㉕ 出逢い
「おはようございます、均也っ遅刻するわよ!」可愛い元気な声は萌笑である。
あれから3ヶ月、彼女の家は店と兼用住居だったので、引っ越していた。
萌笑の新しい家は、均也の家と学校の間ぐらいにあるのだが、学校から遠ざかって毎朝均也を迎えに行っている。
「萌笑ちゃん、おはよう。いつもごめんなさいね、あのバカ急がせるわ。」
萌笑の家族と均也の家族は、かなり親しくなった。同じ境遇を背負った家族同士が、お互いを思いやり、お互いが精神的支えになってゆく。 特に萌笑は。
彼女の名前の由来は、父がいつも周りにニコニコ笑顔で元気を振り撒いてくれるような子に育ってほしいと名付けられた。
幼少期の頃にはいつも公園などで「こんにちは!何してるの?」と自分から挨拶をしていたが、幼稚園ぐらいから、声をかけても素っ気ない態度をされたり、無視されるようになった。
挨拶をしない子供、時代の流れというのか、子育てが原因なのか、寂しさを感じる。
それからというもの、萌笑は知らない人に喋りかけなくなり、笑顔が少なくなった。小学校に上がっても、いつも本を読み、必要以外の対話を避けるようになる。
しかし事件以降、均也に元気付けられ、寝込んでいる母を元気付ける為、笑顔を取り戻した。
均也が毎日「お前の名前はいつもにこにこ萌笑ちゃんや」と。それは父が言っていた言葉でもある。
それからというもの、いつも笑顔になり泣かなくなった。 ひとり寝る時以外は。
萌笑の母親も最近寝込まなくなり、手伝っていた父の店、華笑軒を復活させるために動き出している。
均也の母も、そんな子供たちを見て元気を貰っている。
最近、二人のクラスで噂になっている事がある。それは、向井賢治くんの父親が二人の親を見殺しにして犯人を助けたと。
子供は親の井戸端会議や愚痴など、しっかり聞いているのだ。
他人の不幸話や妬みを言う親の子供は、悲しいかなそんな性格が染みつく。
萌笑も内心は、なぜ優しい父や命を助けてくれた均也の父親が亡くなり、極悪犯を助けたのか?そんな気持ちが賢治に向いてしまう。
そして今日の休み時間は酷かった。女子にモテる裕福な家庭の賢治を、意地の悪い男子達が囲んで問い詰めたのだ。
「おい、なんでお前の父ちゃんは人殺しだけを助けたんだ?」
賢「違う!お父さんは言っていた、医者は目の前の命を救う事が先決でみんなを救おうとしたんだ。」
「かっこつけてんじゃねーよ!」
今にも集団暴力が始まりそう、クラスメートは恐々見守っていたが、そんな空気を打ち破ったのは、
「お前らいいかげんにしろ!」均也であった。
均「父ちゃんは死ぬ前に言ってた!警察はみんなを守る。医者はみんなを助ける。絶対わざとじゃねえ!」
父の話を思い出し、こぼれそうな涙を必死に耐えている。
萌笑も涙があふれた。自身の恥ずかしい思い、均也の純粋な心に。
教室の空気は一瞬で変わり、そのまま日常の風景に戻っていった。そして均也は賢治の席に向かった。
賢治の横に座った均也が「お前は全く悪くねえ。お前のおやじも悪くねえ。」
萌笑は居ても立っても居られなくなり、賢治の席まで向かう。
「ごめんね賢治君。私も今まで嫌な気持ちがあったの、でも今はほんとにそう思う!」
賢治は我慢していた涙がこぼれる。
そして、三人は今日の日に出逢い、絆が生まれた。
次のお話は「㉖話 サン」
サンちゃん登場




