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笑ってくれるかな?

リオ君とは教室が一緒でも、受ける教科は選択制で選べるものもあり、パシリとして常時奉仕しているというわけではない。


私は自分が履修した教科のたびに教室をせわしなく移動した。


廊下を歩けばチラチラと好奇の視線を浴び、「あの子が結城君の婚約者だよ」なんて声も聞こえる。

わかってはいたが、情報の伝達スピードの速さにビックリだ!



もう学校中の人が知っているのかもしれない。



あぁ…こんなに注目を浴びるのは年に球技大会と体育祭だけだと思っていたのに。

『どんくさ美晴』の名を遺憾なく発揮する球技大会と体育祭は、最早目立つのは宿命だと自分に言い聞かせ、バレーボールを顔面でキャッチして笑われようが、障害物競走で障害物のネットに絡まり脱出できなくなって笑われようが、気にせず私も笑っていられたが



どんくさ美晴ってだけでも悪目立ちしてたのに…はぁー。ため息が止まりません。



でも嫌だからって泣きべそかいてるワケにはいきませんよね!

仕方ないんですよね、よーく考えたら。

有名企業の息子さんで学年上位の成績を修めスポーツ万能。

ここまででも十分すぎるのに、母親ゆずりのスラッと伸びた身長に、碧眼が似合う洋風作りの綺麗な顔。

女の子が放っておくワケがありませんよね?


そんなリオ君と幼なじみで昔は仲良しさんだったってだけでも

妬まれる要素になりそうなのに…何の間違いか今や私は婚約者。


妬みを通り越して殺意…が向けられるのも仕方ない!仕方ないんです!


私は再度今の状況を整理して覚悟を新たにした。

戦うと決めたのだ!ワケのわからない婚約にも、繰り返されるであろう嫌がらせにも!



唯一あらがえないのはリオ君からの“お願い”だけだ。



昔はパシリって感じではなかったけど、やっぱりお願い事は多かったし…ほいほい言うこと聞いていたからな~なんかこう…体に染みついちゃってるんですよね!多分!!


4時間目の授業を終え、選択授業から帰ってきた私は、席に戻ってくるなり顔をパチパチと叩いて気合いを入れた。


お昼タイムの始まりをむかえ、そろそろお声が…



「美晴ーお願いがあるんだけどさ」



…やっぱり。

私はリオ君の席の側まで行き、少し緊張しながら

「なんですか結城君?」と言った。さてさて新クラスになって初めてのお仕事内容は――


「今日は購買のパンが食べたいんだよね。買ってきてくれる?サンドイッチとカレーパンと後、焼きそばパンかな。あと飲み物も頼むわ、パックのカフェオレね」


「私のもついでに買ってきてよ藤波さん、私は缶のミルクティーね」

「俺のもついでに、パックのバナナミルクよろしく!」


私はこんな風大量注文になろうと予想して、ポケットから取り出したメモ帳にみんなの言った要望を書き出していった。


一通り買い出す物を聞き、「では、行ってきますね」と伝え教室を出た。

後ろから「うわ~マジでリオのパシリなんだーウケルー」などと聞こえたが…



聞こえなかったフリをした。



もつれそうになりながらも小走りで急ぐ。

購買は教室から離れた場所にあり、大量に品物があるからと言って、もたもたしてたら何も無くなってしまう。

なんて言ったって中等部と高等部の生徒が買いに来るのだ。私はこの混雑にもまれるのが嫌でお弁当持参で来ていると言うのに…この一年間は購買と学食でパン購入と座席取りに奔走しなくてはならないのだろう。

やっと着いた購買は既に中等部と高等部の人でごったがえしていて、注文の物を買うのは難しかった。

…と言うか、我が学校の焼きそばパンは大人気の一品で、4時間目終了のゴングと同時に購買までダッシュしないと手に入れられない代物である。

『どんくさ美晴』の異名を欲しいがままにしている私に買えるわけがない!



買えないなんて…そんなのわかりきってたコトなのに…。

なんで焼きそばパンを買えなんて言ったんだろう?



案の定焼きそばパンは売り切れていて、買うことができなかった。

はー…。代わりにいくつか調理パンを買ってみたが…どのみち何か言われるのはまぬがれないな。

憂鬱な気持ちで教室に帰ると、開口一番に「おせぇよ!」とどなられる。



「あの…結城君?焼きそばパン売り切れちゃっててね?代わりのいくつか別のを買ってきたのですけど…」



小さくなりながら報告する私に、リオ君は顔色一つ変えずに文句を言い放つ。


「はぁ?俺は焼きそばパンが食いたかったのに。お前本当にトロいな。…つうかトロいお前に頼んだのが無謀だったってやつ?」


「そうだよリオ、藤波さんじゃ無理だってぇ~キャハハ」周りの人が笑い出す。

…そうです。私じゃ無理なのです。正論すぎて何も言えません。


「まぁいいや。今日はコレを我慢して食ってやるよ。――そのかわり…ねぇ美晴?明日からお弁当作ってきてよ」


「お弁当…ですか?」


「そうだよ。お前料理好きなんだろ?俺もさー将来のお嫁様が料理ベタだと困るわけ。だから食える物作れるか俺が判定してやるよ。だから明日は弁当作ってこい。わかった?美晴」



正直、購買ダッシュがなくなるのは嬉しい。どんくさい私には人で溢れる購買で物を買うのは至難の業だからだ。

料理も大好きで、お母さんにいつも「上手になったね」と言われる位には作れる。

だからお弁当作りのほうが購買ダッシュより数十倍マシだ!



「聞いてるの美晴?」



「はい!聞いてます!わかりました。明日はお弁当作ってきますね!」

ぼんやりと考えていた私は元気よく返答して席に戻り、自分のお弁当を広げ始めた。


明日はお弁当を二つ作るのかー…私とリオ君のお弁当二つ分…うーん何を作ろうかなぁー


イロイロと考えながらお昼を過ごす。

普段はサトちゃんとお話していたり勉強していたりするのだが、今日はなんだが明日のことで頭がいっぱいだ。

春の暖かさでウトウトと眠くなりながら、夜ご飯の使い回しは止めようとか彼の好物って何だったっけーなどと考えていて、フっと気がついた。



我家には男性用の大きいお弁当箱なんて無い。



放課後、嫌がるサトちゃんをつれてお弁当箱を買いに行った。

サトちゃんは「あんなクソ野郎に美晴のお手製弁当を食わせるなんて…やっぱりもうSATUGAIするしかない!!」なんて言って敵意を露わにしている。

そんな息巻く彼女をよそに、私は…嫌われているのは重々承知しているのに少し心がウキウキしていた。



コレにリオ君の好きな食べ物いっぱい詰めたら――また昔みたいに私に笑ってくれるかな?



そんな考えが私の頭の中をいっぱいにしていた。

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