8番ゴンドラでプロポーズすると恋が実るというジンクスがある観覧車なんだが、プレッシャーが重すぎてつらい。
俺は地方都市の遊園地、ワンダフルランドにある観覧車だ。
ワンダフルランドは都心から車で2時間くらいのところにある。
元々は県内民が来るだけの地味な遊園地だったんだ。
ある日人気沸騰中の芸人が俺のゴンドラ内で恋人にプロポーズして成功した。
そのことをSNSにアップしたら大バズリ。
連日バラエティ番組の取材が来るし県外からも客が殺到する事態になった。
【ワンダフルランドの観覧車の8番ゴンドラで告白すると恋が実る】
というジンクスが生まれ、重い肩書きを背負うことになったのだ。
初々しいカップルから、緊張しすぎて死にそうな顔をしているカップルまで、行列をなす。
「ここで告白したら成功間違いなしって聞いた。おれ、このデートの最後に告白するんだ」
「アタシたちも運命のカップルの仲間入りかなぁ! 告られたらSNSで自慢しよー!」
俺にそんな責任を押し付けるな!
俺はただの観覧車だ。
キューピットでも何でもないただの観覧車だ!
ある日、頂上で5年付き合った彼女にプロポーズした男がいた。
男が震える声で「春美さん、結婚してください!」と叫び、女が泣きながら「はい。正彦さん。あなたの奥さんにしてください!」って答えた。
俺は心の中で叫んだ。
(リア充爆発しろぉぉぉぉ! 見せつけんなよ! これまで何年も俺に見向きもしなかったくせに芸人がプロポーズした途端これだ。どいつもこいつも!)
いや、いいんだよ。お前らの恋が実ったのは本当に良かった。
でもな、俺はただの観覧車だ。お願いだから、俺に背負わせるプレッシャーを少し軽くしてくれ。
ジンクスとかなんぼのもんじゃ!
本当に相手を好きなら俺に乗らずとも告れ!
誰か一人でも告白失敗者が出た途端来なくなるんだろお前ら!
いっときの流行りさ。
どうせ孫連れのじいちゃんばあちゃんや親子連れくらいしかこなくなるんだ!
俺の気なんて知らずにカップルがまた8番ゴンドラに乗り込む。
ジンクスが早く終わってくれと思いながら俺は回る。
そしてお疲れモードな俺の耳にまた「小百合さん結婚してくれ!」「喜んで!」の声が届くのだった。