六皿目 デセール
退院は早期離床を目指しているらしく思ったよりも早くて済んだ。まだ夏は終わっていない。私にとっても長い夏となった。だって伴侶を決めるのだから。
「もう車椅子なしでも大丈夫ね。鈴木氏が迎えにきてくれたのよ」
車の乗り降りまでも肩を貸してくれた。いい右腕に出会うというのも才能だろう。
「よかったわ。救急車できて帰りは普通の車だなんて、にこにこぽんだわ。絆さんもがんばったわね」
「絶賛の笑顔だな。体には気を付けるよ。それよりも鈴木氏や怪我を癒している社員の方を労わなくてはだね」
本家の建物も再建されており、落ち着けそうだ。
「ただいま」
「お帰りよ。二代目、二代目姐」
入って二間先の畳の間へと通された。
「あ、お父さん……」
色々なことを振り返り、少しうるっときた。
「久しぶりに娘の顔くらい見たいだろう? 大切なことだが、今度の水曜日にしたからな」
「ん? 父上、なんでござるか?」
絆さんを座らせるとお義母様が高笑いをした。
「ははは、心の美しい二代目姐の晴れ舞台だよ」
✿
ホテル・白神ラパンにて。絆さんは母の野々川千代子様や大勢の方々とで、私は父の白神日向とうさカフェの店長とで控室にいた。
一皿目のオードブル、二皿目のスープ、三皿目のポワソン、四皿目のソルベ、五皿目のヴィヤンド・レギュームと、皆食べた食器は下げられ、六皿目となる。本日の想い出ともなるお食事だった。
六皿目【デザート】
<カフェ・ウ・テにプティ・フール>
紅茶はこの場、人前結婚式に呼ばれた者全てに。うさちゃんの形をした砂糖菓子を添えて。
「皆、いるかい――?」
「へい、本家姐さん」
絆さんが立ち上がり、私もそれに続く。
「新・野々川に、祝福あれ!」
「二代目! 二代目姐さん! カンパーイ!」
お見合いをしてからこれまでのことが人前結婚式のようだった。
「あれ? 本当の指輪交換はされないの?」
「あの……。サイズをお聞きしていなくて」
うっかりした。
「――天然な絆さんが大好きよ。誓いのキスで赦してあげるぞ」
「あ、それだけは。それだけはご勘弁を。亜美さんだって恥ずかしがり屋さんだよね。無茶はいけない」
「ファーストキスの次はカウントしないことにしたんだ」
意地悪くした。弄りたい夫みたいだ。
「いつ……?」
「あらあ、勿体ない。気が付かなかったかあ。うふふ」
「いつされましたっけ? いつ?」
「だって、絆さんが気を失ってたんだもん。もしものことを考えて、お別れの前にと思ったんだもん」
頭を三度も下げられた。
「今夜からもよろしくっす」
「うさちゃんをベッドに入れてもいいならね」
「駄目に決まっているっしょ」
【了】
こんにちは。
いすみ 静江です。
*イラストはいすみ 静江が描きました。シーナは愛犬の名前です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
皆様の幸せを祈っております。