㉔ 最後の別れ
葬式。ここまで悲しさに満ち溢れている空気は何から来ているのか?
理不尽と不条理の思いからか、無意識下でこの小さな町中に伝達されているのかもしれない。まだ若い命、それも同じ町内でふたつも同時に行われた。
華笑軒の店主・出雲巧、警察官・平信護。
医師向井尚志は全力で施術したが、二人の命を救えなかった。
そして、犯人だけが救われた。
向井尚志は医師として目の前の命を救うことが使命だが、もし事件の詳細を施術前に知っていたら、可能性が低くても優先順位を変えたのか、医師として人間として、今現在も葛藤し続けている。
平信護の葬儀が先に終わる。小さな町なので火葬場が同時に被らないよう時間をずらしているようだ。
均也の母親は喪主として凛とした姿勢で務める。警察官の妻として、プライドにしがみ付いているようだ。火葬場で最後の挨拶の時には、崩れひざまずいていた。決壊したダムのように。
昨晩、均也は泣き明かしたが葬儀では唇を噛みしめ、最後の挨拶での涙を最後に、小学生ながら男の表情を保つ。
父親に教えられてきた強さを引き継いでいる。
うなだれた母親を抱きしめ、震えがとまると、立ち上がり走り出した。
一人で泣きに行くのだろう、そっとしておこうと皆が思った。
華笑軒の店主、出雲巧の葬儀が始まっている。萌笑と母親は涙が止まらず、一歩も動けない。
火葬場への移送が始まり、叔父がサポートしてくれたお陰でなんとか進行している。二人は叔父に手を引かれるまま霊柩車に乗り込む。
萌笑は身内のお葬式は初めてであった。火葬場までの車内は会話も無く、ただ静かに時間が過ぎていく。
火葬場に着くと、駐車場に男の子が一人立っていた。
車を停めると、その子は萌笑の所に歩いてきた。
「出雲、元気出せ。そして見送ってあげよう」と均也が言った。
彼女は返事も出来ない。
「おれも同じだよ、先に見送ってきた。一緒に居たら心強いだろ」
萌笑は均也の胸を借り、大声で泣きだした。
「平君、本当にごめんなさい、ありがとうね。あなたも一緒なのに。」母親がお礼を言う。
「ぼくはお父さんに、悲しんでいる人が居たら、笑顔で助けてやれっていつも言われてきたんです。特に女の子には優しくしろって。ぼくも萌笑の悲しさが分かるから」
そう言いながら声が震えだし、涙をこぼさないよう上を向きながら泣いていた。
萌笑も母親も救われた。こんな小さな男の子が自分の悲しみを超えて、他人に優しさをくれている。
火葬場での最後の別れの直後なのに。
次のお話は「㉕話 出逢い」
この辺は修正の度、泣いちゃいます‥




