努力は惜しまない
次の日、私はいつもより1時間早く起きてお弁当を作り始めた。
普段なら前の日の残り物を適当に詰めて持って行っているのだが、今日は違う。
なんていったってリオ君のお弁当を作るのだから!!
私は昔を思い出しながら調理を始めた。
昔はよく二人でお弁当や給食を食べたっけ。
彼は食べられない物はなかったけれど、好んで食べない物があった。
逆に凄く好きな食べ物は一つでも多く食べたくて、よく私に「美晴…それ食べる?」なんて聞いてきたりしていた。
私はそんなリオ君が可愛くていつも「いいよ。リオ君食べて!」と差し出していたっけ。
私からもらった後、嬉しそうに食べる彼を見るのも大好きだった。
手際良く肉を切り、野菜を炒め、できた料理をお弁当箱に詰めていく。
普段より十倍真剣に作った料理は、我ながら彩り鮮やかで美味しそうに見えた。
コレなら…少しは美味しいって笑ってくれるかな?
私は料理を終えると素早く支度をして家を出た。
お弁当を大事に持ちながら、今日も今日とて早朝登校だ。
学校に着くと、靴箱を開けることなく私はまっすぐ教室に向かう。
土詰めの下駄箱は…いつか必ず片付けます!
教室に行くと、遠目からでもわかる変化が私の机にあった。
私の机はゴミまみれになっていた。
机の上に散らばったお菓子の袋や丸まったプリント。
どこかのクラスのゴミ箱をそのままひっくり返したのだろうか?
そして大きな文字で『死ね!』と書かれていた。
だから死なないってば。
私はゴミを片付け机の文字をゴシゴシと万能薬ベンジン様でこすった。
心ない言葉は綺麗に消え、ほのかに残るゴミっぽい臭いは
「こんなこともあろうかと!持っててよかったファブですよ~」
携帯用消臭剤で吹き消した!私ったら本当に準備万端です!!
すべてを綺麗にしてから、椅子に座り私は教科書を広げた。
勉強して頭の中を空にしよう。
嫌なコトは考えない!それに…今日はもしかしたらリオ君の笑顔が見れるかもしれないのだ!
彼が私に向ける顔はいつも不機嫌そうで…私に向けて笑ってくれたのは、昔仲良しだった時だけだ。
もう一回笑ってくれるかもしれないチャンスの日なんです。
泣きべそモードでいるわけにはいかないのです!!
顔をパチパチ叩いて気合いを入れ私は真剣に教科書と向き合った。
――
―――
――――時間が経つのって早いですね!
ハっと気がつけばクラスの大半が登校してきていて、なんと横にはサトちゃんがニコニコ顔で座って私を見ていた。
「うっわ!いつからいたんですか?サトちゃん??」
「えっ?私?うーんと10分くらい前からかしら?」
「声かけてください!びっくりしたぁ~」
「あら?かけたわよ一応。でも美晴って真剣モード入ると音とか聞こえなくなっちゃうでしょ?」
確かに!そうかもしれない!それにしても、
「今日も登校が早いですねサトちゃん?ちなみに今日も何も変化はなかったのであしからず」
「フフッそれも心配だけどね~ほら昼休みはこっち来れないこともあるじゃない?クラスの子に捕まっちゃったりしてさ?だから昼来られないかもしれない分、朝美晴に会いにきてるのよ。後、今日は修二もお昼用事ないって言ってたから三人でお昼食べましょ!」
なるほど…サトちゃん!大好きです!!!
私はフニャっと笑いながら「サトちゃん好きです~愛してます~」と言い抱きついた。
サトちゃんは「ヨシヨシ~イイ子ね~」と言いながら私の頭を撫でてくれた。
しばらくイチャイチャしていたらシュウちゃんが来て「紗都子、時間。帰ったほうがいい」と告げた。
「そんなことわかってるわよ。…だいたいねー修二が同じクラスなんだから美晴と一緒にいて結城から守ってやらなきゃいけないのに、それができてないのがいけないんでしょう?だから他クラスの私が出張してきてるんじゃない!」
「出張ごくろうさま。俺も一緒にいてやりたいけど…部活のほうもあるし。それにクラスで俺が美晴と話してると余計に話がこじれるからな。困ったもんだよ…結城はもうちょっと素直になったほうがいい。」
「あ~確かにねー。それわかるわぁー」
サトちゃんとシュウちゃんは何やらリオ君の話で盛り上がってるようです。
素直ってなんだろう?リオ君は何に素直になれないんでしょうか??
不思議に思って「どうゆうコトですか??」と質問したのですが
「「美晴は知らなくていいの!」」
って言って教えてくれませんでした。うーん気になります。
本格的に時間になり、サトちゃんは自分のクラスへと帰って行きました。
そして入れ替わりのようにリオ君と担任の先生が入ってきて、朝のホームルームの開始です。
私は自分の席からリオ君に向かって軽く頭を下げました。
声は掛けられなかったけど…これで許してくれるよね?
朝のホームルームが終わり、1時間目の授業が始まる――1つ時間が進むたびに
私は鼓動が少しずつ早くなっているのを感じた。
トクンっトクン
心臓が高鳴っていく。
昔のように笑って欲しいその願いが叶うかもしれない。
人によってはソレだけのこと?って思うかもしれない。
でも、私は――私の心臓はそのコトだけでいっぱいだ。
もうすっかり諦めていた。
リオ君と私のこの拗れた関係。
どうにもならないコトだと諦めてしまっていた。
でも…もし少しでも…昔のように笑い合える関係に戻れるなら――
努力は惜しまないって思えるから。
机の横にあるお弁当箱。
授業を受けながらも意識はソコに向けられる。
ちゃんと渡せるだろうか?
渡すとき声は裏返ったりしないだろうか?
受け取って…もらえるだろうか?
美味しいって笑ってくれるだろうか?
全ては4時間目の終了からだ。
私は授業を受けながら時計を見上げ息を飲んだ。
4時間目の授業が終わるまで――あと10分。




