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砂のお城の王様

次の日、いつものようにゆっくりと登校して席に座った。

席に着くとわらわらと人が集まってくる。

「おはよー結城。」

「リオ君おはよー。今日も眠そうだねー」

「おはようリオ。昨日なんでメール返してくれなかったの?」

眠いのは低血圧のせいでデフォルトだ。メール?はぁ?お前だれだよ。何で俺が知らないヤツからのメールを読まなきゃいけない。

朝から人が集まってきてうるさい。

俺が会いたいのはお前らじゃない。

俺が会いたいのは――


「結城君おはよう。」


そう、美晴だけだ。

それなのに邪魔なヤツがくっついてきた。

美晴の前に仁王立ちで立つ人物。

まるで俺から美晴を守るみたいに立ちはだかって――


紗都子――お前また昔みたいに俺の邪魔をする気?

あぁその顔…喧嘩しに来ましたって顔だな。ならいいよ?

昔みたいに隠れてじゃない――堂々といこうじゃないか。


「おまえさー一人じゃおはようの一言も言えないのなー。さすが『どんくさ美晴』だわ」


俺は紗都子の目を見てそう言った。

さぁ、乗ってこい紗都子。

「あのさぁ結城――」

案の定、紗都子は怒り爆発で俺に食って掛かる。

いいぜ?相手してやるよ。久しぶりだよなぁ?俺とお前の口喧嘩。

楽しくて仕方ない。


見るからにヒートアップしている紗都子と冷静さを装っている俺。

さぁ美晴を巡って今まさに喧嘩の火ぶたが切って落されるそんな瞬間


「なにやってんのお前ら。喧嘩ならよそでやんなよ。迷惑。ってか予鈴なるよ?」


久々の喧嘩に水を差したのは修二だった。


…まぁ昔通りと言えば昔通りだな。

修二は俺と紗都子の仲裁役だったし。



紗都子は俺を睨むと

「ふん!貸しにしといてやるわ。でもいい?私の美晴を無駄に振り回さないで!酷いコトしたら闇討ちしてやるんだからね!!」

と言って教室に帰って行った。

闇討ちねぇ…逆に返り討ちにしてやるよ。


タイミングよくチャイムが鳴り、美晴もそわそわとしながら席についた。

授業が始まってしまえば紗都子は簡単にはこのクラスに来られない。

今日は移動教室が多い日だ…美晴に話しかけるのは昼休み開始のその時かな。


一時間一時間過ぎる時間を楽しみに俺、は美晴になんて言って話しかけようか悩んでいた。


中2の頃の悲劇を繰り返すワケにはいかない。

あの頃のコトを思い出すと今でも胸が苦しくなる。


虐めるコトでしか関係を保つコトができなかった自分。

大人になったと…一人でなんでも出来るようになったと勘違いしていた馬鹿な俺。

そんな俺が引き起こしたあのイジメは美晴に…確実に傷を作っている。

止めようとした…何度も。

でも一度入ってしまったスイッチを止めるコトが出来なくて。

散々、美晴に当たり散らして我が儘言って…気がついた時には、クラス専用のパシリだ雑用係だ…だから何してもかまわないってそんな風になってしまっていた。

「俺専用の雑用係なんだよ。お前ら勝手にアイツを使うなよ。」

そんなコト言ってごまかしてたけど…本当は頭の中はぐちゃぐちゃで…

何でこんなコトになっているのかと、いつもいつも考えていた。


もう、繰り返さない。そう思ってたのに…


学習能力が低いのかな俺って…。何で速攻やらかすかな。ヤキモチ丸出し。

いや…過ぎてしまったコトは仕方が無いか。

ここから挽回していけばいい。


直ぐに好きになってもらえるなんて思っていない。

未来を縛ったんだ。時間はある。気持ちのほうはゆっくりでもかまわない。

でも今年中にクリアしておきたいコトだってある。


父と母にお願いした『間違った手段』。

美晴との婚約話をお願いしたときにつけられた条件。


それは――学校を卒業するまでに美晴と仲直りすること――


父も母も…それから美晴の両親も…俺と美晴が上手くいってないコトを知っていた。

「報告してないから知らないだろう―なんて甘いわねぇ?情報ってもんは集めようと思えばいくらだって集まるのよ。なめられたもんねぇ~私も」


母さんはひにくたっぷりな笑顔でそう言った。

父さんはテーブルに座りながら静かにコーヒーを啜っている。

どうやらこの話は母さん主体で進めるみたいだ。


「めったにお願いをしないアンタからのお願いを母として聞いてやりたいとも思う。でも親友の娘を不幸にするつもりもないわ。ねぇ昔私が言ったコトを覚えてる?リオ…私こう言ったのよ?同じ目線で生きてくれる人を探しなさいって。今のアンタは砂のお城のてっぺんで一人ふんぞり返っている王様よ。お城の上から見る景色はすばらしいものかもしれないけれど、そのお城に登ってきてくれるまともな人なんていないわ。だって登ってる途中で崩れたら怖いもの」

「…母さん、何が言いたいわけ?」

「同じ目線で生きて欲しいのなら、まずアナタが好きな人の目線を追いなさい。同じところまで来るのを待っているなんて男がすることじゃないわ。女はねぇ積極的な男に弱いのよ。私がそうだったんだから間違いないわ!」

ゴフっとコーヒーを咽せる父さん。

―なるほど。今はコーヒーを啜って冷静を装っているこの父にも、母を口説くために積極的になったことがあったのか…。

そんな父さんを一瞥してから母さんは話を戻す。

「とにかく、美晴ちゃんと仲直りしなさい。学校を卒業するまでに。それができないのならあんたはこの家にいる資格もないわ。わかった?あと勉強をちゃんとすること。順位が十番位内から落ちたらお前の望みはすべてパーよ!私の息子がバカなんて許さないし、バカに親友の娘を嫁がせる手助けなんてしないわ。」


あの話から数年。

俺は勉強を頑張った。十番位内?なめてもらっちゃ困るよ母さん。

俺は今トップ3圏内を維持している。

学校の先生からは「このまま大学にエスカレーターで上がるのもかまわないが、他の大学を受けてみるもの良いかもしれない」と打診された。

父さんからも大学受験を進められている。

俺の我が儘を通してくれた両親には逆らえない。



俺にはもう…この一年しかない。



四時間目を告げるのチャイムが鳴る――お昼休みまで後一時間。

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