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6月 愛の形(2)

――side: 春風ミユウ


 いつまでも学校で時を過ごす特別な理由はないけど、家にすぐ帰ってしまう気にもなれない。誰にでもあるそんな放課後、美術室の片隅で絵を描いている青葉ミズキを訪ねることがある。会えないことも多いけど、会えるときは彼はいつも窓際でひとり静かにキャンバスに向かいあっていた。

「美術部ってちゃんと美術やってるんだね。どうせ漫画絵ばっかり描いてるオタク集団だろうと思ってた」

 後ろからキャンバスをのぞきこもうとしたら、青葉ミズキはあわてて立ち上がり、絵をその小柄な体で隠した。

「見るなよ、まだ途中なんだから!」

 くりくりした大きな目のまなじりを決し、さくらんぼのようなくちびるは曲げられている。そんな表情でもこの美少年は愛らしく見えた。

(あざとい……)

 わたしは閉口してうなずいた。この男のキャラ造形のあざとさはどうなのだろう? 身長は167センチあるわたしより明らかに小さく、顔立ちはどんな女よりも愛くるしい。くるんと上を向いたまつげや透き通るような青い目は真のヒロインたるわたしが困惑するほどにヒロイン然としている。わたし自身の顔も砂糖含有量は多めだけど、この顔に比べたら可愛いよりはきれい寄りだと思う。

(男がヒロインより可愛くて誰が得するの? 別にいいけど)

 わたしには理解できないものの、どこかしらに需要はあるのだろう。

「見ないよ。見ないけど、なんで見ちゃだめなの?」

 美少年は慎重に体でキャンバスを隠しながらイーゼルをずらして向きを変えた。ご丁寧にわたしの位置からは見えないことを確認していた。

「言っただろ、まだ途中だからだって」

「途中だったらどうしてだめなの?」

「なんか嫌なんだよね」

 美少年は自分で気づいているのかいないのか、完璧主義者だった。だから不完全な描きかけの絵を見られるのを嫌がるのだ。こういう人にはときどきちょっかいをかけて邪魔をしたくなる。わたしという銀河系最強美少女もたまには茶目っ気を出すことがあるのだ。

 わたしはいつもと違う美術室のようすをぐるっと眺めた。

「今日はひとりなんだね。ほかの部員は?」

「市立美術館に行った。今特別展やってるだろ? 顧問が招待券持っててさ、じゃあ行くかってなったみたい。あいつら遠足気分だよ、完全に。まあ本気で絵を鑑賞しに行きたがってるなんて顧問だって期待してなかったと思うけど。だって今やってる特別展、アジアの現代美術だよ? 賭けてもいいけど感想は、よくわからなかった、だけだね」

「ミズキはなんで行かなかったの? 招待券足りなかった?」

「ううん、ちゃんともらったよ。でも大勢で見に行くの嫌なんだよね。落ち着いて見られないし、ペース乱されるしさ。個人で行く分にはいいけど、部活動で行くなら活動報告も書かないといけなくなるし。だいたい説明がないとフェルメールの絵すらそうとはわからないような連中と一緒に行ってもしょうがないだろ。無意味すぎる。だから僕は行きたいときに勝手に行くつもり」

 美少年は再び絵筆を握り、中断していた描画に戻った。

(もう! 男なんだったらはっきりわたしをデートに誘ったらどうなの?)

 これは明らかにデートフラグだった。美少年がわたしと一緒に特別展に行きたがっていることは疑いない。そうでなければどうして美少年に美術部員などという設定をつける必要があっただろうか?

(いいじゃない、美術館デート。文化的で)

 わたしはそのデートプランを気に入った。なのに美少年は、一緒に行かない?となかなか言い出さない。仕方なくこちらからアピールすることにした。

「いいな。わたしも行きたいと思ってたんだよね」

 わずかに首をかしげて美少年の袖をつんつんと引き、甘えをたっぷりふりかけた上目遣いでじっと見つめる。鏡の前で日々練習している成果をここぞとばかりに見せた。

 美少年はわたしの庇護欲をかきたてる天下一品の上目遣いを豪胆にも無視しようとしたけど、ミズキ、と呼びかけるとたじろぎ、やがてため息をついて筆を下ろした。そして机にかけてあったバッグを取って開け、とうとう招待券を取り出した。

「……わかったよ。仕方ないな。ほら、あげるよ」

 招待券は渋々といったようすでわたしに突き出された。

「え」

「まったく、普通に券くらい買えばいいだろ。学割で安くなるんだし、前売りならもう500円安かったんだよ。買うほどでもなかったなら別に行きたくなかったんだよ。あーなんか惜しくなってきた。やっぱり返さない?」

「あ、そうくる?」

「何? まだ何かほしいわけ?」

「いや、いいよ、もう」

(鈍感設定ついてたっけ、こいつ?)

 わたしは要りもしなかった招待券を無造作に胸ポケットに突っ込んだ。それから美少年の胸にも手を伸ばした。

「ちょ! 何!?」

「ごめんごめん」

 わざとやっているのかと疑うほどに鈍いけど、わたしのようなアフロディテもうらやむ美の化身に遠回しに誘われてすかすやつは男ではないし、美少年に乳房はなかった。股間も触って確かめてみたい衝動に駆られたけど、そこまですれば好感度は地の底まで落ちることは想像に難くない。ちゃんと男だということにしよう。ということは、

(自分の魅力が恐ろしいよね。まさか自分が、その気はなくても男に貢がせてしまう魔性の女だったとは)

 そうとしか考えられなかった。

(わたしって罪作りな女だよね)

 新たな自分の一面に気がついて感心しつつ、手持無沙汰だったので美術室を当てもなく見て回った。美術部のキャビネットを見つけて無遠慮に開けたけど、美少年はちらっと視線を寄こしただけで何も言わなかった。中にはスケッチブックがぎゅうぎゅうに押し込まれていて、一つひとつ名前を確かめたら案の定美少年のものもあった。

 パラパラと紙をめくると、定番の手のスケッチや静物のスケッチであふれていた。

「ミズキ、絵、うまいね」

「5歳からやってるんだ。それなりにうまくもなるよ。こういうのって基本ができてれば素人目にはそれなりに見えるしね」

 謙遜はなく、ただ事実を述べているにすぎないといった響きがあった。

「ミユウは何かできないの?」

 わたしは肩をすくめた。

「ピアノは3歳から習ってたけど、幻想即興曲を弾けるようになった時点でやめちゃった。小学校4年生までだね。バレエもやってたけど、これは中学生まで。もうそういうことは何もやってないよ」

 ほかにも水泳やそろばんやフィギュアスケート、茶道や料理も習っていた。何でもやりたかった。今では何でもそれなりにできるようになったけど、わたしにとって習いごとは習いごとにすぎず、どれも芸の域ではなかった。

「全部中途半端だね」

「音楽やバレエを本気でやってる人はこういう学校には来ないんじゃないかな」

「それもそうか」

 美少年は違う絵筆に持ち替え、真剣な顔をキャンバスにつくくらいに近付けた。ほとんど瞬きをせず、息も詰めて絵の具をおいていく。言葉をかけるのも躊躇われて、わたしは少し離れた椅子に腰かけてその様子を眺めた。ふと、彼が描いているのはシズカの薔薇園だと気がついた。

 美少年は重要なところを描き終えたのか、キャンバスから体を離して絵をいろんな角度から見直した。そして満足そうに微笑んだ。やはりあざといほど可愛らしかった。

 それで今日の活動は終わりにするらしく、彼はパレットや絵筆を片づけ始めた。そのあいだもずっと饒舌に滔々としゃべっていた。わたしとふたりでいるときには優等生の仮面をとり本性をみせるようになった美少年は、本当に、ときどきうんざりするほど口数が多かった。その弁舌には毒も多かった。優等生の仮面生活にはストレスが多いらしいと辟易しながら思っていた。慣れてくると、普段のときにも、美少年がその甘く愛らしい声で針を隠したお愛想を言ったり、悪気のなさを装って傷口に粗塩をすりこむような質問で侮辱したりすることがあるのに気づいた。

(基本的に性格に難があるんだよね。顔は可愛くてもねえ。ほんと、わたし以外の人間には欠点がつきものだよね)

 とはいえ彼の格好の獲物をかぎつける勘は天性のものと言うよりほかなく、鼻もちならない人間を鋭い爪でいたぶっているところを素知らぬ顔で眺めているのはおもしろくないこともなかった。

「橙花先輩はきれいなものが好きなんだ。きれいな音楽、きれいな美術、きれいな服、きれいな人間……。そういうものが自分にふさわしいと思ってる。自己愛の裏返しだよ」

「は? 橙花先輩?」

 美少年は上機嫌そうなくすくす笑いを噛み殺しながら言った。

「今ごろあの人、馬鹿笑いしてるんじゃないかな。ミユウ、赤葉先輩が調べてた事件を横から干渉して先輩がいないあいだに勝手に解決したんだって? 強姦未遂とか本当?って訊くの、やっぱり不謹慎かな」

「どういうこと?」

「いい仕事したねって褒めてるんだよ、これでも。橙花先輩も同じ気持ちだと思うな」

「ふーん、ありがとう。でも、赤葉先輩もわたしに感謝してくれてると思うけどな。だって、先輩の仕事を減らしてさしあげたんだよ。学園に平和も戻ったしね。わたしの華麗な大活躍を先輩が見てなかったのが残念だよ」

 美少年は何に受けたのか、ぷっと吹き出して大笑いを始めた。

「ミユウ、最高!」

 何を当たり前のことを、という感じ。

「何なの?」

「だからさ、ミユウ、橙花先輩に気に入られるんじゃないかってこと。きれいだし、おもしろいし。特別展、橙花先輩と行ってきたらいいんじゃないかな? きっと断られないと思うけど」

 美少年はわたしの気の多さを容認する健気さを見せた。あるいは嫉妬だろうか。しかし、どちらかというともっと直接的に独占欲をあらわにしてくれたほうがうれしかった。そんなことをつらつら考えながら、手のひらを上にして突き出した。

「え、何?」

「誘うから、招待券をもう一枚出して。持ってるよね?」

 心外そうに青い目が瞬いたけど、わたしは手をひっこめたりしなかった。

 しばらく見つめあった後、美少年は観念してのろのろとバッグに手を伸ばし、渋々といった様子でもう一枚の招待券を取り出した。

「ばれてた?」

「当然」

 要領のいい美少年は一枚しかないのならやすやすとわたしに渡したりはしなかっただろうし、わたしをデートに誘う心づもりがあったのだからもちろん券は2枚以上あったに決まっている。

「僕の分も楽しんで来てね」

 恨みがましい嫌味に、わたしは笑顔で応えた。




――side: 黒羽アツシ


 雷雨が来るらしく、空は真っ黒で、園生の高級住宅街の上に稲光が走っていた。親衛隊に見送られて昇降口を出た会長は、ほかの生徒たちのように不安そうに空を見上げることもなく、ただいつものように黙って歩きだした。いつもと違ったのは、その横にオレがいたことだった。帰り道はまるで違うけど、こういう時間でももらわないと、会長は忙しい人だから話をする機会もなかなか持てなかった。

「会長。いいんですか、傘持たなくて? せっかく親衛隊の子がどうぞって言ってくれたのに」

「家に帰るまでは持つだろ。邪魔になる」

 視線すらくれないクールさもまたいつものことだったけど、そこから腹立たしげな雰囲気を感じとれたから、返事があっただけでもましだったのだろうと思えた。

「会長、今マンション暮らしでしたっけ? 最近実家には帰ってるんですか~?」

「いや。帰る用がない」

「ご両親は寂しがってるんじゃないですか~?」

「用があるなら向こうから連絡なり本人なりが来るだろ」

(まったくもう、この人は)

 オレはため息を隠してへらっと笑った。会長に人の心の機微を汲みとってもらうのは骨が折れる。というより、この男は人の弱さなど斟酌しないのだ。人間の不完全さとでも言うべきもの――未熟さや自信のなさ、形成を見て態度を決めるずるさなどを、わかっていながら無視する。それを厳しさだととるやつもいれば頭の固さだととるやつもいる。弱点であることは疑いがない。この男のそばにいることは、普通の人間にとっては試練の連続と同じことだ。しかし、だからこそこの男は尊敬される。

 そんな会長の手札に最近加わった下級生がいた。

「なんで深川さんを親衛隊に入れなかったんですか? 執行部に入れるの、オレ苦労したんですからね。黄葉にまた借り作っちゃいましたよ~」

 小さな声でしゃべる、成績優秀だけど大人しい女子生徒。クラスで目立つタイプばかりを集めたような執行部のカラーに合うとは思えなかったけど、やはり例のごとく会長はそこを無視した。

「同じカードばかり持っていても仕方ないだろ。親衛隊員はこれ以上必要ない。それにしても、やっぱり黄葉に頼んだのか。藍葉兄弟は黄葉の言うことならけっこう聞くからな」

「苦手みたいですよ~。わかる気もしますけど。ああいう頭いいやつに冷静に正論を言われるとこっちは何も言えなくなったりしますからね~」

「ヒカリはまだいいが、アカリはオレの言うこともまともに聞きはしないからな」

「執行部は生徒会の事務局ですけど、あくまで部活動ですからね~。役員会の直接の部下ってわけじゃないし、そこがアカリと役員のヒカリとの違いというか。一部活であるからには執行部にも自律の権利がありますから、そうそう口出しもできませんし~」

 会長は眉間にしわを寄せて、組織構造の欠陥だよな、と呟いた。

「春風さんはどうですか~?」

 その名を口にした瞬間、炯々とした眼光がオレを射た。

「なんでここで春風の名前が出てくるんだ?」

(わー、怒ってる怒ってる。地雷はやっぱりここだったか~)

 オレは気にしなかった。自分が調査していた事件を横から奪われて、会長がおもしろく思っているはずがないとはわかっていた。しかしオレが会長をいたずらに不快にさせるためにこの話を持ち出したのではないことを、会長もわかっているはずだった。

「今回の事件を解決した手腕は見事じゃないですか~。強姦なんて親告罪だから、春風さんが告発しなかったら起訴もされなかったはずなんですよ。まあ強姦未遂なんて事実があったかどうかは知りませんけど~。でも、黄葉をまるめこんで自分に都合のいい証言をさせるなんて、どうやったんでしょうね? あの事なかれ主義者を」

 あっけらかんと言えば、会長は不本意そうにうなずいて同意を示した。

「黄葉を選ぶあたりセンスがいいな。黄葉家は園生の旧家だから、よそ者のオレたちと違って地縁が強い。警察も圧力を感じただろう。黄葉の影響力が公判の邪魔になることもないだろうよ」

 それからしばらく沈黙があって、会長は戸惑いまじりに呟いた。

「行き詰まっていたのは確かだ。だが……春風は本当に被害に遭っていたと思うか?」

 そこが気にかかって怒りきれないらしかった。

「思いますね。春風さんは可愛いから性犯罪者からはいかにも目をつけられそうじゃないですか~。あの子がやったことはほとんどおとり捜査の域だったと思いますけど」

「どういうことだ?」

「会長、犯罪情報なんてのは『園つう』を見れば書いてあるんですよ~。よく声をかけられる場所とか男が乗ってる車とか。自分がえさになって犯人を釣り上げ、その場を逃れることができたらあとは告訴すればいいって、ちょっと安易ですけど、そう考えたんじゃないですかね~。別に強引なことをされる必要はなかったんですよ。だって、春風さんは、それまで男たちが手を出してきた大学生たちと違って、未成年なんですから。どんな取るに足りないことだって違法になりますよ~。それにだいたい、テニスラケットを持って黄葉に車をつられながら監禁されるなんて、用意がよすぎじゃないですか?」

「たしかにな。黄葉は明らかに春風を擁護しすぎていた」

 目には深い不信の色があらわれていた。

「だがどうしてそんなことをする必要がある?」

「結果から考えればいいんじゃないですかね~。今、春風さん、世間でどう思われてます? 悲劇のヒロイン。被害を隠して名誉を保つよりも、ほかの女の子を同じ被害に合わせないために立ち上がった正義の女性。つらい経験があるのに明るさを失わない女の子。あと何がありましたっけ? 今まで顔と成績順位くらいしか知られてなかったことを思えば、十分得たものはあるんじゃないですか~? 春風さん、後期の生徒会役員選挙にでてくるかもしれませんね」

 野心とは、不思議なことに、そんな風に頭をもたげるものなのだ。なりゆきで、あるいは鞭で打たれて嫌々レースを走っているうちに、自分は走るのが好きなのだと気づく。そうすると今度は一番前を走ってみたくなる。

 会長は、生徒会役員選挙、の言葉に目を細めた。

「全部憶測ですよ、憶測。もしかしたら春風さんが男たちを半殺しにしたのが警察にばれて、あわてて正当防衛として処理しようとしてるのかもしれませんしね~。黄葉は被害に遭って反撃した後の春風さんを保護しただけだって言ってますけど、それだと現場から車が動かされた謎が残りますし。まあ何にしたってもう誰も何も言いませんよ~。あとは警察が捜査を終わらせて、四角い事件を丸い穴に合わせるだけです」

「藪の中か」

 

 不吉な雷鳴が聞こえて、オレは空模様を気にした。のしかかるように重い雲の中で閃く稲光が、その頻度を増してきていた。空気が急激に湿り気を帯びてきていて、雨の匂いがした。

 空から地に視線を転じたところで、反対車線の歩道にひとりの女の子を見つけた。傘を持っていなかったから、おそらく急いで帰るところなのだろう。

「あ」

 つい声を漏らすと、会長もそちらを見た。女の子のほうもオレたちに気づいて会釈をした。清潔そうな黒い髪がさらさらと動いた。

 会長は、早く帰れよ、とわざわざ大声で呼びかけ、払うようにと言うには優しすぎる動作で手を振った。オレが疑いの眼になったことは言うまでもない。

「会長、あの子には優しくないですか~?」

「は? オレが生徒の扱いに差をつけていると言いたいのか?」

「そういうわけじゃなくて……扱いはそんなに変わらないと思いますけど~。でも、事件の情報を春風さんに流したの、間違いなくあの子ですよ?」

 会長は事もなげだった。

「それは仕方ないだろう。深川は親衛隊員じゃない。初めからオレのために動いていたわけじゃないんだ。誰が事件を解決させたってよかったんだから、情報を秘匿する理由がない」

「それはそうですけど~」

 意地の悪い見方をすれば、会長は今回、利用されただけだった。それなのに、いささか寛大すぎはしないだろうか?

「何が言いたいんだ?」

「ああいう子が好みなんですか?」

 思い切って訊くと、会長はふっと笑った。

「馬鹿だな」

 凍った炎のような赤い目が去っていく女の子の後ろ姿を追った。

「きちんと着られた制服、丁寧な言葉遣い、態度からにじみ出る育ちの良さ、優秀さ――ああいう生徒が、オレたち役員会と執行部が守り導いていくべき正しい園生学園の生徒なんだよ」


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