからが本番だ。

ここで諦めるな!


「あの…結城君?焼きそばパン売り切れちゃっててね?代わりのいくつか別のを買ってきたのですけど…」


美晴は申し訳なさそうに沢山パンが入った買い物袋を渡してきた。

その中には菓子パンから調理パンまでいろんなパンが入っていた。

こんなにいっぱい…俺なんかに気を遣わなくてもいいのに…


心ではそう思ってるのに、俺の口は辛辣な言葉で美晴を責めた。


「はぁ?俺は焼きそばパンが食いたかったのに。お前本当にトロいな。…つうかトロいお前に頼んだのが無謀だったってやつ?」


「そうだよリオ、藤波さんじゃ無理だってぇ~キャハハ」

吉澤の言葉で周りの人が笑い出す。


吉澤…ふざけんなよ?俺を怒らせたいの?


いや、周りのことはどうでもいいんだ。

俺は…わざわざ美晴に買えないモノを注文してお使いの失敗をさせた。

それは――すべて素直に彼女に気持ちを伝えられなくなった俺の策略。


本当は…俺は…


「まぁいいや。今日はコレを我慢して食ってやるよ。――そのかわり…ねぇ美晴?明日からお弁当作ってきてよ」


「お弁当…ですか?」


「そうだよ。お前料理好きなんだろ?俺もさー将来のお嫁様が料理ベタだと困るわけ。だから食える物作れるか俺が判定してやるよ。だから明日は弁当作ってこい。わかった?美晴」


本当は彼女にお使いなんて頼みたくない。

小柄な彼女に大量の飲み物や食べ物を持たせたくなんてないし、購買で人にもみくちゃにされてなんて欲しくない。

でも俺が彼女に話しかけられるのはこの場面だけなんだ。

だからお昼の役割をつぶさないで、彼女にお使いを頼まないで済む方法。


『お弁当作ってきて』


彼女が料理好きだと言うのは彼女の母親、茅花さんから聞いた。

「美晴はね~お料理大好きなの。今では家のご飯は美晴担当なのよ-?リオ君も食べてみたいでしょー?ならお弁当作ってって言ってみて?あの子喜んで作ると思うの!」

婚約発表のあの日、こっそり告げられたアドバイス。

使わない手はない。


それに好きな子からのお弁当なんて嬉しい。

それがどんなに下手だろうが旨いって言って食べるだろう。


「聞いてるの美晴?」

ぼんやり顔の彼女に問いかける。

嫌だなんて言わせない。


「はい!聞いてます!わかりました。明日はお弁当作ってきますね!」

ハッとした顔をして美晴は答えると自分の席へと戻っていった。


「お弁当食べたいの?なら私作ってこようかー?私もチョットは料理できるよ」

吉澤が横で何やらしゃべっている。

お前の弁当なんていらない。

それじゃ意味がない。

弁当だって本当は口実で…本当は…



本当は彼女と話がしたいだけなんだ。



明日はちゃんと言おう。

ありがとうって。

素直な気持ちを伝えよう。



明日はちゃんと…頑張ろう。


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