私と彼とお弁当
キーンコーンカーンコーン
授業終了のベルが鳴る。
さぁ決戦の時ですよ!
私は気合いを入れて席を立った。
彼のお弁当を手に取り、席へ向かう。
ドキンっドキンっ
鼓動はどんどん早くなっていく。
平常心!平常心!平常心!!
私は心の中で呪文を唱えて彼の席の前へと立った。
「ゆっ結城君!昨日言ってたお弁当、作ってきたので…食べてください!」
緊張して名前をカンだ!あぁあああもう!こんな時までドジです!
リオ君は私をジッと見つめた後「あぁ」とそっけなく言ってお弁当を受け取った。
巾着の包みからお弁当を取り出して、後少しで蓋を開ける――そんな時
「ねぇ藤波さん?飲み物買って来てくれない?いつもみたいにさー」
突然そう言われた。
リオ君の動作に釘付けだった私は「えっ」と馬鹿な声を出し顔をあげる。
そこには害意のある顔で笑う女生徒がいた。
吉澤マナミさん――リオ君の側にいつもいる女の子の一人。
「ねぇ、ボーっとしてないでさ。リオも飲み物欲しいよね?マナも喉渇いちゃってさーお願いしてもいいよね?」
「あっ…えっと…。」
本当は…リオ君が食べているところを見ていたい。
一生懸命彼の為に作ったお弁当。
昔のコトを思い出し、好きだと美味しそうに食べていた物ばかり詰め込んだ――お弁当。
だからお願い…一口でもいい…美味しそうに食べてくれるところが見たい。
なのに…
「そうだな…飲み物欲しいかも。美晴頼める?」
私の願いは叶わなかった。
「わかりました。」私は小さくそう言うと、みんなの注文をメモに書き始めた。
教室を出てとぼとぼと歩く。
早く行って帰れば彼はまだ食べている途中だろう。
でも…何故だか急ぐ力が湧いてこなかった。
リオ君に突き放された気がしたからかな?
そんなこといつもなのに…今更になってダメージを受けたのでしょうか?
ううん。違う。本当はわかっている。
期待したからだ。
もしかしたら、コレがきっかけで彼が昔のコトを思い出して、また私に笑いかけてくれるかもって
…そう期待したからだ。
だけど夢見たようにはならなくって。
現実はやっぱり現実で…リオ君はいつも通り私に冷たかった。
とぼとぼと歩きながら自販機の前で止まる。
悲しくて、期待した自分がバカみたいで…涙が出て前が霞む。
「あれっ…何を買うんでしたっけ…?」
一人でそう呟きながらメモをめくるけど…こぼれた涙で字が滲み読み取ることができなくなってしまった。
あぁ…困ったな…この顔で教室には戻りたくないな…でももう何を頼まれたかわからなくなっちゃいましたね。
自販機を見つめ、もう適当な物を買って行ってしまおうとしたら――
チャリン。
後ろから誰かが自販機にお金を入れた。
そして素早くボタンを押す。
ピー。ガゴン。
誰かが私を無視して飲み物を買い始めた。
ごめんなさい!そう言って退こうとして振り返ると
そこに居たのは――リオ君だった。
えっ何で…?
泣いているのを本気で忘れ、びっくりした顔のまま見上げる形で固まっていると
フッと笑いながら
「何泣いてんのさ…その顔止めてよ」
と言い制服の裾でゴシゴシと涙をぬぐってくれた。
私はワケがわからなくて「あっ…えっっとっ…ぇえっ?」とか意味不明なコトしか言えない状態で――頭の中が大混乱していた。
なんでリオ君がココにいるんですか?何で…どうして?
どうして涙を拭いてくれたの?
わからない…わからないよリオ君。
不思議な顔で見上げていると、彼は手で口を隠し照れたように少し俯きながら話す。
「美晴に言おうと思ってさ…あの…さ。弁当俺の好きな物ばっかでさ…おいしいしかった。だから…ありがと。でさ、明日もお弁当作ってって言ったら――美晴…嫌?」
嫌?いやいやいやいや!そんなワケがない!!
明日も作っていいのなら是非そうさせてもらいたいぐらいです!
「嫌じゃない!嫌じゃないです!むしろ明日も明後日も明明後日もずっとお弁当がいいです!」
私は手をブンブン横に振りながら否定した。
そんな私の様子を見てリオ君は――ニッコリと微笑んだのだ。
「そう、良かった。じゃあ明日から俺の昼飯は美晴のお手製弁当ってことで」
リオ君は楽しそうにそう言うと、いくつか飲み物を買って1つ私に手渡すと
「明日のも…期待してるわ」
そう言って教室へ戻っていった。
とびきりの笑顔だったなぁ。これ以上ないってくらいとびきりの笑顔。
私は気力が一気に抜けヘナヘナとその場に座り込むと、しばらく立ち上がれなかった。
昼休みの休憩にだいぶ遅れながら、サトちゃんとシュウちゃんがいる空き教室へと合流した。
「遅い!!」とサトちゃんに怒鳴られたり、シュウちゃんに「美晴、顔がフニャフニャしてるよ?」などと言われたが――そんなことより、そんなことより!!
心が幸せな気持ちでいっぱいだった。
久しぶりにちゃんと会話をした気がする。
おいしかった、ありがとうって言ってもらえた。
これからもお弁当が良いと言ってくれた。
そして何より私に向けて笑ってくれた!!
昔より大きくなった今のリオ君。
でも笑顔はあの頃のままで…何も変わっていなかった。
私とリオ君の捻れてしまった関係。
その関係を元に戻すコトができるかもしれない。
あの笑顔を見てそう思ったんだ!
「ねぇ~美晴?あんた何かあったでしょー??その顔見りゃわかるのよ!何があったのよ?言えっ!吐け~!」
サトちゃんがそう言いながら迫ってくる。
「イヤです!いいませーん」私は笑いながらサトちゃんをかわす。
そんな私たちの様子をクスクスと笑いながら見ているシュウちゃん。
とても――とても楽しい昼休みだった。