THE DARKNESS WING ダークネス・ウィング
太陽の光が眩しい昼間。
いつもと変わらぬ風景のドレイクシティ高速道路。
排気ガスに汚染され、道路にはネズミウィルスが蔓延していそうだ。
いかにもこの病んだ腐敗都市にマッチした高速道路。
しかし、この街では車の交通量は多い。
ロサンゼルス並みである。
一般車から、市バスなど、様々な車が走っている。
今日も渋滞だ。
なかなか進まない列に皆イライラしている。
そんな列の中に、帽子と様々な表情のマスクを被った黒ずくめの男が3人乗ったSUVがあった。
「全く、イライラさせやがって・・・」 怒り顔のマスク男の1人が口にすると、
「まあ、落ち着けよ、まだ時間はある。」
冷静な笑い顔のマスク男が宥めた。こいつがリーダーなのか?
「なあ、どうしてそんな落ち着いてられんだよ?」
短気なマスク男が尋ねると、冷静なマスク男は答える。
「失敗するぞ。」
「現実的な奴だ・・・」
短気なマスク男は興味なさげに溜息をつくと、運転している無表情のマスク男が言った。
「前の車が進んだ。急ぐぞ!」運転手のマスク男はスピードを上げて、前の車を抜かしていく。
「まだ時間はあるんじゃねえのか?」短気なマスク男は運転手のマスク男に聞いた。
「遅刻すれば、金は半分らしい。ボスが言ってたんだ!」
「ボス?ガキみてえなこと言うんだな。で、そのボスってのは?」
「さあ、俺も素顔は見たことないんだ。」
「なんだ、見たことねえのか。」
彼らがそんなやり取りをしていると、車はある建物に到着した。高級ホテルだ。
「他の2人は?」
「中だ。」
3人は高級ホテルに入ると、挨拶してくるホテルマンをスルーして、素早くエレベーターに乗り込んだ。
「ホシは何人だ?」
「ボディガード2人、部下6人、ポッチーノ、そして関係ないが売春婦1人だ。」
「野郎どもとポッチーノのアホ面は最悪殺るとして、売春婦はヤッちまうか?」
「お前ら、静かにしろ。何が待ち受けてるかわからん。」
エレベーターは20階へと到着。3人はサブマシンガンを取り出し、奥の部屋へと進んでいく。
部屋の前まで来ると、短気なマスク男の合図で突入した。
「取引は止めだ!おとなしく全額を渡しやがれ!クソブタども!」
しかし、ポッチーノはやけに落ち着いた様子だ。
「おお、よく来たな。お前たちの勝ちだ。金は用意してある。持って行け!」
ポッチーノのボディガードは金の入ったバッグを3人のほうへ放り投げた。
短気なマスク男は銃を向けながら恐る恐るバッグに手をやろうとした次の瞬間、ベランダに隠れていた取り引き相手のギャング数人が飛び出して、銃撃。短気なマスク男は射殺された。罠だったのだ。すかさずソファーに隠れる2人。そこに残りの2人もやってきた。
笑い顔のマスク男は2人に状況を伝えた。
「1人死んだ!相手は数が多すぎる!」
舌を出した顔のマスク男と、泣き顔のマスク男は「別の部屋からベランダの奴らを片付ける!」
と言って部屋を飛び出していった。
「おい!このままじゃ全滅しちまうぞ!」
笑い顔のマスク男は止めようとしたが、意味は無かった。
すると、無表情のマスク男は手榴弾を取り出し、べランダ側へ放り投げた。
大爆発して、吹き飛ばされるベランダ。残ったのは無表情のマスク男と笑い顔のマスク男、売春婦だけだ。
「お、お前・・・まさか・・・」笑い顔のマスク男が言いかけると、無表情のマスク男は拳銃で射殺した。
バタリと倒れた笑い顔のマスク男のわき腹を蹴って死んだことを確認すると、もう1発意味も無いのに彼の胸に撃ち込んだ。無表情のマスク男は傍で泣きながら怯える売春婦に近づくと、彼女に問いかける。
「ハーイ、お嬢さん。怖かったか?泣くことはないぜ?」
それでも涙を流し、黙り続ける売春婦を見て、まるでおもちゃに飽きた子供のように離れていった。彼が立ち去ろうとすると、破壊したベランダから声が聞こえてきた。
「助けてくれ・・・」
声のしたほうへ向かう無表情のマスク男。
彼はしゃがんでこう言った。
「おお~、運のいい奴だ。まだタマを落としてないみたいだな。よし、助けてやろう・・・」
そう言いながらマスクをとったその素顔は長髪に、ピエロとも悪魔ともつかないメイクにゴムでできた異様に長い鼻を持った不気味な男だった。
「ホラ、こうしてやるよ!」
怪人は男の掴んでいる手を踏みつけたのだ。
落下していく男。道路に落ちた男の死体を見て叫ぶ民衆。
「おい!下から落っこちてきたぞ!」
「大変だ!警察を呼べ!」
怪人は薄ら笑いを浮かべ、「アディオス。」
と言って立ち去った。
数分後、警察が駆けつけ、現場調査が行われた。
市警の刑事であるティム・ミラー刑事とアマンダ・ジェンキンスは破壊されたベランダを調べていた。
「こりゃ派手にやったな・・・証拠隠滅ってか・・・」
ミラーは落ちていた瓦礫の破片を手にして言った。
「目撃者の証言によると、犯行グループはマスクを被った5名。4名が死亡し、1名逃走。売春婦が素顔を見たらしいわ。」
「素顔だと?どんな奴だ?」
「長い鼻の男。」
「長い鼻?冗談だろ?まさにエレファントマンじゃねえか。」
「作り物の鼻よ。」
「作り物にしたって長い鼻はおかしいだろ。」
ミラーは鼻で笑った。
「売春婦の頭がイカれてたとしか思え・・・」
と言いかけたとき、ロドリゲス警部補が部屋に入ってきた。
「そいつはピノキオだ。」
「ロドリゲス警部!」
彼が入ってきたと同時に態度を変えるミラー。
「君は奴を知らんだろうな。1ヶ月前、奴の事件が3件あった。強盗2件、殺人1件。君が配属されてくる前だ。
そのときは大掛かりな犯罪じゃなかったんだが、今回は違う。これは我々に対する挑戦状なのかもな・・・」
「ファルコンマンは?」
「彼か?奴は無法者だ。我々だけで調査する。」
ロドリゲス警部がそう言ったとき、ドアにある人物がやってきてこう言った。
「なぜだ?なぜ彼と共に戦わないんです?」
「君は・・・デレク・ジョンソンじゃないか!」
背の高い男デレク・ジョンソンは若くしてこのドレイクシティの新しい市長となった男だ。
ハンサムな顔を持ち、秀才で正義感が強く、野心に溢れた男だ。
「なぜ、彼と協力しないんです?ファルコンマンはこの街のシンボルだ。彼のおかげで犯罪を減らせてきたのに・・・」
デレクは浮かない顔をして言った。
ロドリゲス警部は少し黙り込んでから言った。
「確かに私たちは奴に助けられてきた・・・ でも凶悪な犯罪者が現れた以上、我々が体を張って行動するしかない。ヒーローは漫画や映画の存在なんだ・・・」
ロドリゲス警部はそう言い残し、現場を後にした。
その夜。
チャイナタウンにあるレストランの裏路地で、2つの組織が取引を行っていた。
1つは中華系マフィアのトライアド。もう1つは日本人系マフィアの
イシイ・グループ。
トライアドのボスであるラウ・ファーリーは以前取引したヤクのことで心底怒っていた。
「お前のクソ親父のせいで客がエライことになっちまった。責任とれ!」
父親の後を継いでクレイジータイガーのマスクを被ったショウゴは言い返す。
「んなもん知るか!親父がてめえらを狂わせたいからやっただけだろ!チャーハン野郎!」
イシイグループのメンバーは一斉に銃を構える。
そんなところに、プロレスマスクとコスチュームを着て、銃を持った男5人が現れた。
「何だ、あいつら!あれがファルコンマンか?」
無知なショウゴが言うと、
「馬鹿野郎!ファルコンマンはあんなにたくさんいねーよ!」
と、ラウが突っ込む。
彼らがそんなやりとりをしていると、マスクマンたちは銃を撃ってきた。
「撃ち返せ!」
ショウゴが叫ぶと、彼の部下とラウの部下対マスクマンの銃撃戦が始まった。
拳銃、サブマシンガン、ショットガンなど様々な銃器がぶつかり合うさなか、ビルの屋上から暗視スコープで監視する男がいた。闇に溶け込むような黒を基調としたコスチュームに、猛禽類の爪を思わせる金色のライン、しなやかだが、強靭なウイング、そして胸のハヤブサを模ったエンブレムは血のように赤い。スコープをベルトに装着すると、「彼」は混沌の戦場へと翼を広げた。
マフィアたちが上を見上げる。ラウが叫んだ。「真打登場だ!」
ペンのような飛び道具でマフィアの銃を落とし、卓越した格闘能力で1人また1人と薙ぎ倒していく。その姿はまるで獲物を狩るハヤブサのよう。
「彼」がファルコンマンだ。
ファルコンマンにとってはマスクマンも例外ではない。パンチやキックで彼らを怯ませ、拘束する。
しかし、ラウを取り逃がしてしまった。奴はスポーツカーに乗っていて追いつけない。いや、ジェットサイクルかポーターを呼び出せば簡単に追いつけるのだが。今の状況がそうさせてくれない。
「俺のマネか何かは知らないが、二度とこんなマネはするな!」
ジェットポーターを呼び出したファルコンマンは彼らに警告する。
「別に俺たちはお前のマネをしてるわけじゃない!俺たちはエンジェルズ!自警団だ!」
エンジェルズは叫ぶ。
「悪党退治は遊びじゃないんだ!」
ファルコンマンはそう言うと、ジェットポーターに乗り込んで、走り去っていった。
数時間後、ノーラン邸でトビアス・キートンはTVで子供向けのアニメを見ていた。
これがファルコンマンの表の姿だ。彼は職を持たないいわばニート。サム・ノーランの金で生きている。
しかし、こんな彼にも悩みごとが2つあった。1つは自分がファルコンマンで在り続けられるか、もう1つは幼馴染のメアリー・スミスとの関係だ。
周りに話せる人がいない彼にとっては辛いことだった。いや、サムがいるのだが、また違う。
ぼぅとソファに横になっていると、サムがやってきた。
「どうした、トビアス?具合でも悪いのか?」
「別に。疲れてるだけだよ。」
「本当か?それだけには見えんがな。」
「いや、何もないよ。それより、スーツが重いんだよ。」
「スーツ?コートじゃないのか?」
「スーツって、ファルコンスーツのことだよ。」
「ああ、それなら早急に造れる。わが社は社員が増えたからな。それとサーシャがお前の為にツールを製作中だ。」
「本当?望遠鏡とペンは役に立ったよ。助かったって言っといて。」
「製作中のブツを見に行くか?」
「今日はいいよ。また明日。」
トビアスはそう立ち上がって自室に戻ろうとしたとき、サムが言った。
「トビアス、お前にとってはグッドニュースじゃないかもしれないが・・・」
「もう良いよ。お休み。」
トビアスはそのまま部屋へ戻っていった。
彼の背中を見てサムは1人つぶやく。「言って良いのか悪いのか・・・」
翌朝。サムの車でトビアスはノーラン産業第二最先端研究所へと向かっていた。
研究所は大掛かりな施設で、セキュリティは万全だ。
この研究所は約250人ものスタッフが働いている。
サムはカードキーで研究所のドアを開けた。研究所に入っていくトビアスとサム。
2人は地下へと向かい、特別施設へ。
そこでは技術者のサーシャ・ケンジントンが、仕事をしていた。
「おはよう、サーシャ。どうだ?調子は。」
サムの声に気づいたサーシャが振り向いた。
「あら、社長、トビアス。おはようございます。」
「おはよう。」
トビアスとサムは挨拶を返した。
トビアスは、ショーケースに入った装置に目をやると、サーシャに尋ねた。
「なあ、これは何?」
「ああ、それね。今ノーラン産業で製作中のスカイシップの脳ミソよ。」
「脳ミソ?」
「ええ、人口知能のね。まだテスト中だけど・・・」
「君1人で造ってるの?」
「そうよ。使用方法も私しか知らない。」
「へえ、凄いな!ところで、僕の為に造ってくれてるツールは?」
「ああ、それなら・・・」
サーシャは倉庫から箱を取り出してきた。
「昨日完成したんだけど、ナビゲータよ。潜水艦に搭載されてるソナーの要領で敵のコンピューターにブラックアウトしたり・・・とか言ってもわかんないわよね? とにかく、サイバーテロに対抗するメカってとこね。チップを変更するだけで無線機にもなるの。」
「優れものだな。これ売ったら他企業にマネされること必須だね。」
トビアスは受け取ったナビゲータを見ながら言った。
そんなトビアスを見てサムが口を挟む。
「ウチが特許を持ってる。誰にもマネさせんよ。」
トビアスとサムは顔をあわせて微笑んだ。
「ところで社長。何か他には?」
「いや、何もないよ。今日はありがとう。」
サムはトビアスと共に、研究所を後にした。
車に戻り、サムが乗り込むとトビアスも乗り込んだ。
「なあ、トビアス。ランチ行かないか?」
「あいにくだけどサムは先に帰っててくれ。車借りるよ!」
「どうしたんだ?用事か?」サムは車を降りつつ尋ねた。
「まあ、そんなとこ。」
トビアスは車で走り去って行った。
1人残されたサムは、「また1人か~」
と愚痴をこぼした。
トビアスは車で住宅街へと向かった。
そしてある家に車を停める。
トビアスは降りると、家のインターホンを押した。
暫らくしてメアリーが出てきた。
「トビアス!久しぶりね!」
「ああ、メアリー。実は一緒に食事に行こうかなぁと思って・・・」
トビアスが言いかけると、メアリーは残念そうな顔をして言った。
「ごめんなさい・・・実は先約があるのよ・・・」
「そっか・・・なら仕方ないね・・・」
「ごめんなさい・・・幼馴染なのに・・・」
「大丈夫だよ。また今度にし・・・」
トビアスとメアリーが話していると、デレクがメアリーを迎えに来た。
「やあ、メアリー。迎えに来たよ!」
「デレク!」
デレクと抱き合うメアリー。
トビアスは気になって仲良さそうにしているメアリーに尋ねた。
「メアリー、彼は・・・新しい友達なの?」
「いいえ、付き合ってるのよ!彼とっても素敵な人なのよ。市長に選ばれたし!」
彼女の言葉を聞いたトビアスは心臓がつつかれたような感覚だった。しかし、表情は笑顔という仮面に隠している自分がいる。
デレクはトビアスを見て言った。
「君がトビアスか。彼女から聞いてるよ。優しいけど・・・ちょっと頼りないってね。」
「悪い噂だなぁ・・・恥ずかしいよ・・・!」
「ところで、君も一緒に来るかい?」
「いや、僕はいいよ。」
「そうか・・・残念だな。」
デレクはそう言うと、メアリーと車に乗った。
「じゃあ、また機会があれば!」
デレクとメアリーは手を振って走り去っていった。
離れて見えなくなりそうな車に手を振るトビアス。
ガッカリした顔で車に乗ると、ノーラン邸に帰っていった。
その頃、暴力映画が映し出されたテレビの置かれた高級マンションで、3つのグループが話し合っていた。
ヒスパニック系のギャングであるディアブロのリーダー、アルマンド・ロペス。中華系マフィアトライアドのリーダー、ラウ・フォーリー。ジャマイカ系ギャング、ヤーディーズのリーダーであるジェイコブ・ヒューズらが、それぞれ部下を引き連れていた。
「ポッチーノのスパイがタイへ逃亡したらしい。」
アルマンドが酒を飲みながら言った。
「何だと!あのチキン野郎、金払わずに逃げやがったか!」
ジェイコブが机を叩いて言った。
「ポッチーノファミリーが壊滅したから金が払えなくなったんだろう。所詮、組織の金だからな。あいつは殺し屋としてはカスだからポケットマネーじゃ払えねぇってことだろ。しっかし奴はFBIの流れ者のくせに世界中に顔が利くぞ。俺たちがタイに乗り込んだとしても、奴がどんなヤバイモノを雇ってるかわからねえ。」
ラウは部下とチェスをしながら言った。
駒を動かそうとすると、誰かがチェス盤にバッグを置いてきた。
「金ならここにあるぜ。」
バッグを置いた男はピノキオだ。ホテルを襲撃したときとは違い、黒ずくめではなく、ネクタイを締め、白いコートを羽織っている。しかし、手には黒の手袋。
「お前か?ポッチーノを潰したのは。」
ラウは立ち上がると、ピノキオを睨みつけた。
ピノキオは恐れることなく話し続ける。
「何だ?お前らに渡るはずの金を持ってきてやったんだ。ホラよ! ところで俺のショーでもどうだ? この長い鼻から・・・何かが・・・」
そんなピノキオをよそにラウは部下に合図をした。
部下はピノキオに掴みかかったが、長い鼻に仕掛けられたナイフで顔面をやられた。バタリと倒れる部下。
「ジャーン!鼻から飛び出してきた刃!これぞピノキオイリュージョン!」
ニヤニヤした顔でピノキオはソファに座った。
「おやおや、お前たちが見てるのは「スカーフェイス」かなぁ?
好きな映画だ。トニー・モンタナは俺に似てるからな~。お前らもアイツみたいな死に方をしたいだろ。」
ジェイコブはテレビの電源を切ると、イライラした表情で言った。
「で、お前は何の用だ?」
「お前たちの仲間に入れて欲しいんだ。いや、組織としてじゃないぞ。・・・ホラ、お前らが1ヶ月前から随分衰退してるから、一緒に仕事がしたいんだ。いったい何があったんだ?お前らはそんなちっちぇナニみたいな奴じゃなかったはずだ。それにこんなマネーマンが隠れるようなとこでドーベルマンにビビッたチワワみてぇに震えてるんだ?なぜ、おっかねえギャングどもがパニックルームに隠れてまでマスを掻いてるのか。答えは簡単。ファルコンマンだ。ファルコンマンが現れてからお前らは手も足も出なくなった。奴はお前らより常に一歩先にいる。」
「で、結局お前は何が言いたい!?」
アルマンドが怒鳴る。
ピノキオは静かに答えた。
「俺は奴より一歩先にいる。」
「そんなこと垂らす奴に限って失敗すんだよ。お前みてぇな変人にできるとは思えんね。お前らもそう思うだろ?」
ジェイコブが仲間に同意を求めると、皆笑っていた。
「まあ、1ついっておくと、ファルコンマンは奴を捕まえにいくだろうな。あいつがファルコンマンに捕まりゃ、奴の口からはお前らの秘密が流出しまくり!即効サツにバレて豚箱行きだ。まあ、お前らがそれを望むというのなら、俺は手を離すがな。」
「もしお前と契約すれば?」
「お前らが捕まってしまったとしても俺が出してやる。サービスでファルコンマンも殺ってやろう。」
「契約金は?」
「お前らの組織の金10の内8頂戴する。」
「ナメやがって・・・おい、お前ら聞いたか?こいつ馬鹿だ!」
ジェイコブがそう言うと、部下たちのブーイングが始まった。
ピノキオは立ち上がって、コートからダイナマイトを取り出した。
「おい!何だこれ!爆発すりゃお前らの魂まで豚箱行きだぜ!?」
「こいつイカれてる!」
全員が恐怖に包まれた。
「わかったわかった!金を渡してやるから契約する!組織が跡形も無くなるよりかマシだ。」
「よし、交渉成立だ。おっと名刺を忘れてた。これが俺の目印だ。また連絡してくれ。」
そう言って机に放り投げたのは長い鼻だった。
ピノキオは去っていった。
その夜。ドレイクシティの中心にある公園でロドリゲス警部補とデレク、ファルコンマンが秘密の面談をしていた。
「ギールが逃亡した。奴はバンコクの仲間から情報を張り巡らせ、ピノキオを上手く回避しやがった・・・」
ロドリゲス警部が頭を抱えて言うと、
「ギールなんかよりもピノキオのほうが問題だと思うけどね。」
デレクが答えると、ファルコンマンに言った。
「ところで君はギールの情報について何かわかったのか?」
ファルコンマンは答える。
「バンコクのビルに潜伏中だ。今日バンコクに飛ぶ。」
ファルコンマンは走り去っていった。
「凄いな、彼・・・情報の塊じゃないか・・・なのになぜピノキオの尻尾が掴めないんだ?」
「まだ全体像が出てきてないんだろう・・・」
「・・・」
数時間後、トビアス、サム、サーシャは自家用機に乗っていた。
ノーラン社長がバンコクに旅行するという話題でテレビは持ちきりだった。
メアリーは自宅でそれを見て、トビアスのことを思った。また戦いだ・・・(トビアス・・・頑張ってね・・・)
トビアスの無事を祈っていた。
翌朝。バンコクに到着。
トビアスたち3人はギールの経営する電力会社べック・エレクトリック・コーポレーションを訪れる観光と偽ってヘリをチャーターした。
ヘリ内でサムがサーシャに尋ねる。
「ギールはFBI時代に君のライバルだったんだろ?」
「ええ、最低な男だったわ。1ヶ月前にもノーラン産業のコンピュータにハッキングしてきたし・・・奴は今回私が来るなんて思ってもいないでしょうね。2年前に流行った違法のゲームであの男に勝ちたくてハッキングしたわ。」
サーシャはナビゲータに触りながら答える。
「で、奴は?」
「奴は素早く手を引いた。でも私はハッキングがバレてクビ。奴の方が私の一歩先にいたわけね。」
「でも、今は立場が逆転したんだろ?」
トビアスはナビゲータを見せて微笑みながら問いかけると、サーシャは笑顔で、
「ええ、私が狩る番よ。あなたたちと仕事ができて光栄だわ。」
と答えた。
サムは言う。
「こちらこそ。インターネットなら君がわが社で最高の人材だからな。」
ヘリはべック・エレクトリック・コーポレーションへと到着。
社内は最新の電気機器が展示されており、荒れたバンコクの街とは対照的だった。
社長室へと向かう3人。
ドアを開けると、そこにはイタリア風の男が座っていた。この男がギ-ル・べックだ。
「ようこそ、ノーラン産業ご一行様。お待ちしておりました・・・おや?私の旧友もいるようですが?」
「彼女が今日、君に話があるんだ。その・・・企業間のことで。」
サムが説明すると、サーシャが前に出て言った。
「ハーイ、べック。2年ぶりね。」
「ケンジントン・・・まさか君が来るとはな・・・よくノーラン産業に入れたな・・・」
「ノーラン社長のコネよ。彼は私の友人だから。そんなことより本題に入りましょう。あなたが2ヶ月前・・・」とサーシャが言いかけると、ギールが止めた。
「ちょっと待ってくれ。すまんが、お2人は席を外してもらえるかな?2人っきりで話をしたいのだが・・・」
ギールが言うと、トビアスとサムは部屋を出て行った。
サーシャは2人が出て行くのを見ると、ギールへと目をやった。
「2年前と変わってないわね・・・」
「ハンサムになっただろ?まあ、そんなことはどうでもいい。本題に入ってくれ。」
「2ヶ月前、あなたがウチのコンピュータに侵入した件だけど・・・」
「何だ?それは。知らないな。他の誰かじゃないのか?」
「とぼけないで!調べたらあなたの社名が浮き上がったわ。」
「私は知らないな。社員が勝手にやったことだろ。」
「あなたではないとしてもあなたの会社であることは間違いないわ。素直に認めるなら連携企業に公表はしない。でも認めないならその逆。」
「公表したとしてもタイ国内なら問題はないぞ。」
「残念だったわね。もし私たちがあなたのやったことを公表すれば、国際警察にチクるのは確実よ?あなたたちの会社と私たちの会社の力の差を考えなさい。」
「フンっ。国際警察が追ってこようものなら他国へ逃亡する。私にはポッチーノから頂戴した資産があるんだ。」
「それはどうかしら?今日であなたは終わりよ。負けを認めなさい。」
サーシャは席を立ち、言った。
「このメス犬め!私を侮辱したな!国際警察など私設部隊が排除してくれるわ!見ていろ!」
ギールは怒鳴り散らすが、サーシャは無視して部屋を出た。
溜息をつくサーシャ。
トビアスが聞いてきた。
「交渉結果は?」
「たっぷり脅してきてやったわ。私設部隊が黙っていないとかいってたけど。奴は負けたも同然。」
「そっか。ムキになる奴はやりやすいな。夜が楽しみだ。」
トビアスがそう言うと、3人は本社を後にした。
夜。自家用機からビルへ飛び移るため、トビアスはファルコンマンスーツを着て、準備にかかっていた。
サムがファルコンスーツのベルトに、侵入するためのツールを取り付ける。
「ヘマするなよ!予定通りに終わらなけりゃならんからな。」
サーシャはナビゲータの設定をギールのネットワークへハッキングするため、書き換えていた
。
「これで奴のセキュリティは解除されたわ。私たちのものよ!後はトビアス、あなたがギールを逮捕するだけ。」
「わかった。行ってくる!」トビアスはファルコンマンのマスクを被ると、手を広げ、飛び降りていった。
風に当たり、強靭になるウィング。ビルに着地すると、社内へと潜入した。
不気味なほどに静まり返っているが、展示された電機機器だけは、鮮やかな光を保っている。
そこに警備員2人が歩いてきた。
素早く格闘で倒すと、ファルコンマンは社長室へと向かった。ドアを開けると、そこにはギールが。
「手を挙げろ!撃つぞ!」
銃を向けてきたが、ファルコンマンは近づく。
ギールは手を震わせながらも、発砲した。
バタリと倒れるファルコンマン。
ギールは恐る恐る近づき、軽く蹴って死亡したことを確認すると、電話を取り出した。
そのときファルコンマンが突然起き上がり、ギールを気絶させた。
ファルコンマンは死んでいない。
銃声に気づいたと思われる私設部隊がファルコンマンに銃を向ける。
「動くな!社長を放せ!」
彼らの警告に従うと思いきや、ファルコンマンはビルのガラスを割って、飛び降りた。
上空を飛ぶ自家用機めがけて、フックショットで飛び込む。
自家用機はアメリカへと帰っていった。
翌朝。署ではロドリゲス警部がギールへ尋問を行っていた。
「お前さんはノーラン産業のネットワークに不法侵入した。いい加減負けを認めたらどうだ?」
「何度も言うが、私はそんなもの知らない。社員が勝手にやったことか、はたまた、誰かがウチのシリアルナンバーを盗んだか・・・」
「そんなもの盗めるのか?」
「まあ、凄腕のハッカーならね。でも、そんな奴は天才だ。全世界を探しても数人しかいない。そんな奴らは幾つも顔を持ってる。」
「お前さんのように?」
ロドリゲス警部は睨むように言った。
「そんなとこだな。奴らの腕前にはかなわんが。ウチの情報を共有している企業がいるんだが、その企業のどれかに裏切り者がいるのかもしれない。」
「つまり、お前さんを売ったと?」
「その通り。」
ギールは頷いて言った。
「そうか。まあ、そんなことはどうでもいい。お前さんが今回、国外逃亡したことについてはきっちり処分を受けてもらう。あと、お前さんの首がつながってる組織のことを話せ。奴らも全員逮捕せねばならんからな。」
「奴らは今頃私を狙ってるだろう。まあ、ここにいる限り、殺されることはないが。今日、奴らは集まってないだろうが、奴らはリトル・イタリーのバーを溜まり場にしている。おそらく、明日なら集まってるだろう。私の経験上、わかることはそれぐらいだ。」
「どうも、情報ありがとさん。」
ロドリゲス警部はそう言って、部屋を出て行った。
外ではサムとサーシャ、ミラーとジェンキンスがいた。
「奴は吐きました?」
ミラーがロドリゲス警部に尋ねる。
「スパイとして関わっていた組織については話していた。ただ、ハッキングの件については負けを認めなかったが・・・」
「それよ!奴が犯人じゃないって可能性があるの。」
サーシャは説明する。
「私も最初は彼の仕業だと思ったの。でももう一度調べた結果、べックのシリアルナンバーを誰かが不正に使用した痕跡が見られた。でもシリアルナンバーは第三者に知られることはないはず。そもそも公開されることはないから。そんなものを調べることができるとしたら、私やべックみたいな二流のハッカーなんかじゃできない。全世界を探してもほんの数人。ここアメリカでも2,3人しか・・・」
というサーシャの説明に、ロドリゲス警部は食いついた。
「おい、天才ハッカーが全世界に数人しかいないってのはべックも言ってたぞ。そうか、奴にそんなことは不可能なのか・・・しかし、奴じゃないとしたら?アメリカならまだしも、全世界なんて探しようがないぞ?」
「おそらく、アメリカにいるわ。」
「なぜ、そう言い切れる?」
「海外企業のシリアルナンバーを使用して、身元を錯乱させるとか・・・嫌いな国に責任を擦り付けるアメリカ人の汚い手口よ。まあ、みんながそうじゃないけど・・・」
「なんとかして、身元を割り出せないのか?」
「そうね・・・ダメもとでやってみるわ。」
サーシャは答える。
「まあ、安心しろ、ロドリゲス。彼女はウチの天才プログラマーだ。不可能を可能にする。」
サムは彼女をフォローするように言った。
「そうか・・・わかった。」
ロドリゲス警部は了解した。
その頃、高級マンションで。
ラウは部下とともにチェスをしていた。
そんなとき、インターホンが鳴る。
部下が確認すると、「ピザの宅配です。」
配達員が立っていた。
「おお、今出る。」
部下がドアを開けると、
「動くな。」
ピノキオが恐怖で震えた配達員の傍で、拳銃を突きつけてきた。部下と思われる男2人もいる。
「ラウはご在宅か?」
ピノキオの問いに、部下は言葉を失い、頷いた。
「よし、いい子だ。」
ピノキオは部下の頭を撫でると、彼に銃を突きつけ、室内に侵入。
ピノキオを見たラウとその部下は銃を構える。
しかし、ピノキオは臆することなく、要求を突きつける。
「おいおい、お前のほうが圧倒的不利なんだぜ?人質をとってるからな。銃を床に置け。」
ラウとその部下は従わず、構えたままだ。
「もう一度だけ言う。床・に・置け。」
ピノキオがジェスチャーで説明すると、ラウとその部下は銃を床に置いた。
「それでいい。」
と言って、配達員の持ったピザの箱を取り上げ、一切れを口に運んだ。
「美味いな、コレ。アンチョビがのってねえが。」
クチャクチャと不快な音を立てながら、ピザを食べるピノキオ。
「何が望みだ!?」
ラウが問いかける。
「望み?お前らの部下を頂戴しにきた。」
「ナメやがって・・・この化け物・・・」
「何だって?そうか。お前みたいな奴は俺が教育しなきゃ気づかないみたいだな。」
ピノキオはピザを置くと、ラウに近づき、彼の顔を掴んだ。
突然の出来事に震えるラウ。
「お前、ビビッたチワワみてぇだな。」
ピノキオが選択を迫ってきた。
「どうしたんだ?ビビッて言葉を失ったってか。安心しろ。優柔不断なお前の為に、俺の話を聞かせてやる。俺はガキの頃、お袋が家を出て行った。なぜかって? 親父と兄貴の喧嘩が原因さ。親父の自己中っぷりにキレた兄貴は、親父をナイフで刺殺。兄貴は俺に冷たい視線を向けてきた。で、こう言った。「お前もラクにしてやるよ・・・」もう兄貴はイカレてた。ビビッた俺は、家から離れた公園のトイレに逃げ込んだ。しかし、不幸なことに、個室の鍵は壊れてた。予想通り、兄貴は俺を追ってきた。「かくれんぼは終わりだ・・・」ってな。兄貴が俺を見つけると、銃とナイフを持ってた。兄貴は俺を捕まえてこう言った。「ビビッたチワワみてぇだな。銃かナイフ、どっちがいい・・・?」俺は小さな声で「ナイフ・・・」って言った。そしたら、兄貴はナイフで俺の首に傷をつけた!」ピノキオはカッターシャツで隠れた首の傷を見せる。
「血が出て、傷口を押さえる俺を見て兄貴は言った。「命拾いしたな・・・」ってな。」
「で・・・お前はどうかな・・・?」
と言って、ピノキオはラウの喉を切り裂いた。
血を流してバタリと倒れるラウ。
ピノキオは手を掃うと、残りの部下に言った。
「・・・さて。お次はお前たちの番だ。選ばれた者だけが俺についてくることができる。ただし、裏切り者はいらんぞ。始めろ。」
ピノキオはそう言い残して、部屋を出た。
翌日。アルマンドとジェイコブは、それぞれの部下を引き連れ、バーに集まっていた。
「聞いたか? ラウの組織が壊滅したんだとよ。」
「よかったじゃねえか。ライバルが1人減った。」
酒を飲みながら答えるジェイコブ。
そこへ、ロドリゲス警部が現れた。
「やあ、ロペスとヒューズ。久しぶりだな。」
「おお、警部さん。どうだ、1杯やってくか?」
「残念だが、私だけじゃない。友達も一緒なんだ。」
ロドリゲス警部が言うと、SWAT部隊が入ってきた。
彼らを拘束する部隊。
「連れて行け。」ロドリゲスが指示すると、部隊は彼らをパトカーに乗せた。
そこに、デレクが車でやって来た。
「とうとうやったか・・・警部、お疲れさまです。」
「いや、私じゃないよ。ファルコンマンがやった。まあ、これが済んだら奴も追わなけりゃならんよ。市長。」
「いや、彼は街の治安維持に協力してくれている。彼を支援しなければ。」
「君みたいな人間は珍しいよ。私もそう願いたいが・・・すまんな、家族と食事に行く予定なんだ。早めに帰らないと、妻に怒られる。失礼するよ。」
ロドリゲス警部はそう言って、車で走り去っていった。
一方、ノーラン邸では必死に体を鍛えるトビアスがいた。
そんな彼にサムは言った。
「トビアス!サーシャが犯人を見つけた!」
「何だって?」
「シリアルナンバーを調べていたら・・・「ピノキオ」という文字が浮かんだそうだ。今警察が捜査中のアイツだ!」
「今から研究所に行こう!サーシャから話を聞かないと・・・あとロドリゲスにも知らせて・・・」
「そうだな。急ごう・・・」
トビアスとサムは車で研究所へと向かい、サーシャに会った。
「待ってたわ。例の件なんだけど・・・多分、今テレビで噂になってるピノキオで間違いないと思うわ。
でも、どうしてかしら?いきなり浮かび上がってくるなんて・・・」
「奴の宣戦布告なのかもしれない!奴は僕たちの動きを待っていたのかも・・・」
トビアスは予測する。
「とにかく、これで奴の尻尾は掴んだ。後はトビアス。お前の出方次第だ。」
「ああ、ロドリゲスに知らせておく。」
トビアスは携帯電話をかける。
「もしもし?警部!」
「なんだ?キートンか。どうした?」
「サーシャが犯人を特定した!名前はピノキオだ!」
「何だと!?奴が?」
「ああ、宣戦布告かもしれない。」
「わかった・・・警戒を強める。」
ロドリゲス警部は電話を切った。
トビアスは携帯電話をしまうと、サーシャに尋ねた。
「サーシャ。奴の身元は?」
「それが・・・まだ掴めないの・・・相手は天才ハッカーだし・・・」
「そうか・・・わかった。もし、情報が掴めたら知らせてくれ。」
「ええ、了解。」
サーシャが答えると、トビアスは頷いて、サムとともに研究所を後にした。
サムはノーラン邸に戻ると、こんなことを言ってきた。
「なあ、トビアス。明日の夜、企業パーティがあるんだが、来るか?あのことは警察に任せて・・・ホラ、休みも必要だろ?」
サムがそう言っても、電源のついたテレビの前でトビアスは考え込んでいる。
サムは溜息をついて、部屋を出ようとしたそのとき。テレビ画面に「BREAKING NEWS」と表示され、
アナウンサーが映し出された。「緊急ニュースです。先刻、非合法自警グループ「エンジェルズ」の5名が遺体で発見されました。現場にはビデオテープが残されており・・・これが例の映像です。」
画面が切り替わると、異様に鼻の長い男が映っている。ピノキオだ。
なにやらピノキオは、エンジェルズの5人をロープで縛り、尋問している。
「お前らはファルコンマンの仲間か?」
彼らは答える。
「ああ・・・」
ピノキオは大笑いして言った。
「お前ら、笑わせるなよ!ファルコンマンが銃なんか見たら嫌がるぞ。お前たちはテレビに映ってるんだぜ?もっと笑えよ。」
「・・・」
「聞こえなかったのか!?もっと笑え!」
いきなり怒鳴り散らすピノキオ。
それでも俯いている彼らに飽きて、画面に顔を向けた。
「観てるか!?ファルコンマン。お前が俺を呼び出したんだぞ~ もし、お前がマスクを取って投降
しなけりゃ、俺は暴れる。明日の夜、ある3つの場所のどこかに俺がやってくる。ウソじゃない。この俺を止めたけりゃ、おとなしく俺の言う通りにしろ。さもなければ・・・」
ピノキオは撮影カメラを投げ出し、銃声が聞こえた。最後に映ったのは、エンジェルズの死体だけだった。
「こりゃ、エラいのが出てきちまったな・・・トビアス、奴に勝てるのか?」
「一筋縄ではいかないだろうな・・・明日のパーティは決定だ。」
「えっ?」
「奴がパーティに現れるかもしれない。」
「別の場所に現れたら元も子もないぞ!」
「やってみるしかないじゃないか。」
トビアスはそう言って部屋を出て行こうとすると、
「奴は力では勝てない!」
サムが言った。
「わかってるよ・・・ただ、僕は・・・できる限りのことをやるだけさ。」
「これだけは言っておくが・・・奴は犯罪を楽しんでいる。社会に対するイライラを我々にぶつけようとしてくるんだ。奴には物欲が無い。人々の不幸を嘲笑し、それを生きる糧にしている怪物だ・・・」
「だったら・・・僕も怪物になればいい。」
トビアスはそう言い残すと、部屋を出て行った。
翌日。ニュースを観た一般市民は、街の公園でデモを起こしていた。
皆、プラカードを掲げている。「ファルコンマンは悪魔だ!」「ファルコンマンを逮捕しろ!」
デモを抑えるため、警察は止めていた。
「皆さん、落ち着いて!ドレイクシティの至るところに私服警官を派遣しています!警戒中なので、安心してください!」
しかし、市民たちは不満を漏らす。
「何が安心だ!」
「警察など信用できん!」
「そうだそうだ!」
「ファルコンマンを逮捕しろ!」
そのとき、デモ集団の1人が銃を発砲。周囲はパニックに。
ミラーが群集を掻き分け、なんとか拘束。
ロドリゲス警部は市民に、自宅へ帰るよう説得。
なんとか抑えることができた。
そんなとき、ロドリゲス警部の携帯電話が鳴った。
「もしもし?こちらロドリゲス・・・何だって!?銀行が火事だと!?わかった、すぐに向かう。」
「ミラー、ジェンキンス。銀行に向かうぞ!」
「わかりました!」
ミラーとジェンキンスが答えると、車で銀行に向かった。
銀行は、消火活動に当たっている消防隊と、警察でいっぱいだった。
「火元は?」ロドリゲス警部は私服警官に聞いた。
「爆発物が仕掛けられていたようです。被害者の中に上院議員が含まれていました・・・」
「上院議員だと?奴の仕業か・・・」
すると、制服警官がやってきて、ロドリゲス警部に報告した。
「警部!ここから数キロ離れたレストランに車が衝突しました!車に乗っていたのは上院議員で、運転中に車をリモートコントロールされていたとのことです。」
「クソッ!遅かったか・・・残り1つの場所とは一体・・・
ミラー、ジェンキンス。お前たち2人で周辺を警戒してくれ。」
「待ってください、警部!」ジェンキンスが呼び止めた。
「今夜、ノーラン産業の企業パーティが開かれるわ!」
「そういえば市長が出席するとノーランが言っていたが・・・それがどうかしたか?」
「市長が出席するとしたら・・・彼が狙われる可能性が考えられるわ・・・」
「そうか・・・よし、私服警官に警戒を強めるよう言っておく。」
ロドリゲス警部は車に戻ると、走り去った。
夜。パーティ会場であるホテルにはたくさんの人が来ていた。
トビアスとサムはタキシード、サーシャはカクテルドレスで来ていた。「サーシャ、そのドレス似合ってるね。」トビアスが言った。「またまた・・・お世辞はやめてよね。私みたいなギークにドレスが似合うわけないじゃない?」と赤面しながらもサーシャは答える。彼らはそんな話をしながらエレベーターに乗った。
「こんな盛大なパーティがぶち壊されるのか・・・わが社はゲストたちに慰謝料を払うこと必須だな・・・」
サムが残念そうに言う。
「まあ、奴がここに現れたら僕が止めるから。」
「トビアス、お前大丈夫なのか?」
サムは心配そうに聞いた。
「ああ、全力を尽くすよ。」
トビアスは胸を張って答える。
「さあ、もう会場に着くわよ。」
サーシャが言うと、エレベーターのドアが開いた。
そこは、たくさんの人々で賑わっていた。
トビアスはそこでメアリーとデレクを見つける。
「ハーイ!メアリー。おや?デレクも一緒かな?」
「トビアス!来ていたのね!」
「ああ、楽しんでいるかい?」
「ええ、まあね。そこのお2人さんは?」
メアリーは答えると、サムとサーシャに聞いた。
「お2人さんは?」
「うむ・・・良いパーティだ。開いた甲斐があったね!」
サムは答える。
サーシャはメアリーとデレクを見て言った。
「それにしてもお似合いのカップルね!美男美女で、おまけに秀才同士。完璧じゃない!」
デレクは少し照れた顔で、「ありがとう!でもなんていうか・・・恥ずかしいね。」
トビアスは複雑な表情をしていたが、笑顔で言った。
「彼女は僕の幼馴染なんだ。大事にしてあげてくれよ。市長としてもこのドレイクシティを変えていってくれ。1人の市民として応援しているよ。」
握手を求めるトビアス。
デレクは笑顔で頷いて、握手を交わした。
「ちょっと風を浴びてくるよ。」
トビアスは握手した後、テーブルに置いてあるワインを持って、バルコニーに向かった。
ワインを片手に、夜景を眺めるトビアス。
そこにメアリーが来た。
「ねえ、トビアス。みんなの所に行かないの?」
「ああ、今はね。」
「トビアス・・・あなた変わったわ・・・」
「どうしてそんなことを?」
「いつも何かに引っ張られてる・・・そんな顔してるもの・・・」
「別に何もないよ・・・?」
「何か悩みがあるなら話してよ。もし、私が力になれなくてもすっきりするかもしれないし・・・」
「・・・。デレクは優しいね・・・。」
「えっ?」
「僕みたいな人間に認められても笑顔を見せられる。たいていは無視されるだけだ・・・」
「トビアス・・・あなたはやるべきことをやっているんだから・・・」
メアリーが言いかけると、デレクに呼ばれた。
「メアリー!ケーキを食べよう!あっ、トビアス。君はどう?」
「僕は遠慮するよ。ありがとう。」
「トビアス・・・ごめんなさい。」
「いや、気にしないで・・・」
トビアスが励ますと、メアリーは室内へ戻って行った。
彼女を見送ると、トビアスの携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
「もしもし!?キートンか?」
「ああ。」
「パーティ会場を警戒しろ!我々も私服警官を張っているが・・・奴はどのルートで侵入するかわからん!ところ市長はそこにいるか?」
「デレクならいるけど・・・なぜ?」
「奴は街の有力者を標的にしている!次に狙われるとしたら彼の可能性が高い!」
「わかった!彼を避難させるよ!」
トビアスは急いで室内に向かい、デレクを呼んだ。
「デレク!一緒に来てくれ!話があるんだ。ごめん、メアリー・・・」
「どうしたんだ!?トビアス。」
「いいから早くこっちへ!」
トビアスはデレクをトイレに連れてきた。
「一体何の話だ!?」
「奴が来るんだ!」
「奴って!?」
「ピノキオだよ!」
「ピノキオ!?どうして!?」
「警部から電話があったんだ!さあ、早く個室へ隠れて!」
トビアスはデレクを押し込めるように個室へ入れた。
「助けが来るまで動くなよ!」トビアスは急いでトイレを出て、宴会場の外にある控え室へ向かった。
と、そんなとき。エレベータから珍客がやって来た。
ピノキオとその部下4人は私服警官を銃で脅しながら、チームを代表してピノキオが、
「レディース アンド ジェントルメン! メインショーの始まりだ!」
と叫んだ。
「デレク・ジョンソンがどこにいるか知ってる奴はいるか!?」
「・・・・・・。」
当然、誰も知らない。
ピノキオはテーブルにあったワインを飲み、ゲストたちにサブマシンガンを向け、怯えさせる。
「誰も知らないのか!?ならば・・・デレクの家族でもいい。はたまた恋人や友人でも・・・」
ピノキオが言うと、メアリーが恐怖で震えた手を挙げた。
それに目をつけたピノキオはゆっくりと彼女に近づきながら、
「おや・・・お嬢さん~ いい女だな・・・・ジョンソンが羨ましいぜ~」
と言って顔を向けてきた。
「震えてるな!?ビビッたチワワみてぇだ。でも野郎どもとは違って可愛いな・・・俺を見ろ・・・」
ピノキオはメアリーの肩を無理やり掴み、自身のほうへ引き寄せた。
「ああ~、近くで見たらもっと綺麗だ・・・俺の高校時代の女を思い出すよ。」
「離してよ!このバケモノ!」
必死に抵抗するメアリー。しかし、ピノキオは態度を変えず、
「おいおい、抵抗しても無駄だぞ?力の差を考えろ。まあ、いい。話を聞かせてやろう。俺の高校時代、お前さんにそっくりなクラスメートがいた。俺は魅力的な彼女のことが好きだった。ある日、俺は彼女に想いを伝えようと、手紙を送った。俺は彼女の返事を待って待って待ちまくった。しかし、返事が来ない。俺は彼女に会いに、家へ行った。真実が知りたかったから。彼女は言った。「あなたみたいな嘘つきのバケモノなんて、誰が好きになるの? ママにでも愛されてなさい。」俺は持っていたペンで首を切った。」カッターシャツの傷を見せ付けた。「彼女はその場で嘔吐。俺は傷が残ったが、今を楽しく生きてるぜ!」とピノキオが言うと、メアリーは彼の足を踏みつけた。
「痛てぇ!なかなかやるな。俺は強い女が大好きだ。」
「この俺はどうだ!?」
ファルコンマンが現れ、ピノキオを吹っ飛ばした。
「かかれ!」
ピノキオは部下に指示する。
部下はファルコンマンに拳銃を落とされ、やむをえず格闘戦に。
しかし、ファルコンマンは苦戦せず、部下を次々と気絶させる。
1人残った部下を盾にする卑劣なピノキオだが、ファルコンマンに投げ飛ばされ、機械仕掛けの鼻からナイフを突き出し、それでファルコンマンを傷つけた。
ファルコンマンがよろめいた隙に、メアリーを人質にとるピノキオ。
「王道な展開だな~ファルコンマン!」
「彼女を離せ!」
「お決まりのセリフで来るか~ わかった。望み通り離してやる。ホラよ!」
ピノキオはメアリーをバルコニーの外へ突き落とした。
大笑いするピノキオ。
ファルコンマンはバルコニーを飛び降り、救助用マジックハンドでメアリーキャッチ、
ホールドしながら地面へ。メアリーを怪我させないように、自身が地面に着く。
「ありがとう・・・デレクは無事!?」
「ああ、彼は問題ない・・・」
「よかった・・・もしあなたがいなかったら・・・」
息切れしながら震えた声で言ったメアリーにファルコンマンは頷いた。
翌朝。市警本部では、ロドリゲス警部とミラー、ジェンキンスらが、
ピノキオが次に起こすであろうテロへの対策の為、話し合っていた。
「いいか?奴はいつ、犯罪予告をするかわからない。我々は警戒をより強めることにする。
街の各地にSWAT部隊を配置。緊急時に出動することができるように。ミラーはSWATを指揮しろ。ジェンキンスは私と引き続き捜査。他の者も同じ。以上が署長からの指示だ。」
ロドリゲス警部が手を叩くと、全員動き出した。
と、そこに殺人事件の報告が。
署のスピーカーから放送された。
「ドレイク公園の西で遺体が発見された。男性1名だ。現場へ急行せよ。」
ロドリゲス警部とジェンキンスは現場に急いだ。
現場には、喉を掻き切られ、血を流して倒れた男の死体が。
「凶器はナイフか?」
「ええ。そう考えられるけど・・・これは?」
ジェンキンスは、テーブルに置かれた写真に目をやった。
男が2人、ペンでマルをつけられている。
「口封じの為なのかしら・・・」
「このカメラの機材・・・被害者は写真家か・・・誰かに雇われてピノキオを追っていたのか?」
「またはその逆で、ピノキオが被害者を雇っていたとか・・・でも、自分の情報を外部にばら撒かれるのを恐れて殺したことも考えられるわ。」
「うむ・・・だが、奴が「偽名」で雇っていたとしたら、雇い主がピノキオとは特定できないぞ。」
ロドリゲス警部が推測していると、
「ピノキオは雇い主じゃない。雇い主は他の「誰か」だ。」
ファルコンマンが来ていた。
「奴は口封じでその男を殺害。となると次の標的は、雇い主だ。」
「なぜ言い切れる?」
「今、俺の協力者が奴のコンピュータにアクセスしている。まだ、防御システムを打ち砕けていないが・・・」
「雇い主がわからない以上、我々は探すこともできないぞ!」
「とにかく、あらゆる手を使って情報を流すしかない。雇い主を見つけて保護するんだ。部下に伝えておけ。」
ファルコンマンはそう言い残し、ベランダを飛び降り、去っていった。
トビアスは帰宅して、すぐにテレビをつけた。
ニュースでは、雇い主捜索中の話題。
トビアスはすぐにサーシャへ電話した。
「サーシャ。起きてるか?」
「ええ、仕事だからね。どうしたの?」
「被害者を雇った主を探しているというニュースは見たか?」
「当然。今やってるやつよね。それがどうかした?」
「街のコンピュータにハッキングして、奴を見つけ出せないか?」
「あなた、正気!?そんなことしたら社長の首が飛ぶわよ!いや、それはないだろうけど、彼が困るのよ!?やりすぎだわ!」
「それはわかってる・・・でも早く見つけ出さないと・・・」
「街のやつはガードが薄いからハッキングは余裕だけど・・・プライバシーの侵害だし・・・それに1つ言っとくけど、全ての人は救えないのよ?多少の犠牲は伴うことだって・・・」
「君がやらないならいい。」
「何言ってるのよ!あなた1人でできるわけないでしょ?わかったわ・・・私のナビゲータでハッキングする。ホントはテロ対策に造ったんだけど・・・あなたのナビゲータにもハッキングデータが残るから、私がハッキングを終えたらすぐに破棄すること。いいわね?」
「わかった。ありがとう・・・」
トビアスはそう言って電話を切った。
翌朝。トビアスの携帯電話にメールが。
「ハッキング完了。ついでに情報も匿名で流しといたわ。」
安心したトビアスがテレビをつけると、ニュースが。
テロップには、雇い主ゲイリー・チャップマン保護と出ていた。
しかし、画面は切り替わり、「BREAKING NEWS」
「先ほど、当放送局にビデオが送られました。「ピノキオからの挑戦状」と書かれています・・・またもやピノキオの悪魔のような犯罪が繰り返されるのでしょうか?こちらが映像です。」
どこかの汚い部屋にピノキオが映っている。
「やあ、凡人ども。そしてファルコンマン。どうもファルコンマンが投降しねぇみたいだから、あるプランを考えてみた。よく聞けよ、サツども。今日の12時50分までに、ゲイリー・チャップマンを殺せ。さもなければ、子供たちでいっぱいのスクールバスを爆破する。どのスクールバスかはお楽しみだ。さあ、始めよう。」
ビデオはここで終わっていた。
トビアスはテレビの電源を切ると、サムへ連絡。
「サム、聞こえるか!?」
「何だ、トビアスか。どうしたんだ?会議中だぞ?」
「ごめん・・・ポルシェを貸して欲しいんだ。」
「構わんが・・・なぜ?お出かけか?」
「まあ、危険なお出かけってとこかな・・・」
「なら、ジェットサイクルで行けばいいんじゃないのか?」
「いや、今回はファルコンマンの出る幕じゃない。」
「なるほど。市長と同じように素顔で戦うのか。護武運を!」
「ありがとう。」
トビアスは携帯電話を切り、ガレージに向かった。
ポルシェに乗り、出発。
トビアスは車内で、ロドリゲス警部に連絡した。
「もしもし、警部!ゲイリーは無事か!?」
「おお、キートン。彼は我々が避難させている。奴は本気でスクールバスを爆破するつもりだ!」
「学校は休校にしたか?」
「ああ、だがスクールバスのチェックがまだ終わってない。爆弾バスを見つけたらどこか無害な場所へ移動させねば・・・待てよ・・・今、部下から連絡が・・・爆弾バスが見つかったらしい!」
「場所は?」
「南方のスラム街にある学校だ。何とか市民を巻き込まずに済んだが・・・ピノキオはまた犯罪予告を宣伝するに違いない・・・」
「そうだな・・・」
トビアスは携帯電話を切り、ノーラン邸へと戻っていった。
夜になり、トビアスはノーラン邸の自室のベッドに横になっていた。
様々なことが頭をよぎる。
メアリーとのすれ違い・・・
デレクへの劣等感・・・
悪魔のような凶悪犯罪者ピノキオに対して、手も足も出ない絶望感・・・
そんなことを考えていると、サムが部屋に来た。
「奴の犯罪は止まる気配がないな・・・」
「なぜ、奴に勝てないんだろう・・・」
「前にもお前に言っただろう?奴は自身の快楽で犯罪を犯してる・・・お前が正体を明かして、投降するしか勝つ方法は無いんだ。」
「ファルコンマンは悪魔には勝てないのか・・・」
「いや、奴は悪魔なんかじゃない。ただの人間だ。人間だからこそ、犯罪に快楽を感じてるんだ。もしかしたら、奴はああなる前は善良な市民だったかもしれない。いくら善人でも、感情に支配されることもある。怒り、憎しみ、復讐心、嫉妬心・・・それを乗り越えるには、鉄よりも硬く、強い意志が必要だ・・・気の毒な話だが、お前は両親を失って、犯人を殺そうとしたか?」
「・・・」
「できなかったはずだ。それは、お前を悪の道へ・・・いや、人としての道を踏み外させまいと、両親が願っていたからだ。お前はファルコンマンになって、傷だらけでも犯罪と戦ってきた。」
「でも、ファルコンマンは無法者だ・・・」
「無法者だからこそ、奴と同じ土俵で戦えるんだろう?」
「たしかにそうだけど・・・」
「明日、市長の演説がある。奴が潜入するかもしれない。」
「わかった・・・」
トビアスがそう言うと、サムは部屋を出て行った。
翌日。街の一角では、市長の演説を待っている市民たちでいっぱいだった。
ロドリゲス警部ら、警察関係者も。
ロドリゲス警部はミラーやジェンキンス、部下たちに指示した。
「よく見張ってろ、奴は仲間を連れてるかもしれん・・・」
市民の雑踏の中、辺りのビルを見回す。
市民たちの中には、トビアスもいた。
デレクが演説をする席の前のほうには、メアリーが。
まもなく、デレクによる演説が始まった。
「皆さん・・・市長のデレク・ジョンソンです。私はこの街の市長に選ばれたとき、犯罪のない明るい街にしようと、決意しました。今、このような治安の状況で、こんなことを言ってもいいのか?とも考えていますが、巨大犯罪組織を撲滅し・・・」
市民たちの目はデレクへ集中しているが、
ロドリゲス警部らは、不穏な空気を感じていた。
トビアスも・・・
何か、最悪なことが起こりそうな雰囲気は、次の瞬間紐解かれた。
1発、いや、2,3発の銃弾が放たれ、1発は市長を庇ったロドリゲス警部に。残りの2,3発は外れた。
倒れるロドリゲス警部。彼は胸を撃たれており、ミラーやジェンキンスが駆け寄った。
「警部!!目を覚ましてください!」
「ジェンキンス!救急車を!」
市民は皆、パニック状態だ。
トビアスはメアリーのところへ駆け寄ると、彼女に言った。
「メアリー!怪我は?」
「ないわ・・・それより、ロドリゲス警部が・・・」
「彼が!?」
人ごみを掻き分け、辿り着いた先には、救急車に搬送されようとしているロドリゲス警部。
「警部・・・」
トビアスは絶望感に包まれた。
その夜。病院では、ベッドに横たわるロドリゲス警部の傍で、妻が泣いていた。
「どうして・・・?どうして、あなたがこんな目に遭わなきゃいけないの・・・?」
その様子を見ていたミラーとジェンキンスは、「私たちの責任です・・・」と言った。
しかし、ロドリゲス夫人は否定する。
「違うわ!ファルコンマンのせいよ!彼のせいで主人は・・・・」
彼女が泣き叫んでいる傍で、息子がミラーに聞いた。
「おじさん、どうしてママは泣いてるの?」
ミラーは、涙を含んだ声で、
「君のお父さんがね、苦しいからだよ・・・」
「パパが・・・?」
「ああ・・・少し苦しいんだ・・・でもね、お父さんは強いから・・・きっとまた起きるよ・・・だから、安心して・・・」
ミラーはそう言って、ロドリゲス警部の息子の頭を優しく撫でた。
その様子をビルの谷間から、ファルコンマンはそっと見つめていた。
暗い顔をしながら・・・
ミラーとジェンキンス、部下たちは、署に戻っていた。
「ファルコンマンはどう思ってるんでしょうね・・・彼、全く姿を現さないわ・・・」
「今頃、悪人退治で暴れまわってるんだろ。警部があんな目に遭わされたから・・・」
その頃、ロックバンドの会場では、投獄されたはずのアルマンドが、化粧のケバい女を連れていた。
「それにしても、よくあんた出所できたね。」
「まあな、ここのサツは金を払えばすぐに出してくれる。」
「アホな刑事だけでしょ?」
そんなことを話していると、後方の客が何やら騒いでいる。
客の視線はそちらへ釘付けになり、バンドメンバーたちが、ガッカリした顔をする。
釘付けになっているのは、会場にいるアルマンドの部下を次々となぎ倒し、向かってくるファルコンマンだった。
ファルコンマンにびっくりして、化粧のケバい女は帰ってしまった。
「あたし、用事思い出したから帰るわ、じゃね!」
「おっ、おい!」
ファルコンマンはアルマンドのすぐ目の前に立っていた。
ビルの屋上。ファルコンマンはアルマンドの足を掴み、尋問していた。
「ピノキオはどこにいる!?」
「お前、イカレてるだろ!奴の居場所なんて俺が知るわけねぇ!」
「答えろ!」
「だから、マジでしらねえよ!お前はアイツがどんな奴かわかってねぇ!俺さえもしらねぇのに。お前が正体を明かしたら、奴も姿を現すだろうよ!ただ、アイツは俺たちチンピラとは違うぜ?ルール違反は許さねぇお前が勝てる相手じゃねぇ!やべぇ、吐き気がする・・・」
アルマンドがそう言うと、ファルコンマンは奴を引き上げ、立ち去っていった。
その頃、デレクは夜の公園を歩いていた。
と、そこにファルコンマンが。
「何してる?市長。外は危険だぞ?」
彼にびっくりしたデレクも聞き返した。
「君こそ。姿を現さず何やってた?君がいなけゃ、この街は終わりだぞ?」
「君が殺されたら終わりだ。俺がいなくなっても、君がいればこの街は終わらない。」
「何を言ってる!?ピノキオに負けてもいいのか!?」
「俺のルールでは奴には勝てない・・・だから、正体を明かして、投降する・・・」
「やめろ!!あんな奴に負ける君じゃないはずだ!」
「これが運命なんだ・・・」
「運命なんて変えればいいんだ!奴に負けるな!」
デレクの説得空しく、ファルコンマンは闇へ消えていった。
帰宅したトビアスはサムに、デレクに言ったことを話す。
「サム、僕は明日、正体を明かすことにした。」
「本気なのか?トビアス・・・負けを認めるつもりか・・・?」
「ああ・・・警部もあんな目に遭わされて、苦しんでいる人がいる限り、負けを認めるしかない・・・」
「そうか・・・それがお前の答えか・・・悩んだ挙句の・・・お前みたいに若い奴にはあまりにも重過ぎる決断だ・・・」
「・・・。」
翌日。デレクは記者会見を開いた。
それはテレビでも生中継で放送されており、メアリーや、サムもノーラン邸で視聴していた。
「真相はデレクが全て話すんですって?」
「ああ、彼が全て話すらしい。さあ、彼が話し始めるぞ。」
「今日、集まってもらったのは、大事なことが2つあるからです。1つは、現在牙を剥いているピノキオ事件。もう1つは、ファルコンマンが市民に与える影響・・・」
彼が言いかけると、マスコミや警官たちが次々と言った。
「犯罪発生率は過去最悪だ!」
「ファルコンマンが奴を引き寄せたんだ!!」
「ファルコンマンは正体を明かせ!!」
彼らの発言に、デレクは口を開いた。
「そのことについてだが・・・大事な話があります。ノーラン邸のトビアス・キートン・・・」
デレクが言いかけると、会場にいたトビアスは前に出ようと、身構える。
「トビアス・キートンに知られてしまった。私の正体を・・・彼が気づかなければ、この街は救えなかった・・・彼に拍手を。そして、私には手錠を・・・」
デレクは警察に手を差し出し、手錠をかけさせた。
拍手を送られ、マスコミに迫られるトビアスだが、彼は驚きを隠せず、マスコミを避けていった。
テレビでそれを観ていたメアリーは不快感を露わにした。
「トビアスはどうして彼に擦りつけたの!?卑怯だわ!」
「メアリー、デレクはトビアスを信じていたんだよ。彼はトビアスがファルコンマンであることを知っていた。しかも、彼は誰よりもファルコンマンの存在を認めていた。デレクはトビアスを庇ったんだよ・・・」
「トビアスを理解してくれるのは、デレクだけなのね・・・」
「君にはよくない知らせだったな・・・」
「いいえ、2人がそれぞれの使命を果たすなら・・・サム、彼に渡しておきたいものがあるんだけど・・・」
「渡しておきたいもの・・・?」
「そのうち、届くから・・・ 彼に渡してほしいの・・・じゃあね・・・」
メアリーはそう言い残すと、ノーラン邸を去って行った。
街のレストランなどのテレビでは、デレクが逮捕されたニュースで持ちきりだった。
トビアスもノーラン邸でそのニュースを見ていた。
警察本部では、厳重な移送を行う為、パトカー数台に加えてSWAT部隊の防弾車も同行することに。
警官に連れられ、防弾車に乗るデレクに、メアリーが呼び止めた。
「待って!デレク。伝えておきたいことがあるの・・・」
彼女に振り向くデレク。
「君から僕へ・・・?」
「必ず・・・戻ってきてね・・・」
「約束する・・・」
デレクはそう言い残すと、防弾車に乗り込んだ。
出発する防弾車とパトカー。
本部が決定したルートを通っていく。
パトカー3台ずつがそれぞれ防弾車の前と後ろへ。
スムーズに進むと思われたが、最前列のパトカーが後列に無線連絡した。
「前方にロケット弾が・・・!」
何発ものロケット弾が、流星群のように降ってきた。
防弾車内にいるデレクが護衛に言った。
「ロケット弾には強いか?」
「当たれば終わりだ・・・」
彼らがそんなやりとりをしていると、前のパトカーが爆発炎上した。
それを避ける防弾車。
「これ以上スピードは出ないのか!?」
デレクは運転手に聞いた。
「これ以上出したら衝突しちまう!」
トンネルに入っていく防弾車。
すると、背後からバンが追ってきた。
バンには、「ピノキオサーカス団」と書かれている。
バンは防弾車に追いつき、
文字通り、窓から拳銃を持ったピノキオが顔を出してきた。
防弾車に撃ちまくるピノキオ。
弾倉を使い果たすと、予備の弾倉にチェンジして、再び撃ちまくる。
拳銃を撃ち尽くし、今度はショットガンで攻撃。
素早いポンプアクションで防弾車のボディの寿命を縮める。
ショットガンを撃ち尽くすと、手榴弾を投げた。
防弾車の後ろをついているパトカーを全滅させた。
手榴弾を使い果たすと、ピノキオは窓を閉めた。
攻撃の手が止まり、ホッとする運転手。
しかし、次の瞬間。
バンの天井からロケットランチャーを持ったピノキオが現れた。
防弾車に照準を合わせるピノキオ。
ロケット弾を発射したが、弾は防弾車のパトカーにヒット。
パトカーは爆発炎上した。
ピノキオは弾頭を本体に装着しようと、車内に戻るが、
ジェットポーターに乗ったファルコンマンが現れた。
猛スピードでバンの追いつくと、防弾車と並走した。
ピノキオはロケット弾をジェットポーターに発射。
弾はヒットしたが、まだ破壊されない。
弾頭を装着したピノキオは、再度ジェットポーターに照準を合わせ、
発射した。
緊急脱出装置が作動し、ファルコンマンはジェットポーターから脱出。
道路に転がるファルコンマン。
彼は爆発炎上するジェットポーターを見送ると、腕にある時計型装置で、あるものを呼び出した。
やってきたのは新型バイク「ダークランナー」
サーシャが造った最新兵器の試作品だ。
彼女のアニメに対する拘りが反映された一品。
ファルコンマンはダークランナーに誇ると、猛スピードで疾走した。
それを見た街の人々は皆写真に収めていた。
防弾車を追うピノキオは拳銃で運転手を殺害、外に放り投げた。
「Sorry、悪く思うなよ!」
ピノキオは運転席に座ると、ハンドルを握った。
防弾車にアタックするピノキオのバン。
グラグラと揺れる防弾車。
防弾車とバンは市街地に場を移し、激しいカーチェイスを繰り広げていた。
そこにダークランナーを駆るファルコンマンが現れ、ピノキオのバンに近づいて、タイヤにワイヤを射出。
バンはバランスを崩して横転する。
しかし、バンの横転に巻き込まれたファルコンマンはダークランナーから転がってしまう。
倒れるファルコンマン。
ピノキオはバンの中からサブマシンガンを持って出てきた。
何事も無かったかのようにピンピンしている。
「さてと・・・お楽しみと行こうか・・・」
スキップをして近づくピノキオ。
しかし突然、目の前が強い光で眩しくなった。
手で遮りながらピノキオが見ると、
そこにはパトカー数台と、拳銃を構えたロドリゲス警部が。
「遊びは終わりだ、基地外男!」
仕方なく武器を捨てるピノキオ。
「これから始まるとこだったんだぜ!?」
「黙れ、お前は精神病院送りだ!」
ピノキオに手錠をかけるロドリゲス警部。
デレクはインタビューを求められていた。
「市長!英雄に救われた感想は?」
「こんなにスリルのある経験は初めてだ。ファルコンマンとロドリゲス警部に感謝する。」
「ファルコンマンは自警市民だと言う人もいますがそれに関しては?」
「彼はドレイクが必要としている英雄だ。それが僕の答えだ。」
デレクは警察の車に乗った。
車は彼を乗せると、走り去っていった。
その頃。市警本部では、ロドリゲス警部と警官たちが集まっていた。
「復帰おめでとうございます、警部。」
「ありがとう。これも、家族のお陰だ・・・ ところで、奴の身元はわかったか?」
「経歴、DNA、本名、国籍ともにデータがありません。ポケットの中には数発の弾丸と紙切れだけ。ただFBIのコンピュータに数件のハッキング記録が。奴は謎の男ですよ・・・」
「奴に会ってくる。」
モニターに映し出されている手錠をかけられたピノキオを見て言った。
真っ暗な取調べ室に入ると、ピノキオがじっと座っていた。
「やあ、警部。復帰おめでとう。てっきり死んだのかと・・・」
「私が死んだらお前が面白くなくなるんだろ?」
「いや、別にあんたなんかはどうでもいい。それより奴の方が・・・」
「そうか。よかったな、彼が来てるぞ。」
「おお、デレクが来てるのか!?」
「どうかな?」
ロドリゲス警部は扉を閉めた。
独り言を言うピノキオ。
「ああ~、あいつか・・・」
そのとき、扉を開けてファルコンマンが入ってきた。
彼に挨拶するピノキオ。
「何だ、お前か。どうした・・・」
ピノキオが言いかけると、ファルコンマンは彼の頬を殴った。
「おいおい、いきなりかよ!頭がぼぉ~とするぜ・・・」
彼が言いかけると、ファルコンマンは再び殴った。
「手錠をかけられた無抵抗な奴に暴力を振るなんてどうかしてるぜ?」
「黙れ!お前の言い訳は通じない。」
「これだから自警市民ってのは・・・」
「なぜ、俺を殺そうとする?」
「殺す?お前何言ってんだ!俺がお前を殺っちまったら、俺はただの小悪党さ。逆もあり得るぜ。お前がもし、俺を殺っちまったらお前の言う悪がいなくなっちまう。お前がいるから俺は生き続ける。俺がいるからお前は生き続ける。それに、法に逆らって悪を裁こうとするお前は俺たちみたいなアナーキーと大して変わらねぇ。お前も怪人なんだよ。そう思わねぇか?」
「俺とお前を一緒にするな。」
「そう強がるなよ。いずれ、お前は誰にも必要とされなくなる。お払い箱だぜ?」
ピノキオがそう答えると、ファルコンマンは彼を掴んだ。
「俺はお前とは違う!」
「話のわからない奴だな・・・お前は理解力がないのか?まあ、いい・・・ そんなことよりもっと大切なことあるぞ。お前の未来に関わることだ・・・」
「早く言えっ!」
「キレやすい奴だな・・・デレクと奴の女はそれぞれ別のところにいる。彼らの居場所は俺しか知らない。」
ファルコンマンはピノキオを殴ろうとするも、ピノキオは制止した。
「おっと、お前が俺を殴れば全て終わりだぞ。両方の命を救いたきゃ、おとなしく俺の言うことを聞け。」
「ウソをつくな!」
「ウソじゃないぜ。ウソだと思うなら俺を殴って確かめてみたらどうだ?うん? お前は2人を救えずに終わるだけだぞ。俺にはどうでもいいことだ。」
「・・・・・。何が望みだ・・・?」
「俺をある場所に連れて行け。そこに全てがある。警部に知らせろ。」
ピノキオが言うと、ファルコンマンは扉を開けて、ファルコンマンに言った。
「警部、奴の要求だ・・・デレクとメアリーを助けたければ自分をある場所に連れて行けと・・・」
「そんなものは我々だけで行けばいい。」
「要求に従わなかったら彼らの命は・・・」
「奴が降伏するとは思えんが・・・ わかった。
ピノキオをパトカーに乗せ、ロドリゲス警部とミラー、ジェンキンスも乗る。
パトカーの前後には厳重な警備が敷かれた。
後ろにはファルコンマンが。
サイドミラーに映るファルコンマンを見て、ピノキオが言った。
「奴もご一緒か・・・」
「どうだ?嬉しいだろ。」
ロドリゲス警部はジョーク混じりに答える。
「まあな・・・奴がいなきゃ俺は存在しない。」
そう答えるピノキオに、ロドリゲスはさらに疑問を投げかける。
「お前はなぜ、こんな事件を起こした?目的は何だ?」
「目的ねぇ・・・・・・俺はそこらの悪党とは違うんだ。奴らはみんな金や名声を得ようとしてるようだが、俺にとってそんなものは価値がない。消えてなくなっちまうからな。でも俺が求めてるのは快楽だ。有無など関係ない、最高の代物だ。俺みたいな奴は誰かの命を奪うことで神になれると思ってるかもしれない。でも、そんなものは思い込みだ。神なんてものは存在しない。」
「いい話だったよサイコ野郎。」
ミラーが言った。
それに対して嘲笑するピノキオ。
「ウソつくな、刑事さんよ。お前らだって犯罪者を殺しまくってるんじゃないのか?俺は憎しみなんてものはない。でもお前らはどうだ?奴らに対して憎しみがあるんじゃないのか?正義を振りかざしてるようだが、そんなものは人々が危険に晒されたときに必要なくなる。人間の心は醜いぜ?お前らがどれだけ犯罪を消そうとしても、俺を消したとしても、また同じ状況になり、お前らは叩かれる。今の人間はまともに話も聞かない。声をかけただけじゃ意味がないんだよ。殴りつけて、無理やり聞かせるしかない。」
「お前がそんなことを語ったところで誰も振り向きはしないさ。せいぜいワイドショーのネタになるだけで、3日後には忘れ去られてるんだよ!」
「まあ、いい・・・・・俺は忘れられないようにしてやる。その内わかるさ・・・・・・ここをまっすぐだ。」
ピノキオが指示すると、車は目的地へ到着した。
工事現場だ。
ロドリゲス警部はピノキオに聞いた。
「2人の場所は?」
「そうだな・・・・・・この手錠を外してやったら答えてやってもいいぜ?」
手錠を外すロドリゲス警部。
「お前はいずれ逮捕だからな。今だけだ。」
歩を進めるピノキオ。
すると、小さなプレハブ小屋が爆発炎上した。
身を低くするロドリゲス警部。
「あれは何だ!まさか・・・」
ロドリゲス警部が驚いても、ピノキオはピンピンしている。
「ああ、ちょっと遅くなっちまったな・・・残念だったな。ファルコンマン!お前の負けだぞ!」
しかし、ファルコンマンは炎に飛び込んで行き、片腕をなくしたデレクを発見した。
「デレク!掴まるんだ・・・・」
何とかデレクはファルコンマンに掴まると、こう言った。
「ファルコンマン・・・なぜ俺なんかを助けた・・・?メアリーは・・・」
「・・・・・」
ファルコンマンは無言でデレクを救出するしかなかった。言葉が出なかったのである・・・
警察たちがメアリーを探しているうちに、ピノキオは逃走していた。
「奴は私たちを罠に嵌めるために・・・全てはこのために本部に来たのか・・・」
絶望するロドリゲス警部。
一方、ピノキオは車でベートーベンを聴きながら、夜のハイウェイを疾走していた・・・
翌日のまだ暗い朝。
ノーラン邸には、小さな箱が届いていた。
サムはそれの封を開けると、時計と手紙が入っていた。
手紙にはこう書かれていた。
「トビアスへ。私はあなたとは一緒にいられない。それはデレクを愛してるからじゃなくて、あなたは違う世界に住んでるから。そう、あなたはファルコンマン・・・ でも、あなたが本当の仮面を脱ぐというなら・・・私はあなたのものになるわ。いつもあなたの眼を見てたらわかったのよ・・・あなたはファルコンマンとして生きるか。私に思いを告げて、普通の暮らしをするか。後者を選べば、あなたはもう苦しむことはないわ。でも、あなたは正しい道を行く人。ファルコンマンとして道を行くでしょう。この時計を私自身だと思って、いつまでも持っておいて・・・・・・」
手紙はここで終わっていた。
サムは時計をサムの部屋に飾り、バルコニーに出るとそこにはファルコンマンのマスクを脱いだトビアスがテーブルにもたれていた。
「サム・・・僕はどうしたらいいんだ・・・?デレクは悲惨な目に遭わせ、メアリーは救えなかった・・・僕はこのまま戦い続ける意味があるんだろうか・・・?」
「トビアス・・・・・悲しいことだが、平和に犠牲はつきものだ・・・それが現実だ・・・・・・この苦しい状況の後に平和は訪れる。だからお前は諦めるな・・・・・・お前にはまだやるべきことがある。」
「・・・・・・・。」
トビアスは複雑な表情で考え込む。
ファルコンマンのマスクを見つめながら。
そのころ病院では、デレクが失った片腕を見つめていた。
包帯を巻かれた片腕だ。
脳裏に過去がフラッシュバックする。
ファルコンマンに助けられたときのこと・・・・・・
病院に搬送され、オペ室に入ったときのこと・・・・・・
そして、最後に見た未来の花嫁となるはずだったメアリー・・・・・・
傍に置かれている彼女に渡すはずだった指輪を見て、絶望感に包まれる。
そこに、ロドリゲス警部がやって来た。
「気分はどうだ・・・?君は義手をつけることも拒否しているようだが・・・」
「・・・・・・。」
「世界は残酷だ・・・。君のような罪なき人間が死に、悪が栄える・・・。私もいつかは消えるだろう・・・」
「あんたは・・・僕をからかいに来たのか?こんな腕にされて・・・メアリーまで・・・」
「すまない・・・我々は何もできなかった・・・」
「出て行ってくれ・・・頼むから・・・」
デレクが言うも、黙って立ち続けるロドリゲス警部。
「出て行け!」
デレクは怒鳴った。
仕方なく退出するロドリゲス警部。
ロドリゲス警部が病室を出ると、アルマンドが立っていた。
「よう、警部。警戒しといたほうがいいぜ。ピノキオは何か企ててる。かなりヤバイことだ。」
「何だと?お前は奴の仲間だったんじゃないのか?」
「俺は奴に外されちまった。フリーだよ。ほとんどの野郎どもは奴の手下になっちまったしな。まあ、誤解すんなよ?俺はサツの味方はしねぇ。おとなしく実家に帰るつもりだ。」
「この事件が終わったら覚えてろよ。」
「楽しみだぜ。」
アルマンドは去っていった。
ロドリゲス警部も病院を後にする。
その頃。道路を走る車の中に、不気味な黒い車があった。
車に乗っているのはピノキオと部下数名。
彼らの乗る車はある銀行に到着した。
トランクから銃の入ったバッグを取り出し、部下に渡すピノキオ。
彼らは銀行に突入した。
ライフルを撃って黙らせるピノキオ。
「さあさあ、これから末体験ゾーンへの入り口が開かれるぞ。ここにいる奴は光栄だと思え。質問するぞ。オーナーはどこだ?」
ピノキオはライフルを肩に乗せ、歩きながら言った。
すると、突然、たまたま近くで伏せていた男性を撃ち殺した。
「オーナーを呼ばなきゃ、1人ずつ頭を吹き飛ばすぞ。早くしろ。」
ピノキオはまたもや近くにいた女性を撃ち殺す。
「オーナーはどこだ?」
ピノキオがもう1度言うと、中年の男性が手を挙げた。
「よくやった。」
ピノキオはオーナーを撃ち殺した。
「よし、始めるぞ。」
ピノキオは銀行の奥へ進み、
大量に山積みされた紙幣をバッグに詰めていく。
それを部下に渡していくピノキオ。
「こんなもんか・・・ずらかるぞ。」
ピノキオたちは銀行を出ようと、扉を開けるが、
その先に待っていたのは警察だった。
ロドリゲス警部やミラー、ジェンキンスもいる。
「銃を捨てて投降しなさい!」
SWATのヘリがピノキオたちに警告する。
ピノキオは怯むことなく、ブツブツと呟いた。
「アリどものお出ましか・・・ここはひとつやってやろうか。」
ピノキオは発砲した。
それに続けて発砲する部下たち。
撃ち返すSWAT。
真昼のドレイクシティ銀行前で、壮絶な銃撃戦の火蓋が切って落とされた。
手榴弾を投げ、車を爆発させるピノキオたち。
ロドリゲス警部たちは身を隠し、発砲する。
警察とピノキオの対決のさなか、防弾仕様の車がやって来た。
乗っているのはジェイコブとその部下だ。
「おい、迎えに来たぞ!」
「ありがとよ。お前は役に立ったぜ・・・」
ピノキオはライフルに取り付けたグレネードランチャーで、ジェイコブの車を吹き飛ばした。
爆発炎上し、パトカーを破壊する。
大笑いするピノキオ。
ピノキオは部下を見捨てると、混乱に乗じて地下鉄に逃げていった。
追跡する3人。
階段を降りて、ホームに向かうも、ピノキオは姿を消していた・・・
地上に出たピノキオは、マスクをして、路地裏に停めてあった車を盗み、
ある場所へと向かった。
病院だ。
病院に入ると、受付に言った。
「デレク・ジョンソンの病室はどこだ?」
「ご親族の方ですか?」
「いや・・・ちょっとした知り合いでね。」
「105号室です。」
「ありがとう。」
ピノキオがそう言って去っていくと、
ワゴン車が突っ込んできた。
パニックに陥る病院。
ピノキオは105号室に入り、デレクを押さえつけ、
薬品で眠らせた。
デレクが目を覚ますと、何もない場所にいた。
ベッドに拘束されており、身動きが取れない。
傍にはニヤニヤとした顔のピノキオが。
「おはよう、デレク。」
「よくもメアリーを・・・この化け物め!」
「おいおい・・・まあ、落ち着けよ。彼女のことは気の毒だったな。だが俺はやってない。本当だ。警部の部下どもはどんな奴か知ってるか?俺たちみたいな奴から金を貰って働いてるんだよ。もうわかっただろ?」
「なぜ、僕を拉致した・・・?何が望みだ?」
「お前に更生して欲しいんだよ。俺たちに怒りをぶつけるんじゃなく、お前の女を殺した奴らに同じ目を合わせてやるのさ。どうだ?最高だと思わないか?」
「それはただの殺人だ!」
「まあ、そう熱くなるなって。冷静になれ。素直に感じようぜ。サツの腐敗ってヤツをな。それとマフィアどものケツ叩きだ。あいつらは俺より下等な生き物だ。金に目がくらめば、何でもする。俺は物欲なんてものはない。スリル好きでな。俺とお前が手を組めば、完全になれるぜ?」
「お前の味方などしたとしても自滅するだけだ!」
「どうかな?この街じゃ、帝王が必要だぜ?暗黒の帝王ってヤツだ。俺はお前を裏切らない。お前は完璧すぎるからな。今のお前は正義を振りかざしているが、お前には正義なんてものは似合わない。今のお前は憎しみでいっぱいのはずだ。民衆に見せてやろうぜ。いかに人間は無力で哀れな生き物か。お前がコイツを受け入れれば、死刑執行人として闇の世界に浸かれるぜ・・・」
ピノキオは、機械でできたアームを取り出した。
「この世界はウソで塗り固めることで栄えてきた。今、俺たちで革命を起こす瞬間だ。」
ピノキオはデレクの失った腕に、アームを取り付けた。
銀行周辺は封鎖され、街はさらなる恐怖に見舞われた。
ある豪邸前ではアルマンドが迎えの車に乗った。
しかし、隣にはデレクが。
「やあ、アルマンド。」
「おお、これこれは。市長さんじゃねぇか!どうしたんだ?」
「メアリーを拉致した警官を言え。」
「あの女だよ。ジェンキンスとか言う若い刑事だ。」
「情報ありがとう。」
デレク=フェイクアームは機械の手で握った銃を向けた。
「おい!教えてやったじゃねぇか!」
「お前は殺さない。」
安心するアルマンド。
「彼だ。」
フェイクアームは運転手を撃ち殺す。
横転する車。
フェイクアームは車から脱出すると、どこかへ去っていった。
一方、ニュースでは政府の特殊部隊STAGがドレイクシティに配備されるという話題でいっぱいだった。
マスコミはSTAGの司令官に質問する。
「市民の生活への影響は?」
「我々は政府直属の特殊部隊です。善良な市民への生活には十分配慮して作戦行動に移ります。」
「ファルコンマンに対しては?」
「彼は社会の敵だ。マスクを脱いで、投降しなければ、射殺も考える。」
画面は次のニュースへ映った。
大きく映るピノキオの不気味な顔。
「やあ、凡人ども。君たちにプレゼントをやろう!銀行から頂戴したものだ。
何かはわかるだろ?今夜9時から街の中心部でプレゼント配布の開始だ。いくらでもやる。それと、ファルコンマンは俺の居場所がわかるかな?今夜、決着をつけよう。どっちが精神病院にぶち込まれるか。決めようじゃないか!」
ピノキオは大笑いした。
そのニュースを1人観ていたトビアスは決心した。
ノーラン産業へ、ファルコンマンの姿で向かった。
誰もいないコントロールルームに侵入する。
公共の電波を盗み、ピノキオの位置を特定しようとする。
すると、そこにサーシャが。
「トビアス!何やってるのよ!」
「サーシャ、わかってくれ・・・奴に勝つためには仕方ないことなんだ・・・」
「あなたのやろうとしてることはハッキング以前の問題よ?やりすぎだわ!」
「全て終われば、君が破棄するんだ。これは君だけが扱える。」
「・・・わかったわ。協力する。でも忘れないで。今回一回きりよ。私にも限界があるから・・・」
「ありがとう・・・」
研究所を出ると、ファルコンマンはダークランナーで走り去っていった。
夜9時になり、街の中心部には人々が集まっていた。
騒がしい声は一瞬にしてかき消された。
スピーカーから声が聞こえる。
「よく来てくれた!今からばら撒くのは最高のコンディションの代物だ!さあ、受け取ってくれ!」
札がビルの屋上からばら撒かれた。
それを我が先にと拾う市民たち。
奪い合いをする者もいた。
食い止めようとするロドリゲス警部、ミラーら警察たち。
またもや、スピーカーからピノキオの声が。
「君たちはこのエリアからは出られないぞ。1人でも出ようとすれば、装置が作動し、あちこちで爆発が起こる。欲にまみれた君たちの哀れな姿だ。サツはどうぞご自由に。俺を捕まえたきゃな!」
ピノキオの大笑いが響き渡り、市民は恐怖に包まれる。
そのころ、サーシャはピノキオの声の発信源を特定した。
トビアスに連絡するサーシャ。
「トビアス!奴は東のビルにいるわ!」
「わかった。」
ファルコンマンはダークランナーを発車させ、ロドリゲス警部に連絡。
「警部!」
「どうした?」
「ピノキオは東のビルだ。」
「東のビル?君は向かってるのか?」
「ああ、とにかくすぐに向かうんだ!」
電話を切ると、ファルコンマンはビルへと急ぐ。
ビルにはSWATのヘリが周囲を警戒していた。
ビルの向かいにある立体駐車場の屋上に集まるロドリゲス警部たち。
そこにファルコンマンもやって来た。
ロドリゲス警部はファルコンマンに説明する。
「いいか?まず、SWATが突入し、それから・・・」
ロドリゲス警部が言いかけると、ファルコンマンは飛び降りて、
ビルへと飛び移った。
「突入だ!」
SWATに命令を下すロドリゲス警部。
一方、ファルコンマンは銃を持ったピノキオの部下を倒しながら進んでいた。
銃を奪い、殴りつけ、気絶させる。
ファルコンマンはサーシャに連絡した。
「奴は屋上か?」
「ちょっと待って・・・回線が混雑してて・・・OK!屋上よ。でも気をつけて。階段に連中が待ち受けてるわ!」
「わかった。」
ファルコンマンは階段へと進み、銃を撃ってくる奴らから身を隠すと、ペン状のファングを投げつけた。
気絶するピノキオの部下たち。
さらに進んでいき、最上階へ。
屋上への扉を開けると、金属バットを持ったピノキオが立っていた。
「やっと来たか・・・ファルコンマン。決着をつけようぜ!」
「諦めろ!お前は精神病院行きだ!」
「それはどっちかな?」
ピノキオは金属バットを構えて走ってきた。
それを避けるファルコンマン。
しかし、何度も振り回すピノキオのバットは避けた反動で動けないファルコンマンのボディにヒットした。
背中を滅茶苦茶に殴られ、倒れるファルコンマン。
「背中は弱点だったか!?」
殴りつけるピノキオ。
ファルコンマンも負けずに、ピノキオの腹にキックし、仰け反らせた。
ピノキオはさらにバットを振り回し、ファルコンマンをギリギリまで追い詰める。
ピノキオはファルコンマンのボディを殴り、彼を倒した。
「さあ、素顔を見せてもらおうか?」
ピノキオはファルコンマンのマスクに手を伸ばす。
しかし、そのとき。
ファルコンマンはピノキオの腕を掴み、ファングを彼の頬に投げた。
傷をつくったピノキオ。
「おお・・・お前の勝ちだ・・・俺はお前が必要なくなった・・・あばよ・・・」
ピノキオは自ら身を投げた。
驚愕し、下を見るファルコンマン。
しかし、ピノキオはヘリに乗っていた。
「ウソに決まってるだろ!俺が死んだと思ったか!?俺が死んだら悲しいもんな!」
ピノキオは大笑いした。
「ヘリに乗ってる俺を倒してみろよ!」
挑発するピノキオ。
そんなさなか、STAGのヘリが近づいてきた。
「両者、投降しろ!」
警告してくるヘリに向かって、
ピノキオは怒鳴った。
「邪魔すんじゃねぇ!」
ピノキオはロケットランチャーで、STAGのヘリを撃墜。
その隙をファルコンマンは見逃さなかった。
救助用ロープ射出装置を取り出し、ピノキオに引っ掛けた。
操縦者を失ったヘリは、落ちていった。
柱に吊り上げられるピノキオ。
「全く・・・お前は・・・本当に偽善者なんだな・・・ウソの仮面を被り、哀れな人間どもを助ける。奴ら爆弾で怯えてたぜ!爆弾なんて最初からないのにな。奴らは醜い欲望で生きてる。危険に晒されても欲しいものは手に入れたがる・・・しかも、奴らは自分たちを守ってくれるお前を敵にする・・・仕方ないことだな・・・」
「人間は醜い?お前だけだろ。」
「さあ、どうかな?俺みたいな奴はどこにでもいるぞ。お前もその1人かもな。お前はやがて社会悪として棄てられる。お払い箱さ。」
「俺はどうなっても構わん・・・お前には関係ないことだ。精神病院行きの奴にはな・・・」
「お前も一緒に来いよ。俺とお前は同類なんだぜ?それと、アイツも同類だなぁ・・・」
「アイツ・・・?」
「デレク・ジョンソンさ。お前が俺に夢中になってる間、奴は素晴らしいことを始めたんだ。知らなかったか?何も俺だけがお前の敵じゃねぇんだぞ?奴みたいな人間でも、感情に支配されちゃ俺たちと同類になっちまうさ。教会で儀式を始めるつもりだ。もう奴は止められないぜ・・・」
ピノキオはそう言うと、大笑いした。
デレクの元に急ぐファルコンマン。
一方、ロドリゲス警部の携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
「あなた・・・」
「ケリー!どうしたんだ!?」
ケリーの声からデレクの声へ。
「やあ、警部。」
「家族に何をした!?」
「見たけりゃ教会に来るがいい。」
切れる電話。
真剣な表情のロドリゲス警部。
ロドリゲス警部は立体駐車場から立ち去り、
教会へ向かった。
教会に着くと静かに入っていく。
銃を構えながら。
途中の通路で、ジェンキンスが倒れていた。
「ジェンキンス!大丈夫か!?」
彼女は腕から血を流していた。
「ええ、警部・・・それより・・・裏切ったりしてごめんなさい・・・姉の入院費が必要だったの・・・」
「大丈夫だ・・・それより喋るな・・・止血する・・・」
ロドリゲス警部はネクタイで止血した。
それを終えると、背後から突然殴られた。
倒れ込むロドリゲス警部。
殴ったのはデレク=フェイクアームだった。
フェイクアームはロドリゲス警部の家族に銃を向けながら言った。
「お前の部下がなぜこんな目にあったかわかるか?」
「・・・・・・。」
「答えろ!」
「・・・我々の責任だ・・・」
「その女の血を流すだけでは足りない。お前の息子の血も流してもらわなければな・・・お前の大切な人間だろ・・・?」
「やめろ!息子だけはやめろ!頼む・・・私を殺せ!」
「あなた!彼を止めて!」
必死に訴えるロドリゲス警部とケリー。
「お前を殺す価値などない!汚職と戦わなかったお前など・・・!」
フェイクアームはロドリゲス警部の息子に銃を向ける。
「すまなかった・・・」
「息子に言ってやれ・・・怖がるなと・・・」
「ジャック・・・怖がらなくても大丈夫だ・・・」
するとそこにファルコンマンが現れた。
「デレク!君はそんな人間じゃない!」
「お前に何がわかるんだ!?俺の人生は滅茶苦茶にされて・・・メアリーも失って・・・」
「君は正しい人間だったからだ!ピノキオは君がこの街の善人だということに目をつけた。君はウソをつかずに犯罪と戦ってきた・・・奴は君のような人間を試していたんだ!」
「もう、俺は終わりだ。お前たちを始末したら俺もここで死ぬ・・・まずは息子から・・・」
フェイクアームが引き金を引こうとしたそのとき。
ファルコンマンはフェイクアームの腕を掴み、チョップで切断した。
バチバチと電気音を鳴らす義手。
フェイクアームは倒れた。
これが命綱だったのか?
「ファルコンマン・・・いや、トビアスか・・・皆には言うな・・・」
フェイクアーム=デレクはそう言い残すと、静かに息絶えた・・・
機械仕掛けの義手を見て、ロドリゲス警部はファルコンマンに言った。
「これからどうする?」
「時が来れば・・・真実を明かそう・・・それまでは市民を守るためにも闇に葬る・・・」
「そうか・・・ピノキオの勝ちだな・・・残念ながら・・・」
「確かに負けた・・・だが終わってはいない。」
ファルコンマンは教会を出ると、ダークランナーで走り去る。
STAGに追われながら・・・
ロドリゲス警部とジャックはそれを見守る。
「どうして彼は逃げるの?」
「彼はもうヒーローじゃないからだ・・・」
「何も悪いことしてないのに?」
「確かに彼はこの街に必要だ・・・しかし、彼は我々とは違う世界の人間だ・・・だから追われる・・・
でも彼は負けたりしない。何度堕ちても這い上がり、飛び立ってゆく。不屈の心で。闇に小さな光を灯す・・・」
「彼はダークネス・ウィング<闇の翼>・・・」
暗闇の中のわずかな光を求めて、ダークランナーに誇ったファルコンマンは疾走していった・・・