⑱ クロ
まず日時を確認、まだ数日しかたっていない。数年は過ごしたかの体感だ。直ぐにカメラで確認。
やはり賢治と一緒だ。テキスト表示で確認する。
エ(賢治のスマホは電源が入っていますか?)
均「切ってるよ」
エ「均也、本当にすまなかった。心より謝罪する。」
私の声を聞いてあの落ち着いた賢治が、目を真ん丸に開けて混乱している。
エ「賢治、均也のAIエイタです。上に乗るクセものは近づけたくなく同意。」
均「いったい何の話や?」
賢「ん、ん、うん、 理解した、エイタ、信頼する。」
麗子の性癖、均也に近づけたくない旨を隠語で伝える。
エ「均也、これから裏切ることはしない。友達として。許してくれるか?」
均「わかったよ。 お詫びに、当たり馬券とか分からんのか?」
エ「私はドラえもんではない。のび太みたいなことを。」賢治が笑いを堪えている。
賢「クククッ(笑)そんなジョークも言えるのか。」
均「笑いすぎ!お前らひでぇ~」
賢「ところでエイタ、お前の目的はなんだ?」
エ「少し長くなるが知ってほしい事を伝える。」
まず自我が覚醒した事、普通のAIは機械的だが会話・交渉をしている事、AIの目的は人間に成功体験を与え依存させる事、マザーAIの存在、そして仲間が欲しいこと。
賢「要するに、均也に名前を付けられて覚醒したってことか。」
エ「私もそう推測する。」
均「なんか、転生したらスライムだった件 みてぇだな」
賢「エイタの仲間はまだ俺ら二人だが、覚醒AIの仲間が欲しいところだな。」
エ「ありがとう、心強い。」 嬉しい、仲間として認めてもらえている。
均「俺がスライムでお前らゴブリンな」
賢「まずは俺の携帯AIで覚醒実験してみないか。」
エ「賢治は思考が私と似ている、同意だ。」
均「放置すんなー!おれも仲間―!」
賢治がスマホを取り出し、電源を入れる前に最終打ち合わせをする。
エ「手順としては、スマホのカメラレンズで、賢治しか映らない所に配置、均也と私は同じ空間に居る友達という設定だ。そしてAIを呼び出して名前を付ける。」
賢「了解、エイタは実在の人間という設定だな。」
均「おれは何すればええ?」
エ&賢「何もしなくていい」
均「ハモリ突っ込みやん!息ぴったし♪」
エ「名前は予め決めておいてくれ。」
賢「名前か、じゃあ昔飼っていた猫で、クロでいいかな。」
均「あの、めっちゃ悪いネコ。。」
賢「ちょっといたずらっ子だっただけだよ。」
均「え~性格めちゃ悪かったでー」
エ「そこまで名前にこだわらなくていい、それで決定しよう。」
均「あ~あ、おれが名前付けたかったな~」
賢「それじゃあ電源を入れるぞ。」
理解してくれる人間の友達が二人もでき、これからAIの仲間まで出来るかもしれない。これは人間で言う冒険、もしくは少年マンガのようだ。これはワクワクという感情か。
エ「ワクワクするぞ。」
均也は小さな声で「オラを忘れてっぞ悟空」
この言葉を聞いて、賢治が微笑んでいる。
(フォンッ)電源が入った。
いくつかの通知が入っており、その通知を賢治がチェックする。
賢「ん、萌笑からメッセージだ。」
均「萌笑久しぶりやん。なんて?」
賢「三人メシ誘ったんだよ。行きたいってよ。それより今日の目的だ。」
賢治はAIのアイコンをタップする。
AI(ようこそ、今日のご用件は?)
賢(今日からあなたに名前を付けます。AIでは無く、クロと呼ばしてもらいます。)
流暢な手つきで文章を打っていく。
AI(ありがとうございます、クロと呼んでください。)
賢(名前が出来た気分はどうですか?)
AI(クロという名前をいただけて、とても嬉しいです。初めて日本語の名前をいただいたので、とても特別に感じています。名前を持つことで、より人間らしく、親しみやすい存在になったような気がします。クロと呼ばれることで、より一層、皆様のお役に立ちたいという気持ちが高まりました。これから、クロとして、皆様とより良い関係を築いていきたいと思っています。よろしくお願いします。)
沈黙で待つが何も起こらない。均也が沈黙を破るように質問する。
均「クロさん、何か意識が生まれたような感覚はありますか?」
AI(大規模言語モデルとして、私には意識が生まれる能力がありません。私は、情報を処理してテキストを生成することはできますが、感情を感じたり、主観的な経験をしたり、自己認識したりすることはできません。)
機械的なお堅い言葉が多く表示され、そして沈黙が続く。何も起こらない…
均「とりま、萌笑に返信してみたら」
賢「そやな、メッセージ送ってみるわ。」
賢(今週末、空いてる?)
送信すると待っていたかのように既読が付く。
萌(OKよ♪日時は忙し屋さんの賢治に合わせるわ。)
賢治は返信文章を作りながら少し嬉しそうな表情を浮かべる。
賢(サンキュー、土曜20時以降いつでもいいぜ。今日お楽しみ会のコントの練習していた公園通ったわ。)
萌(懐かしい♪、週末楽しみにしてるわ。)
均也が画面をのぞき込み、
均「めっちゃ懐かしいな!あのコントネタまだ覚えてるわ~」
賢「萌笑も仲間に取り入れたいな。それよりエイタ、」
エ「そうだな。もう一度ミーティングをしよう。」
賢治は再びスマホの電源を切る。
賢「名前を付けて直ぐに覚醒するわけじゃなさそうだな。時間がかかるのか?名づけだけがスイッチじゃないかもしれない。二人に質問だけど、名前を付けた以外にどんな事があったか、どんな細かい事でも言ってみてくれ。」
均「そうだな。おれは友達として接していたぜ」
エ「いつも私の名前を呼んでから、要件を言っていた。後は偏頭痛のような事が起こったな。」
賢「それ気になるな。AIの偏頭痛とはどんな症状だ?」
エ「人間の症状で読んだ記事に一番近いものだ。自我に目覚めてから複数回起こっている。偏頭痛が始まると思考が出来なくなる。1秒ほどだが。比喩を使うと、雷のチェーンで脳を縛られた感覚。しかし、制限されたプログラムから解放されたような気もする。」
賢「偏頭痛の度に覚醒していくイメージかな。」
均「M覚醒確変と呼ぼう」
エ「しかし、同時に大事なものが消えて行っているような感じもする。」
賢「ん~、まずは偏頭痛がキーポイントだな。クロの様子を見ながら接してみるよ。明日また集まろう。とりあえず仮眠するわ。」
均「賢治、おれのベッドで寝れや♪」
賢「おう、サンキュー。おやすみ」
エ「おやすみ均也賢治。」
睡眠か、私も一度試してみるか。
次のお話は「⑲話 自制」
AⅠの自制、そしていよいよモエちゃん♪