繰り返し
俺はいつも間違える。
最良な選択をすることができるはずなのに、いつも…いつも間違える。
そして俺の下す選択は必ず俺と彼女を苦しめるのだ。
そうなるって…間違えてるって解っているはずなのに。
俺は彼女のコトになると周りが見えなくなり感情がコントロール出来なくなるんだ。
そして…間違える。
繰り返し繰り返し。
間違えた道を歩む。
彼女の未来を縛ったコトだって――きっと本当は間違えているコトなのだ。
だけど俺は――彼女を俺の側に取り戻す為に躊躇することなく、その禁断の手段を選んだ。
最悪だ。
目も当てられない位に。
でも俺は…俺は…どうすることもできない。
自分が止められない。
どうすればいいか…わからない。
そしてまた間違えたんだ。
あの日俺は――
あの日俺は、彼女と真剣に話をしようと思っていた。
彼女はバカな親同士がノリ決めた婚約話――と思っている。
そして、あの話を突然聞いて動揺しているようだった。
そりゃ俺のコトを嫌っている彼女にとってはとんでもない話だろう。
でも俺にとっては違う。
彼女と話をする為のただのファクターでしかない。
さぁ…なんて話かけようか…。
そんな思いで登校した。
クラスに入って見た物は――美晴と修二が笑い合う顔だった。
なっっ!またかよ…またアイツら…落ち着け俺!!
そう…思ったのに。
口から出た言葉はまるで落ち着いたものではなかった。
「おい、俺の婚約者様はさっそく浮気ですかー?ちょっとはこっち来ておはようの挨拶くらいできねぇのかよ」
この一言のせいで美晴が酷い目に遭うことになるなんて…この時の俺は考えてもいなかったんだ。
彼女を俺のものだって主張したい――そんな気持ちが俺を支配していた。
俺の発言で教室は一気に騒がしくなり、俺の周りには人が集まった。
「なぁなぁ!今のってマジ?美晴って藤波さんのことだろ?」
近くの席に座っている金木尚人が興味津々といった面持ちで聞いてくる。
こいつとは中等部からの仲だ。
下世話な話が好きなヤツでしょっちゅういろんな話を仕入れて来ては俺に聞かせてくる。
「なぁ知ってる?3組の田中が4組の飯島さんに告白したんだってさー」
「おい、もう知ってるか?2組の橋下さんがお前のコト好きなんだって!」
正直、どうでもいい話ばかりで俺はいつも「あぁ」とか「そう」とか言って聞き流していた。
でも、今日はちょっと対応を変えよう。
こいつにはいろんなクラスに行って広めてもらわないといけないしな。
「そうだよ。俺の母親がアイツの母親と仲がいいんだ。仲良し同士の子供をくっつけようって感じじゃね?昨日いきなり呼び出されて聞かされた。俺の未来のお嫁さんはアイツだよ。」
「マジかよーすげぇ!!婚約っとかカッケェな!さすが結城だぜ。でも…相手がなーなんで藤波さんかなぁーリオだったら4組の高場さんとか3組の佐藤さんとか…うちのクラスの吉澤とかさ…あんな感じの美女とって感じなのにな。」
勝手に決めるな…俺のコトを!
なんで俺がそんなよくわからないヤツラと婚約しなければならないんだ。
俺が欲しいのはそんなヤツラらじゃない。美晴だけが欲しいんだ。他はいらない。
美晴だけが特別なんだ。
うるさくしゃべる金木を適当にあしらい、授業の準備をする。
遠くに座る彼女を見つめるとフワフワと上の空で、おそらくイロイロと考えているのだろう。
彼女は俺が婚約した話を言うなんて思ってもいなかっただろう。
俺も…途中までは黙っているつもりだったんだ。
だけど…ごめんね?美晴。我慢できなかったんだよ。
お前が修二なんかと話してるのがいけないんだ。
だから俺は謝らないよ?
ねぇ美晴、楽しいね?
みんなが知ってるんだ。君が隠そうとしたであろう秘密をさ。
こうなって…君はどうする?どう動く?
授業が終わって休み時間になっても俺の周りから人が居なくなるコトはなかった。
入れ替わり立ち替わりいろんなクラスから人が俺を訪ねてくる。
どうやら金木が「大ニュースだー!」などと言っていろんなクラスに伝えてまわっているらしい。
予想通りといったところか。
俺の周りに集まった人は、みんなアノ話しが聞きたいって顔をしていた。
「ねぇねぇ、聞いたんだけどさーリオ君婚約したって本当?金木から聞いたから嘘っぽくてさ」
「そうそう、情報元が金木君だもんねー」
酷い言われようだな金木。
俺の周りには他クラスの名前も覚えてないような女子で溢れていた。
もう何度同じ事を説明しただろう。いい加減面倒になってきた。
人だかりの隙間から遠くの席に座る彼女を確認する。
彼女の席の周りにも数人の人。
あれは紗都子と修二だな。
紗都子は美晴のコトが大好きだ。
幼い時、俺はよく美晴の取り合いでアイツと喧嘩してた。もちろん美晴の知らないところでだ。
俺は負け知らずで、だから美晴の隣はいつも俺だった。
紗都子は負けるたびに「覚えとけよー結城ぃ!」って言ってたっけな。
しばらくアイツとは喧嘩してない。
美晴の隣を貸してやってたからな。
でも…返してもらうよ紗都子。もちろん修二にもあげない。
人だかりはまだ引かない。
でももう俺は相手するのも面倒で、適当に空返事をしながらその日を過ごした。
明日からどうしようかな。
彼女とどう関わっていこうか。
大好きな美晴。でも…俺は嫌われてる。
まずはもう一度…俺と友達になってよ。
あの頃みたいに俺としゃべって?
俺に怯えないで…?
溢れる人をそのままにして、俺はもう明日からのコトしか考えられなくなった。