優しい友達
机につっぷしていた私はノソノソと起き上がり、鞄から教科書をだした。
高校3年は大事な時期。
きちんと勉強を頭にたたき込んでおかないと、大学に上がれない。
しょげてばかりじゃいられないのだ!
リオ君やサトちゃんみたいに元からの出来が良くて教科書読めば勉強なんてしなくても、そこそこの点が取れるなんて特殊スキルは持ってないし。シュウちゃんみたいにスポーツ万能でそっちの方面から推薦がもらえるってこともない。
なんて言っても運動センス0ですから!
私は教科書をめくりながら昨日まったく頭に入らなかった授業の復習を始めた。
しばらくすると人がバラバラと登校してくる。
周りの雑音も気にせず勉強をしていると、何やらバタバタと走ってくる音がした。
この音は多分――
「美晴!おはよー!!」
やっぱり。サトちゃんです。
私の数少ない友達の一人、片岡紗都子ちゃん。
遠く離れたクラスから遙々このクラスにまで足を運んでくれるなんて!持つべきモノは友達です。
サトちゃんはまっすぐに私の席に来ると隣の席の椅子に勝手にすわり、話かけてきた。
「相変わらず学校に来るの早いわねー一体何時に登校してきてるわけ?」
「おはようサトちゃん。今日はちょっと早起きしたのでいつもより一時間半ぐらい早かったかなー?」
「うげぇ。早すぎだよ美晴。本当、生活習慣がおばあちゃんよねー。夜早く寝て朝早起きとかさーイマドキの若者の生活と真逆を地でやってるんだもん。信じられない!」
サトちゃんは辛口少女です。思ったコトをズバズバ言うのが彼女のモットーだそうで、私のことをおばあちゃんと言います。まだ高校生なのに…。
そんな彼女の異名が『黙っていれば薔薇の花』。黙って大人しくしていれば薔薇の花のように綺麗なのに…残念!っという意味がこめられた名だそう。
でも裏表のない彼女のその言葉は、時に反感をかったりもしますが、私は思ったコトをストレートに伝えられる彼女が大好きです。
「健康的な生活と言ってください。それで…何か用ですか?サトちゃんがこんなに早く学校にいるなんて珍しいです。いつも遅刻ギリギリなのに…なんかあったんですか?」
「あのねぇ美晴?アンタのコトが心配で早く来たんでしょうが!…大丈夫だった?何にもなかった…?」
あぁ…サトちゃんは本当にイイ子です!こんな私を心配して早く来てくれたなんて!
感動です!泣いちゃいそうです!
本当はすでにイロイロあったんですが、私の華麗な下準備で物事はすでに解決されているのです!
「何もないですよ~やだなぁサトちゃん。テレビや漫画の見過ぎです!何かあると思ってたんですか?なんかあったら今頃私テンパって大パニックですよ」
私は手をヒラヒラを振りながら笑い顔で話す。どうか嘘がばれませんように!
サトちゃんは訝しんだ顔で私を見ながら「美晴がそう言うならいいわ」と言った。
なんだがバレてそうな気もしますが、まずまずと言ったところでしょうか?
「それにしても昨日は凄かったわねー。結城のバカが盛大に発表したせいで。どのクラスでも美晴と結城の話ばっかり。あーもう!私の可愛い美晴がとんでもない迷惑を被ってるっていうのにあのバカ涼しい顔しやがって…!いつか闇討ちしてやるわ!正面切って襲ったら返り討ちに遭いそうだから闇討ちよ!闇討ち!」
闇討ちかぁ…私が闇討ちしたら鼻で笑いながら返り討ちに遭いそうだなぁ。
ぼんやりとそんなコトを考えていた時
ガララララ
クラスのドアが開いた。とたんにいろんな声がドアに向かって発声される。
「おはよー結城。」
「リオ君おはよー。今日も眠そうだねー」
「おはようリオ。昨日なんでメール返してくれなかったの?」
彼が入ってくると一瞬でクラスの空気が変わります。
まどろみを残した空気はリオ君によって一気に蹴散らされ、活気のあるものへと塗り替えられる――私一人を残して。
「ゲっ。遅刻ギリの結城が来たってコトはもう時間か…あーもう!なんで私は美晴とクラスが違うのかしら!!」
サトちゃんは席を立つと椅子をしまい帰りはじめた。
私はサトちゃんに引っ付きながら、教室の後ろ廊下側にあるリオ君の席の側まで行く。
昨日は朝の挨拶をしなくて怒られた。なので、今日は勇気をだして挨拶をって作戦だ!
本当のコトを言うとリオ君の側はなんとなく近づくのが怖い。
キラキラした人が多くて畏れ多いですっていうのもあるのだけど
約数名の女子の方々の視線が今にも人を殺められますってくらい殺気立っているからだ。
私なんかを目の敵にしなくてもと以前は思っていたのだが…
リオ君の『婚約者』発言があった昨日なんて、遠い席にいるにもかかわらずビシバシ突き刺さる視線が痛くて痛くてたまらなかった。
敵意100%の方に好んで近づく人はいない。
でも本日から始まったであろう謎の方…と言うかリオ君のファン?の方々との嫌がらせバトルと同様にこの殺人的視線を私に送る方々とも水面下でやり合って行かなければならない。
私と彼の馬鹿げた婚約話が無くなるまでこの状態は続くのだから。
私の前を歩いていたサトちゃんがリオ君の席の前で止まる。
私はサトちゃんの後ろから少し出ながら、席に王様のように座るリオ君に「結城君おはよう。」と言った。
よし!ミッションコンプリート!と思ったとたんに、
「おまえさー一人じゃおはようの一言も言えないのなー。さすが『どんくさ美晴』だわ」
リオ君から痛烈な言葉の右ストレートが飛んできた。
グフゥ。おっしゃる通りです。
正論すぎて何も言えない私を、チラっと一瞥したサトちゃんは、私をかばうように前に出て、リオ君相手にとんでもないコトを言い始めた。
「あのさぁ結城。美晴はねアンタみたいなゲス野郎が声かけていい人物じゃないの。元来フルスイングでシカトするのが好ましいアンタみたいなヤツに、天使な美晴がわざわざ声を掛けてあげてるわけ。わかる?わっかんないかなーアンタ昔っからバカでゲスな男だもんね。」
ちょいちょい!天使ってなんですか?私のコト?うわーい。
じゃなくて。
何言ってるのサトちゃん!なんちゅーことを口走ってるんですか?!!
「何?喧嘩売ってるの紗都子?俺売られたもんは買う主義なんだけど?」
あぁ…リオ君の顔がどんどん怖い顔になっていきます。
私の見たくない。怖い顔…。
「買ってくださって結構よ?なんなら買いやすいように値引きしましょうか?最低クソ野郎のリオ君?」
サトちゃんが威勢良く啖呵を切り、決定的に試合開始のゴングが鳴ったかと思われたその時だった。
「なにやってんのお前ら。喧嘩ならよそでやんなよ。迷惑。ってか予鈴なるよ?」
シレっとした顔で二人に声を掛けたのはシュウちゃんで、どうやらバスケの自主練で登校が遅れ今来たばかりのようだった。
喧嘩している二人の間をどこ吹く風で突っ切り、シュウちゃんは席についた。
「ふん!貸しにしといてやるわ。でもいい?私の美晴を無駄に振り回さないで!酷いコトしたら闇討ちしてやるんだからね!!」
サトちゃんはそう捨て台詞を言うと来た時と同じように全速力で駆けていった。
そして丁度よくチャイムがなる。
私は胸をなで下ろしながら席へと帰った。
にしてもサトちゃん…闇討ちする相手にネタバラしは良くないと思います。