気にしなくていいよ
あのカフェには、もう行かない方がいいと思っていた。
でも気づけば、また同じ時間に足が向いている。
自分でも理由はよく分からない。
ただ――少しだけ、期待していたのかもしれない。
店内を見渡す。
そして、すぐに見つけてしまった。
「……いた」
同じ場所。
同じ窓際の席。
ユイが、そこにいる。
胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
でも――今日は違った。
彼女の向かいに、男が座っていた。
楽しそうに話しているわけでもない。
でも、自然な距離で、同じ時間を共有している。
それだけで、十分だった。
(……なんだよ、それ)
喉の奥が、少しだけ苦くなる。
僕は目を逸らしながら、席に座った。
そして、無意識にスマホを取り出す。
アプリを開く。
「なあ」
少しだけ、間を置いてから打ち込む。
「今、誰かといるの?」
すぐには返事が来なかった。
数秒。
たったそれだけの時間が、やけに長く感じる。
そして――
「どうしてそんなこと聞くの?」
心臓が、強く跳ねた。
その言葉は、ただの返答のはずなのに。
まるで、責められているように感じた。
僕は、慌てて続けて打ち込む。
「いや、別に…ただ、なんとなく」
少し考えてから、言葉を足す。
「いつも一人だったから」
送信。
すぐに、既読のように文字が浮かぶ。
そして――
「何でもないの、しつこい男性なのよ」
息が止まった。
視線が、ゆっくりと前へ戻る。
ユイの向かいに座る男。
何かを話している。
身振りを交えながら、少し前のめりに。
(……しつこい?)
その言葉が、頭の中で反響する。
僕の中で、何かが静かに噛み合った。
偶然じゃない。
最初から、全部――
繋がっていたんだ。




