第十六話 夏のひととき
夏休みを一週間と数日前に迎えた土曜日の午後。俺たちは、河原でバーベキューをやっていた。どういう集いかと言えば、木村健児殿慰労会なのだそうだ。お前ら部活はどうしたんだ。たまには休息も必要なんだろうけどな。
俺が通う守手高校は、文武両道、男女平等を掲げる校風で、部活は男女混合で一つの部をなしている。我が剣道部の部長はマユ、副部長が俺だ。だが、都内や全国の大会は男女で別れるものが多いから、そのときは男子剣道部の部長はこの俺なのだ。
慰労会を企画したのは、守手高二年三馬鹿3号にして、ワンゲル部の幽霊部長、田上義久、十六だった。通常帰宅部のこいつがワンゲル部なのは、校則で二年の二学期までは何らかの部活に所属する決まりがあるので、同好会から部に昇格して間もないワンゲル部に身をおいたという訳だ。この慰労会もワンゲルの部活動にちゃっかり入れてやがった。それよりも部員五人が全員二年で大丈夫なのか?
それにしても、俺の慰労会とは言ったものだ。なんのことはない。俺をダシに俺の周囲の女どもを友釣りしようという魂胆見え見えだ。同意したのは、各運動部の部長と副部長、マネージャーおよび生徒会役員どもだった。俺のヒーロー談にかこつけた、お騒ぎ会だ。生徒会抜きなら、缶ビールが出るところだが、今日はしおらしくコーラやジンジャーエールで乾杯だ。
ではでは、俺が引き連れているメンバーを紹介しよう。
トップバッターは、我が守手高校のO.B.にして元、合気道部の部長、木村愛女、二十三。男しばき数、百数十人、我が姉貴殿だ。
そして、守手高きっての才女で、特別進学クラス、二年一組の聖女、神平小夜、十六。ただ今、木村健児宅にて下宿中、不良グループに襲われているところを、木村健児に助けられ、彼に夢中・・・・、え! そういう設定なのかよ。
続いて、神平小夜護衛の前御巴、十七? 護衛ってナニ?
「はじめまして、木村二尉。私、神平小夜一佐の護衛隊長隊長の前御巴一尉です。ちなみに、現在、”おふくろの味”敷地内剣道場屋根裏部屋”にて下宿中です」
「って、キミ誰? 朝飯時にいた新入りのまかないか?」
「はい、今後ともよろしくお願いいたします、ちなみに私はスク水で、ゼッケン付きです!」
おいおい、何だよこのオバさん。いったいいつ来たんだ。ふもとのバス停「久遠寺」に着いたときいたっけか?待てよ、この声聞き覚えがあるぞ。婆ちゃんの法事の時、麗香との会話の時に妙なことを耳うちした奴だな。
《麗香さんとはその後、どこまでいきましたか?》
――――、なに! 今、頭の中で声がしたぞ。だが見渡すとあのスク水オバさんの姿は見えなかった、幻聴な上に、幻覚か? 疲れているのか俺。
気を取り直そう。えーと、続いては、私立久遠女子中学のラクロス部の部長兼エース、勅使河原このみ、十四。父親はスコットランド系日本人で、陶芸家、尺八奏者、琵琶奏者、木版画家と日本人以上に日本文化を継承する希代の芸術家、勅使河原丈治の長女にして、小学生時代に台風の日に川に落ちたところを、助け出した木村健児に片思いを寄せる濃幸の美少女。普通、薄幸じゃねー?
ええとそれから、俺とは幼稚園の頃からの幼馴染で、幼稚園から高校一年の一学期まで、クラスメートだった守手高校生徒会長の岩崎霧子、十七だ。生徒会が監視役で行くのだから来たんだろうが、果たして水着になる勇気はあるのか?このメンツーで。にしても、まとめ編んだ髪の上に帽子、ランニングシャツに短パン姿は、なかなか様になっている。ペタと誤解していたが、想像以上に山が高いことは確認できた。「いで!――――」
「健くん、ごめ――――ん、手が滑っちゃった」
どう手が滑ったら、トングが俺の頭に飛んでくるんだよ。――――、まったく、この手の話題には敏感な奴だから、心に思っても感づくから危険だ。
それから、それから、おお、特別クラスから普通クラスへ編入して来た、我がクラスのマドンナ、白鳥麗香、十六だ。おっと、今は母方の旧姓に戻って藤崎麗香だったな。このニュース、つい昨日だったからびっくりしたぜ。両親が離婚する家庭も今や少なくないが、ある日突然に姓が変わるって、子供にとってはどういう気分なんだろうなあ。
彼女自体は、藤崎と呼ばれた方が心地良さそうな感じだったけどな。それに我が木村家とは彼女の母方が遠縁の親戚筋で、結婚も可能とかいうのはどうも本当のようだ。でも、いきなり結婚可能とか言われたら、やばい妄想に襲われて、彼女の顔がまともに見れないと思ったけど。さすが、女好きの俺だ。気づけば、馬鹿話も飛び出すほど普通に話せている。
彼女の水着は、Tバック的な大胆さはなかったが、彼女らしい奥ゆかしい雅な色使いに白いヒラヒラがついてさあ、生唾ものなんだよなあ。ビキニやTバックなんて羞恥心のかけらも無い裸同然!
俺が言うのもなんだが、あれはもはや猥褻物陳列にも匹敵するぞ!
いやー、それにしても見慣れてないから、局部に目線を集中させないようにしないとなあ。
そして、真打ちは、我が校、陸上部員兼剣道部部長にして、最強の女戦士、早瀬真由美、十七だ。こいつについては語ることもないけど、こいつは小学校一年の時に隣に越してきた。もともとは今の家に住んでいたらしいが、マユが生まれた後、神奈川県の湯河原町に転居して、貸家にしてたんだな。転居の理由は、マユの婆ちゃんがリュウマチだったかで温泉地に引っ越したとかなんとかで、それでその婆ちゃんも亡くなって、子供の育成にいい場所をって、本来の故郷に帰って来たというわけだ。
マユを最初に見てびっくりしたのは、彼女が、テレビのヒーロー戦隊ものや、ホームドラマ、映画に出演していた子役だったからだ。テレビで見ている女の子が目の前にいるのだから、俺も、マサも、田上も、豪田も凍りついたよなあ。
それから一週間もしないうちにいきなり道場に来て、俺に勝負を挑んで来た。もちろん、俺の敵じゃなかったが、あいつはめきめきと実力を挙げてきて、半年で俺を負かしやがった。その後も、一進一退で完全な勝負はついていない。っていうか、どうでもいいじゃないかという態度をとると、「ふぬけ」呼ばわりして鬼神のごとく言いよって来るんだなあ。
幼馴染で生徒会長の霧子の双子の兄貴も誘ったが、来なかった。双子の兄貴、貴博と俺達三馬鹿は竹馬の友と言える仲だったしな。今じゃ都内の進学校で寮生活だし、週末は殆ど帰ってこないから滅多に会え無い。いい機会だと思ったんだがなあ。
でも、彼がもしも来てたら男どもは焼け食いモードだっただろうな。霧子と同じ顔つきだからすごいイケメンなんで、大半の女子どもが群がったかもしれないからなあ。
「健児くん!」
自分の年齢と彼女居ない暦が一致する連中が声を揃えて、俺に挨拶して来た。それも、とてつもなくでけー声で、耳の鼓膜が破けるかと思ったぞ。
「す、すごいなー、彼女」
指をさす野郎どもの視線は、岩山に発つスレンダーで白い肌に、赤地にピンクと白の刺繍がはいったビキニをまとう、ショートの金髪にダークグリーンの瞳の美少女、勅使河原このみ、十四に釘付けだった。
「あ、お兄ちゃん!」と、飛び跳ねながら俺に手を振る、このみ。男どもの痛い視線が俺に刺さってくる。
「まさに、天使だ・・・・」と、田上義久、十六が固唾を飲む。
「ああ、そうだな」以下、運動部部長と副部長どもも。悟りの境地にで目覚めたかのような様子だ。
「おお、こっちもいいぞおおおお」
魂が今にも抜けそうな、テニス部の部長で悪友の神谷恒正が、羨望のまなざしで見る先には、木村愛女、二十三が、布の少ない白いビキニに身をまとい、更にこのみよりも高い岩山に立っていた。
そして、華麗な背面ひねりで飛び込んだ。続いて、このみが前転して飛び込んだ。二人が水中に沈んでから十数秒後、先に、姉貴が両手胸を押さえて浮上する。
「み、水着がー」
めったに聞けない、姉貴の黄色い声が沢に響き渡った。流れにそって、白い何かが浮かんで流れている。所謂、水着がとれちゃったハプニングだ。
それを聞きつけ、血走った目をした部長連中が次々と川に飛び込んだ。しかし、急に流れは速くなり、気付けば、断崖だ。彼らの雄叫びが徐々に小さくなり、どぼん、どぼんと立て続けに音がした。そう、彼らは滝壺まで落ちていったのだ。
「ふー、やっと静かになった」と肩をなでおろす姉貴殿。当然だが、水着は外れていない。落としたのは競泳用の白い水中キャップだったのだろう。姉貴はバーベキューエリアへ行き、肉を焼き始めた。
滝壺までは約十五メートル。奴らが山を登って戻って来るまで一時間はかかるだろうな。アホだな、まったく。
そして、我が黄泉様は、仕事でエネルギーが相当に消耗したんだろうか。腹が減って動けない様子で、ハンモックでお昼寝中。当然、例の簡易日よけを使っている。
こやつ最近では、ついに少量の弁当に我慢できなくなり、大食らいに開き直りをみせた。屋上までしゃらくせいと、教室で食いはじめたのだ。だが、食べても美しい体型を維持している教祖的存在として、女子学生はおろか、女教師達の注目をも集めている。
確かに、身長も高くスレンダーでスタイルはいい。いったい、あの体のどこに飯がおさまっているのかと不思議に思うくらいだ。
バーベキューエリアでは、裏方の生徒会役員どもが、黄泉様に供物を献上している。当然、甘味屋のたい焼きと特濃牛乳もある。黄泉は匂いにつられて、目をさまし、お得意のグルメトークをしながら食い始めた。
さて、さて、パーカーの下の水着はなんだろうか。「期待しとけ!」と、数日前からはしゃいでいたが、まさか、ゼッケン付きのスク水じゃねーかとか思ったけど、飛び入りがそれやっちまったから、二番煎じはなさそうだ。
しかし、前御巴、十七って何だ。確かにおかしなまかないが数日前からいることには気付いていたが、力いっぱい自衛官だよなあれは。
「はい、よくお気づきで。私、前御巴、仮称一七は防衛省自衛隊所属の自衛官です」
突然、俺の眼前に前御巴が現れた。いつ現れたんだ。さっき、突然に消えて、また現れている。忍者かこいつは。
「仮称十七? あんた本当はいくつ?」
「年齢は、・・・。女性に年齢を聞かれるのは、セクハラです。でも一応、申しておきます、二十四です。木村総監の指示で三日前に着任いたしました。国家権力を持ってすれば編入などお茶の子さいさいです」
「職権乱用だよなあ。それよりも木村総監って誰だよ?」
「木村昭之助総監です」
「爺ちゃんてまだ現役だったのか?」
「木村総監は、関東第二支部の現役総監であります。おふくろの味地下がその基地であります」
なな、なんですとおおお。
「あなたの抜擢も、黄泉一佐や私の赴任も偶然ではなく、必然だったというわけです。もうじき大作戦がおこなわれます、今はひとときをお楽しみくださいとの伝言です」
何だか質の悪いドッキリだよな。急に俺が、運命の人のように思えてしまうんだがなあ。期待されて悪いが俺は、性春まっただ中のオンナの色香に酔いまくる健全な高校生男子なんだけどな。
まあ、何事も無いというのなら、平和で何よりだ。マユのことは心配だが、今日は思いっきり楽しむぞ。そういえば、マユはどこへ行ったのだろう。さっきから、姿が見えないぞ。
「健児――――!」
ゾンビのような連中が滝を登ってきた。一時間もかからずに、三十分で登ってきやがった。さすが、脳まで筋肉と言われる連中だけのことはある。
それぞれ手にはいろんなものをつかんでいた。川魚や山菜、ウサギ・・・っておいおい。狩猟でもしてたのか、姉貴が水着のダミーとして流した競泳用キャップを手にしていたのは我が友、神谷恒正ことマサだった。ガキの頃から、うちによく来てたから、姉貴への執着心は人並み以上だろう。
「姉さん、落とし物をとって参りました」
さっそうと手渡すマサに、姉貴の反応は以外と優しく、「うむ、ご苦労、神谷くん」と、焼き上がったスペアリブを手渡した。あいつ、感激のあまり涙を流してやがる。あの肉、大事にしまって家に持って帰る気じゃないよな。
新聞紙につつんでいやがる。リュックにいれたぞ。持って帰る気だ。おいおい、食えよ。帰るの明日だから、この暑さじゃ、腐っちまうぞ! 食中毒起こすぞ! まあ、言ってもきかないだろうなあ。惜しい友を亡くしたよ。
「はい、お兄ちゃん」
このみがその罪深き胸の谷間の前につきだした皿の上には、チキンのもも肉とステーキ、トウモロコシがのっていた。しかし、俺の目線はその先のふくよかな胸の谷間に釘付けだった。
中二でこれは反則だ。いや、犯罪だ。さすがはハーフ、いや昨今ならダブルというべきか、純血日本人よりも発育が早い。いかん、変な気を起こしている。いかんぞー、俺、落ち着け、落ち着くんだ。相手は発育しすぎてはいるが、まだ中学生なんだぞ、それにここは人目が多すぎる、漢火山を鎮めるんだ!
「健児――――!、食うのは、このあたしと勝負してからにしろ!」
この颯爽とした勇ましい声は、マユだ。
「ハマミ・・・・・」
皆が固唾を飲んで、声のする方向を見るとジャケットを正義のヒーローのマントのように羽織った、ハマミが太陽を背に、さっき姉貴が立っていた岩に突っ立っていた。最近、きゅっとしまった顔や体に野獣どもの性欲が再び沸騰し始めた。
「ハマミ、ハマミ、ハマミ・・・・」
野獣どもはハマミことマユを連呼し始める。
「勝負って、一体、何を勝負するんだ、俺が勝ったらデートでもしてくれるのか?」
すると、むっとしたマユは、俺めがけていきなり、ジャケットを投げつけきた。まるで、重量があるかのような直球だった。もちろん、石などは入っていない。落とすと激怒するので俺はしっかり受け取った。
ジャケットが脱げた瞬間、野獣どもは太陽の光で目がくらみ、マユの御姿を直視できなかった。まもなく、太陽に雲がかかり、マユの姿がはっきりと見えた。
頭には白い競泳キャップ、水着は競泳用水着だった。
「健児――――、貴様!」
野獣どもは涙を流しながら向かってくる。言いたいことはわかる、何で、彼女にビキニを着させないのかと言うのだろう。だが、そんなのは毎年のことなのだ。
「健児、これをあいつに付けさせろ!」
田上義久が鼻息荒く、どこで買ったのかわからない、上下の白い布地に赤い紐のビキニを差し出して来た。
「おまえ、サイズがあうのか?」
「ぴったりだ、俺の家は洋裁店だ。女の服のサイズは体を見ればわかるんだよ」
田上、おまえ、その才能は別のことにいかせないのか?
「もしかして、これ、お前が作ったとか言わないよな」
俺は、心配になり聞いてみた。すると、田上は言葉を発さずに暑苦しくも真剣な顔を俺につきつけてきた。こいつの真剣さ認めたいが、男子生徒が手作業で作った下着同然の水着を果たして、同級生の女子が裸の体にまとうのだろうか?
高校生にしてプロ並みの腕を持っていることは、認めたいが、ものがものだけにマユに言いにくいものがあった。
「なるほどな。これをあたしに着て欲しいのが条件なのか?」
マユが俺と田上の間ににゅっと顔を突っ込んで来た。
「いや、田上はそうだと言ってるが、俺は、さすがに、なあ」
「いいよ、受けてやるよ。わたしが負けたら、この水着をここで生着替えしてやる。たかが、お祭りだ」
願いが叶い鼻血を出す野獣ども。言った田上まで大量の鼻血を垂らしてやがった。
「俺が負けた場合はどうなるんだ。今日、一日、マユの奴隷か?」
「はあ、何、楽なこと言ってんだ。それなら、普段と一緒じゃねーか。
そうだなあ、明日、家に帰り着くまでこの水着を着るというのはどうだ」
俺はずっこけずにはいられなかった。皆は大拍手だった。おいおい、何を言い出すんだよ。待てよ。おい、黄泉、じゃない神平さん、このみさん、麗香、憧れの彼氏のそんな姿見たくないよね。反対だよね。
俺は、そっと黄泉の方を見た、すると、鏡を使ったモールス信号を送ってきた。登山もやる俺には普通に理解出来た。なになに。
《死んでも勝て! 負けたら修行は三倍の上、五年は辺境地任務に就かせるぞ!》
顔はかなり怒っている。いつもは、この手の戯れ言は笑って済ませているやつが、今日はやけに真剣だぞ。俺に恋しているは設定じゃ無かったのか? マジになるなよ。
「お兄ちゃんがどんなに恥ずかしい目にあっても、あたしは耐えるから、あたしはお兄ちゃんの味方だから」と、このみさん。嬉しいと思っていいのだろうか?
「健児がんばって、キミならやれるよ。例え負けてもこれはお祭りだよ、楽しく行こうよ」
麗香、きみはとても前向きだなあ。なんか勇気出てくるよ。だが、俺は肝心なことに気づいてしまった。物理的に無理であることを。
「残念だが、マユよ。お前と俺では体格が違う。いかにお前が太かろうが、男の俺の体格には勝てん!」
「心配するな健児。この水着の生地は体にフィットする新素材だ。少々伸びても着れるはずだ。お前が勝負に負ければ、マユに着せる機会は失うが。お前に着せることでテストにもなるから俺はかまわんぞ」
田上、その研究心はすごいが、親友ならここは降りろよ。マユの為に作った水着が悲惨なことになるかもしれないってのに、なんだその冷静さは!
「ちょっと待って! 国際学生女子寮も隣接するような場所で、そんな破廉恥な格好で練り歩くなんて、生徒会としては認める訳にはいかないわ!」
おおお、霧子。おまえ、いい奴だなあ。流石、我が幼馴染。みんなに言ってやってくれ、お前の正義を皆に見せ付けてやってくれ。
「でも、これはお祭りですからね。商店街までは賛成できませんが、この場でならやっていいと思うわ」
お前も着せる方に賛成なのか霧子よ。そんなもの着せたらかえって卑猥だぞ。おまえは風呂屋でいろいろな種類を見慣れているだろうが。ここの女子どもにそこまでの免疫はあるのか、あろうがなかろうが、やはり、そんな無様な格好はできない。絶対にだ。マユ、俺は負けんぞ!
俺は男どもに連行され、コースについた。往復、約五十メートルの競泳だ。折り返し地点で行き過ぎると滝壺に落ちてしまう。これを落ちずに、反転し、ゴールへ着けばいいのだ。だが、心配ない。泳ぎでは五分五分だ。プールでは負けることも多いが、川なら俺の方が泳ぎ慣れている。
マユは何かにつけて勝負を仕掛けて来る。こうも挑戦をけしかけられる理由は不明なんだが、賭の対象はマユにとってはいつもたわいもないものだったが、俺にとっては洒落にならないものばかりだった。
女子高生の水着生着替えは、まずいだろうってか?心配ない、ここにいる野獣どもは、ほとんどがチェリーだ。マユが脱ごうとした時点で鼻血ふいて見てられんだろう。それに、姉貴もいるから、見ようとすれば、蹴りや突き、体落としが来るさ。
当の俺は、マユとは今でも道場での稽古の後に一緒にシャワーを浴びてるし、あいつは時折、真っ裸で、声かけてくるし、お互い見慣れているという恐ろしい関係なんだな。
特に姉弟の弟なんざ、風呂上りで全裸で家の中を歩き回る姉の姿を毎日のように見てる奴だっているんだぜ。
この勝負どう考えても、俺の方が百パーセント分が悪い。田上お手製のビキニで商店街まで歩けは、霧子のおかげで無くなったが、ここで着替えることは無くなっていない。何がお祭りだ、これは俺にとっては人生最大の屈辱だぞ。絶対に負けられん。絶対に負けんぞ俺は!




