一章⑤
『ルミナス・テイルズ』の発売当初、サルファードは攻略不可のラスボスヴィランだった。
だが、その麗しいビジュアルと、冷酷な暗殺者という設定が人気を博し、キャラクター人気投票では堂々の第一位。最近のヴィラン人気にも後押しされ、ついに先日、彼を攻略できる『サルファードルート』が追加配信されてしまったのだ。
そのポジションは、乙女ゲームの花形『教師枠』。
魔法学園の特別講師としてルーナに近づくサルファードと、そうとは知らずに惹かれていくルーナ。いわゆる教師と生徒の禁断の恋と、ルーナの保護者であるモーヴハルト王子との三角関係にドキドキハラハラする展開には、彼を大地雷とする私でさえも夢中になるほどだった。
ところがどっこい、このシナリオ。
終盤から火蓋を切るのは、彼の強烈な二面性を忠実に再現した凄まじい鬱展開なのである。
(すべての惨劇はサルファードの闇堕ちから始まる……! とある事件がきっかけで、闇の魔力に心を蝕まれて闇堕ちした彼は、憎悪にかられて公爵家に逆らい、愛するルーナを手に入れるため、恋敵である王子を暗殺。その際、彼を庇ったルーナを手にかけてしまう……!)
すべてを失ったサルファードは、彼女を生き返らせるために魔王の封印を解き、人であることを失う代わりに強大な闇の魔力を手に入れる。
生き返ったルーナは、新たな魔王と化したサルファードの愛を受け入れ、結ばれるーーだが、人である彼女は、やがて寿命を迎えて死んでしまう。
そんなルーナを、サルファードは再び禁忌の魔法で蘇らせる。
何度でも、何度でも。
度重なる蘇生と、何百年という年月を生かされることに耐えきれなくなり、ルーナの身体が朽ち、心が壊れても。
サルファードはルーナを蘇らせ、崩壊していく彼女を愛し続ける。
何故なら、二人の愛は永遠だからーー
(いや、バッドエンドーーッ!! どうして、この壮絶な闇堕ちメリバエンドがベストエンドなのっ!? 流行ってるからってやりすぎでしょうよ製作陣! 初めてクリアしたとき、怖すぎてトラウマになっちゃったよ! ーーああ、何故なの、ルーナ……っ! 完璧スパダリ溺愛お兄様のモーヴハルト王子をはじめ、魅力的な攻略キャラクターは他にもいるのに、なんでよりにもよってサルファードルートを選んじゃったの……!?)
由々しき事態である。
幸い、今はプリマヴェラが死亡した直後のため、まだ闇堕ちは免れているが、このままシナリオが進めばサルファードに推しが殺されてしまう。
ーー回避しなくては。
絶対に、サルファードの闇堕ちエンドを許すわけにはいかない……!!
「聞いているのか、プリマヴェラ! 今更そのように狼狽えても、取り返しがつかんのだぞ! お前があんな場で生き返ってしまったせいで、我が公爵家が死者蘇生の禁忌の魔法に手を染めたという噂が広められている。このままでは、月の乙女を担ぎ上げる反公爵家派の連中をつけ上がらせてしまう……!」
「ーーッ、はっ!? す、すみません、お父様……! 生き返ったショックのせいか、頭がぼうっとしてしまって」
「はぁ……。やはり、これ以上は役に立たぬか。ーーサルファード。私はこれから王宮に向かい、此度の一件を王にご報告する。後の処分はお前に任せるぞ」
「かしこまりました」
公爵は厳しい視線で私を一瞥すると、魔法医師団を引き連れて寝室を出て行ってしまった。
(怒らせちゃったかな……。でも、今はそれどころじゃない。本当に、この世界がサルファードルートの通りの運命を辿っているのか、一刻も早く確かめないと……!)
「あ、あのっ! 義兄様、少しお聞ききしたいことがあるのですがーーあれ?」
だが、バタン! と寝室の扉が閉まると同時に、それまで扉の側に控えていたサルファードの姿が忽然と消えた。
「ーーえっ?」
「さて。それじゃあ、そろそろ……していいかな?」
目の前で声がした瞬間、私の身体は寝台に押し倒されていた。
身体にかかる重みを感じたのはその直後だ。
ハッと目を見開いたときには、私の身体は馬乗りになったサルファードによって寝台に押し倒され、両手を彼の左腕に拘束されていた。
(ええっと……? な、なに? この状況は……い、一体、なにが起きてるの……?)
「え……っ? あ、あの、義兄様……してもいいって、なにをですか……?」
人形めいた美貌は、眉一つ動かない。
爛々と底光りする蒼い双眸が、獲物に襲いかかろうとしている猛禽類にそっくりだ。
気がつけば、それまで室内に待機していたはずの執事やメイド達の姿はない。いつの間に人払いしたのかと目を見開く私に向かって、サルファードは質問の答えだと言うようにナイトドレスの胸元に手を伸ばしてくる。
シュル、とそこを飾るリボンを解かれれば、あっという間に鎖骨のあたりまで露わにされてしまう。
(誰もいない寝室に二人きり……! それで寝台に押し倒して、服を脱がせるって、まさか、まさかそそそういうこと……っ!?)
義兄と義妹なのに!?
それ以前に、あのサルファードがあれほど嫌っていたプリマヴェラに対してこんな真似をするなんて信じられない。
このまま抵抗できなければ、私はどうなってしまうのだろう?
「ーーーーッ!?」
頭に浮かんだ想像のあまりの恥ずかしさに俯くと、サルファードは愉しげに喉を揺らした。
「ふぅん……思っていたよりも楽しいな。俺はずっと、お前をこうすることを、待ち望んでいたのかもしれないね」
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