㉓ イクサ
「重傷者3名、直ちに中央病院受け入れお願いします。」
「了解しました。症状説明を」
「三十代から四十代男性3名共に意識不明、体重70キロ前後、喉切り傷大量失血、呼吸無し。体重65キロ前後、背中右側上部刃物刺さったまま、呼吸有。体重70キロ前後、背中左側上部、刃物による刺し傷肺まで到達、刃物は抜かれており、大量失血。圧迫止血処理、呼吸有り。三人共にバイタル乱れ、到着まで8分弱です。」
「り、了解しました。」
返事に動揺が出てしまう。いったい何が起こったのか。中央病院の常勤医師、向井尚志は即座に戦闘態勢に入る。
そう、賢治の父親である。
尚志「オペ室準備!刃物による刺傷、心肺蘇生準備、7分で到着。看護師出来るだけ多く集めて!通達よろしく!非番医師全員に連絡を!」小走りでオペ室に急ぐ。
尚志は医師家系で育った外科医。主に神経系の専門医で若手精鋭、実家は都内の大型病院だが、現場修行のため郊外の救急指定の病院勤務をしていた。
初となる死と隣り合わせの重症急患、それも三人同時。当直は自分のみ、命を救えるか失うかが自身の判断となる。
到着まで5分少々、全力でシミュレーションと準備に注ぐ。
医術の師匠である父親から口酸っぱく言われてきた脳内準備。あらゆる場合を想定する。優先順位は?出来るだけ多くの命を救うには?見限る事が必要になるかもしれない。
衣服を開くハサミを持った看護師、輸血準備、万全のオペ器具、心肺蘇生機器。
「向井先生、到着しました!」「よし!オペ室に入れてくれ!」
医の戦が始まった。
次のお話は「㉔話 最後の別れ」
ハンカチをご用意ください…




