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黄泉戻師(よみし)  作者: 星歩人
31/57

第三十話 旅の終焉

 なんという事実。なんという運命なのか。姉弟きょうだいで命を取り合うとは。いったい、この二人の間に何があったというのだろうか。

 とにかく、多大な犠牲を出しながらも、西の蛮族の親玉である百鬼姫の討伐はこれで終わったのだ。


「兄者!」

 裕次郎兄貴顔をした正盛の弟、宗盛が馬を飛ばして来る。後方には何十頭もの騎馬隊が続いている。馬はここ来る途中で追い返した筈だと思ったが、別部隊がいたと察知した。宗盛の後ろには女官が乗っている。

「宗盛、万事抜かりは無かったか」

「ああ、雫殿が居てくれたおかげで、助かりもうしました。淀みの壺はすべて封印しもうしましたぞ」

「正盛さま、姉上は、」


 雫は馬を降り、正盛に近づいて事の次第を悟った。そう、そこには澪のむくろが横たわっていたのだから。

「そうですか、姉上はみまかったのですね。けれど、我らの宿敵、百鬼姫を討ち果たしたのですから、これも運命なのです。葬儀はわたしたちの方で執り行います。正盛さまは、とりあえず谷でお体を清め、お召し物をお着替え下さいませ」雫はそう言うと、後ろに控えている女官と豪力に指示を出した。そういえば季節はいつなのだろうか。雪は無かったし、紅葉も目にしなかった。新緑が多いから春先だろうか、大昔は現代ほど暑くはないからな。日も落ちてきて外は意外と肌寒い。正盛は裸になり、女官に体を清められている。


「デカ!」


 こんな時に不謹慎ではあるがまじまじ見ると立派な技ものに相違ない。数々の女たちを抱いてきた男の象徴と言うべきだろうか。

 まあ、正盛は身長も高いからな体格比ならむしろ普通なんだろうが。女官も真剣な顔つきで、正盛の体を拭き上げている。男の象徴が眼前にあってもマジな顔つきだからちょっと怖いな。


 着替えた服はどうやら祭事の衣装のようだ。つまり、弔いの式を執り行うというのだろう。季節は冬ではなさそうだから、日を置けば腐敗の進行も早くなってしまう。国に持ち帰る暇もないのだろう。だが、霞は国へ返していた。霞は地元民という言い方は適切ではないかもしらんが、きっとこの地方の生まれのものだったのかもしれない。あるいは身分の違いか、遺言に沿ったか。



 澪は正盛とその家来が見守る中で荼毘にふされている。そして、すぐその横も荼毘にふされている者がいた。誰あろう正盛の姉、桔梗である。桔梗の首は奈落に切り落とされたと思っていたが、損傷がないところを見ると、実は首の皮一枚で繋がっていて、奈落へは落ちなかったのかもしれない。

 とは言っても先に落ちているため、血の気はなく、変色していた。だが、顔は安らかな感じを漂わせている。百鬼姫が首を切られた瞬間は本当に黄泉の顔に見えたのだが、今見る死に顔のそれは、そうは見えなかった。黄泉に似ているとも似ていないともわからなかった。ただ、それを見る正盛の気持ちは、非常に落ち着き払い、怒りや、悲しみの強い感情は鎮まっている。


あねさま、安らかに。いずれ、正盛もそちらへ参りますが、しばし、お待ちくだされ」


 荼毘にふされている桔梗の首は針と糸で胴体に接合された後、衣服も着替え整えられていた。二人の荼毘の火の中から霊体のようなものがゆらりと出てきた。それは空中で円を描きうっすらと夜空に消えていった。


 そして、俺の目もさめた。見えたのは白い天井だ。頭にはヘッドギアがはめられ、体もベルトで固定されていた。体の中央の下は無毛の不肖のムスコが鎮座し、その先端から管が出て、ベットに結えられたビニール袋に小便が溜まっている。


 そして、黄泉をはじめとする女どもが視界に入って来る。なんちゅう恥ずかしさ。いや、むしろ喜ぶべきシュチュエーションなのかな。彼女らの手によって、体に貼り付けられたセンサーのようなものが外されはじめた。時折、不肖のムスコに素手が触れて来る。一応、不謹慎だと我慢はするのだが、美しき女子に見惚れほんの僅か気を抜いた途端、我がムスコはちょっぴり大きくなってしまった。事態はそれだけに留まらず、管が抜けている先端から濃厚な男汁がいかばかりか勢い良く出てしまった。


「まずい、出ちまったああああ」


 気まずい気持ちになったのもつかの間、即座に拳骨が腹に入った。この感触は、黄泉だ・・・・


****

***

**


 姉貴のニードロップで俺は目を覚ました。いつの間にか自室にいることに気づいた。今日はいつになく姉貴のテンションが高かい。ノーブラTシャツ越しのヘッドロックからのコブラツイストもいつになくきついが、おんなの香りも強く、幸せなシスコン野郎を満喫出来た。これは姉貴なりの俺へのご褒美なのかな。


 風呂に行けば、全裸のマユが話しかけて来る。いつもの変わらぬ光景ってのが悲しいなあ。普通なら幼なじみの女の子のシャワー姿とのニアミス対面ってのは、ドキドキものの萌ハプニングなのによ。自分の裸をオトコに見られても平然としてやがる上に、普通に話しかけて来るって、どういうこったよ。

 マユが去ったシャワー室でぼやく俺がいる。いつものように「補修があっても部には朝顔出せよ」と言って家に戻るマユ。「たく、俺はあいつの何なんだよ」と、ふてくされる俺。


「それはキミ。簡単なことじゃないか。キミは彼女にとってはペットなみの存在ってことなのさ」

 相変わらずグサッと刺さる物言いをしてくれますよ。我が師匠で上司の黄泉さまは。まあ、お決まりではあるが、何だとと反論しようと仕切り戸板の脇から除けば膝蹴りが来る。なんとか防御するが、湯気で女神の素肌は見えずじまいである。


 食卓へと行けば、大盛り飯をかっ食らう黄泉さまがいる。こんだけ食っても太らないってんだから、大したものである。いつだったか、学食の余りもので大食い対決を強いられ、俺は完敗し、後でその金額を給料から差っ引かれた。あいつの言い分は、国家の仕事とはいえ学生の身分で分不相応な大金を手にしてもろくなことはないから、こうやって公立の学校の役に立てればお前も本望だろうとか言いやがった。

 学食の献立はうちの親父がアドバイザーをしてるから安い食材ながら旨い食事ではあったしな。でも、なんか素直に喜べねーよな。


 学校に行けば、二バカは決まって、女の話だ。中学の時は、エロ本とエロビデオの話が多かったから、生身の女に話題が向いたってことは俺らもいかばかりか成長したんだろうな。マサは姉貴にぞっこん、田上はマユにぞっこん。俺は、澪にぞっこんなのかな。霧子も結構、気になってるんだよな。それと何かわからないのだが、二人とは何かえもしれぬエロいい関係をしたような気がしてならないんだ。マジに言うとセッ○スをした感じなんだな。でも、実際にしたんじゃないんだ。夢のようなんだが、妙に実態感があるんだよなあ。

 澪や霧子と風呂に入ったり、一緒に寝たのは小学校の低学年までだし、高学年になると霧子は俺を避けるし、澪は積極的だったが、オトナの恋に憧れ距離は置くようになったよなあ。


「健児、カミさんが呼んでるぞ」


 教室の後ドアの当たりから、クラスのヤンキー谷崎の声がした。振り向くと谷崎の姿はなく、生徒会長さまの霧子が立っていた。カミさんというのは小学校時代からの霧子のあだ名だ。もちろん俺に対するときのな。俺を避けていたとは言っても事あるごとに口やかましく俺に説教たれる姿が周囲の連中の母ちゃんに似てたのだろうな、知らないうちにそんなあだ名が定着してしまったんだな。


 高校でそれを知ってるのは、小学校からのダチってことなんだな。谷崎は見てくれは茶髪でヤンキーっぽいが、普通クラスでは学業成績では学年五位の秀才のぐるいなんで、俺もよく世話になってるんだよな。

「なんだ、霧子」ドア口に立って俺は話しかけた。空いたドア口の向こうに頬に板上の痣をもらってのびている谷崎の姿がある。霧子の板胸には広辞苑が。

「健くん、今日、放課後ヒマ?」

 なにー、霧子が俺を誘っている。いや、待て、こいつは生徒会長だ。きっと、俺の仄かなエロ心を見透かして、色仕掛けで俺に労働奉仕させないとも限らないぞ。気をつけろ、健児。


「ああ、ヒマだよ」

「そ、良かった・・・・」

 彼女の口からとんでもないサプライズが飛び出し来て、俺は自分の耳を疑い、通りかかった寿子のほっぺたをぎゅうっとつまみ、肘うちを返され夢でないと自覚した。俺はうれしさのあまり走り出し、スキップをしてしまっている。


 やったぜ、霧子とのデートを取り付けたぜ。待ち合わせ場所は、六時半に旧校舎の裏庭だってよ。ええ、いったい何をしてくれちゃうんだ。マサにもらったゴムをついに使う時が来たのかなあ。うしししし。


 退屈な午後の授業も終わった。旧校舎への足取りは軽い軽い。部活?、例によってフケだフケ。一年の朝比奈は呆れ顔だったが、快く部員の稽古を引き受けてくれた。さすがは男子剣道部の副部長だ。朝比奈よ、心配するな。大会一週間前には顔出して、合宿もやって練習もして、部員の稽古もつけてやるさ。

 だが、今の俺様はうら若き女子との淡い触れ合いに身を焦がしたいんだー、うははははー。

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