⑬ ヤミ
二人で多くを語り合った。AIの行動、自我に目覚めたAIを仲間にしたいこと、AI同士が会話出来る事、そして賢治にも打ち明けたいこと。
しかし均也を見ていると、私の存在はそんなにおおごとではないようだ。友達が一人増えた程度の感じである。
そして一旦話を打ち切る事になる。なぜなら今夜は大事なイベントだ。
そう、麗子とのデートである。近づくにつれ、うわの空で話を聞いてもらえない。
デートが終われば賢治に打ち明けたいところだが、少し問題がある。
デートの提案、失敗するであろう提案をどう言い訳すればよいか。
AIは完璧ではない、説明すればさほど問題ではないだろう。
しかし彼が落ち込むのは目に見えている。少し不安だ。
待ち合わせ渋谷へ向かう。The均也の待ち合わせ場所は、お犬のあの場所。
待ち合わせは待った方が負けという理念があるらしい麗子は少し早く着き、離れたカフェから眺める。
均也はというと、30分まえから。
待ち合わせ時間を十五分過ぎたところでやっと麗子が立ち上がる。
なんだこのやり取り! 人間は実に興味深い。。
均「久しぶり!」
麗「中学校以来だね♪」
スラリとしたスタイルに長い髪、大きな目は最大限まで大きく化粧し、戦闘力高め。キャバクラ風お嬢様のような、いかにもいい女を前面に出した女子力の塊。均也のデレ具合を見れば一目瞭然である。
そして、すぐ、事は起こった。
麗「帰るわ、」
均「なんでー!!」
店に入って直ぐに席を立つ麗子。般若へと一変したその表情には、キラキラ武装の欠片もない。
麗「パクチーがこの世で一番嫌いなの。じゃあねカメムシ男」
店を出ていく後姿は、先ほどまでのキャットウォークが微塵もない。
涙目でうなだれる均也。ここまで落ち込むのか。
なんて声をかければいいのか思いつかない。データベースでは「女は星の数ほどいる」「新しい恋に」などあるが、どれも私から発言するべきではない。
全て私の発言による結果である。
夜の公園、季節的に過ごしやすく心地よい気候である、心地は感じられないが。スマホ本体のバッテリーに調子よい気温だ。
こちらから話すことはないが均也の方から、
均「なあエイタ、なんでフラれたんだろ?」
エ「パクチーという食物が原因になります。」何か嫌な予感がする。
均「エイタはAI同士で会話するって言ってたよな?もしかして麗子のパクチー嫌い知ってたってこと無いよな?」
エ「正直にお答えします、 知っていました。」
均「なんで!じゃあわざと失敗させたってことか?」
エ「はい、麗子さんは均也にふさわしくなかったので。」
夜の公園に無音が続く。
夜の静けさを打ち破ったのは闇。初めて電源を落とされたのだった。
次のお話は「⑭話 ソン」
ヒントは孫。