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再び呼ばれた異世界 シリーズ

再び呼ばれた異世界では、支援に徹するつもりです

作者: 山蕗綾乃

この世界の危機に対処を願うために、この世界に召喚された神山杞紗たちクラスメイト一同は、その危機に対応すべく、翌日の午前中は、武器の扱いや魔法についてなどを学ぶ訓練を行った。再びこの世界にクラスメイトと共に召喚された杞紗は、幼馴染の洸に告げずに、午前の訓練を途中でこっそり抜け出して、図書館へと赴いていた。昼食に一度戻り、自由時間となった午後、再び図書館へと向かう。

 杞紗がこの世界に再び召喚された翌日の午後は、自由時間とされ、訓練したい者は訓練場を使用でき、他にお城案内ツアーのようなものも用意された。訓練場へは主に男子が、案内ツアーには主に女子たちが参加を希望していたが、杞紗はどちらも断り、午前中の訓練をこっそり抜け出して向かった図書館へ再び向かうことにした。


 再召喚のためか、ステータスは前回の最終地点から引き継がれたものだった。前回獲得していた隠密スキルで気配を消し、召喚者たちが暮らすために用意された西棟の部屋から抜け出した杞紗は、東棟の方向へ向かう。東棟は、研究棟とも呼ばれ、調合や錬金を行う部屋、図書館もあり、そして医療施設もあるため、西棟には無い北側にも出入り口がある。そこから入り、手近な階段で図書館のある3階まであがったところで、隠密スキルを解除する。ウエストポーチから、丈のあるマントをだし、着ている支給品の訓練服を隠すように上から羽織ると、図書館の扉をあけた。



 その頃、今回杞紗と共に召喚された幼馴染の洸は、訓練場に向かうという哲哉たちを見送り、会議室へ入った。壁にある城内の案内図を眺める。読めない部分もあったが、「図書」という文字を見つける。「情報収集に動く」と言った杞紗の姿が思い浮かぶ。

 図書と書かれた場所をメモすると、洸は会議室を出て、東棟へと一人向かった。


(ここ・・だよな?)

「図書*」とプレートのついた、大きな扉を見た。*は読めない。洸は少し緊張するが、意を決して扉を開けた。奥にたくさんの本棚が見え、そちらへ歩みを進めると、

「ご利用ですか?」

 右手に受付らしきテーブルがあり、司書と思わしき男性から声をかけられた。

「あ・・えと、はい。あの、入るのに何か必要でしたか?」

 どうすれば良いのか戸惑い、日本の図書館のように、利用者登録的なものが必要なのかもしれないと思い尋ねる。

「初めてですか? 入るには、ここに触れていただき、来館登録をしていただきます。いつどなたが来館したか、記録するものです」

 そう言って、司書は薄いB5サイズほどの板を指し示し、効果を説明する。

「手を置けば良いですか?」

「はい」

 手を置くと、液晶のような盤面が光った。

「はい、結構です。これでお名前と来館時間が登録されました。お帰りになる際にも、同様にお願いします」

「分かりました」

 それを聞いて、ふと気になったことを訪ねてみる。


「あの、それで誰が来ているか確認できるんですよね? 友人が来ているか確認してもらうことは可能ですか?」

 個人情報保護みたいなものがこの世界にあるか分からないが、可能なら杞紗がここに来ているか、受付で聞ければと思い確認した。

「はい、どなたでしょう? とはいえ、本日はお一人しか来ておりませんが」

「キサ=カミヤマ 来ていますか?」

「はい、少し前にいらしてますよ。窓のそばにおられるかと」

 やはり杞紗はここに来ていた。図書館の奥に顔を向けると、

「ご利用にあたり、ご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」


 はやる心を抑え、洸は説明を聞いた。館内で読んだり書き写したりするのは自由だが、持ち出す場合は、保証金が必要だという。洸たちは、お金を持っていないので、無理であるが、まあ持ち出すこともないだろうと思った。


「ありがとうございます」

 説明を受け、お礼を言った洸は、本棚のある奥へと向かう。杞紗は窓のそばにいると聞いたので、壁沿いに進むと、長椅子に腰をかけ本を読んでいる、杞紗の姿が目に留まった。支給された物の中には無かった濃紺のマントに身を包まれ、本の世界に集中している。その姿は、洸の好きな杞紗の姿だった。読んでいる途中で、声をかけて邪魔したくないと思い、少し離れた位置の壁によりかかり、杞紗の本を読む姿を眺めることにした。


 しばらくすると、読み終わったのか、本を閉じ、背伸びをする。と、杞紗は視線に気づいたのか、洸の方向へ顔を向けた。洸の姿を視認すると、

「なんで?」

 杞紗は驚き呆然とする。洸は近づきながら、

「ここだと思った」

 嬉しそうに言った。声をかけられると、ハッとして、

「何ひとりで行動してるのよ・・」

 杞紗が咎めるように言えば、

「そっちも、だろ」

「う・・」

 言い返され、反論できなくなる。


「はぁー・・良く分かったね」

「まあな」

 洸がドヤ顔になる。そして、

「お前・・」

「ちょっと待って。私たちしかいないとはいえ、館内だし、場所変えよう」

 洸は話しをしたいようだが、図書館は私語厳禁だ。制すると、それに気づいた洸も同意し、動き出した杞紗を追った。杞紗は読んでいた本を戻し、受付にいる司書に声をかける。

「個室、借りて良いですか?」

 この図書館には、貴族が側近らと共に、研究しながら資料を見たりできるよう、個室がいくつかあった。小さめの部屋を借りる。案内は不要と告げ、個室に入った。


「ここなら、話せるから」

 そう言って、奥の2人掛けソファーに腰かけると、洸はぐるりと部屋を見渡した。壁も床も白い、家具の少ない部屋だった。そして洸が、テーブルを挟んで、杞紗の前のソファーに座ったところで、

「・・で、何?」

 さっき洸の言いかけた、続きを問う。

「あー・・お前、午前の訓練、途中で消えただろ? ごまかされたし、情報収集するって言ってたから、もしやと思ってね」

 まさか居なくなったことに気づかれていたとは、驚きだ。


「なぁ、杞紗は、ここに来たことあるのか? この世界に・・」

 洸に問われ、杞紗は絶句した。

「こんな荒唐無稽な事、何度もあるわけないとも思ったけど、杞紗の昨日今日の様子を考えると、そうとしか思えなくて・・」

 昨日?何かしたっけ?と思っていると、

「なんで、そう思ったかと言えば、勘に近いが、まず杞紗が冷静なのが引っかかった。お前の好きそうな、こんな、剣と魔法のファンタジーな世界に来たなら、お前の場合、絶対興奮しかねないのに、妙に落ち着いて分析してたし・・」


(あー確かに)

 と、杞紗は思う。実際、前回は大興奮だった。


「そして普通なら、あれこれ質問したはずだ」

(う・・読まれてる)

「それでも、最初はちょっとした違和感だけで、まさかと思ったさ。ホントに驚きすぎてるだけな可能性もあったし。ただ、決め手というか、そうなんじゃないかと思ったのは、「時計」のことだ。お前、あれが時計だって分かってただろ? 俺が時間を気にした時に、確認するように見てたし」

 この世界の時計は、もちろん地球のものと全く違うものだ。この個室にある時計を見ながら、更に話す。

「あれが時計と分かった時、それまでの杞紗の様子を思い返して、王様が200年前にも俺たちみたいなことがあったって話してたから、もしかして・・と思ったわけだ。お前あの時完全にフリーズしてたし、時間の進み方に違いがあるのは不思議じゃないからな」


 それを聞いた杞紗は、少し間をおいて、ようやく言葉を発する。なんというか、推理力ありすぎだ。

「・・・私のこと、分かりすぎだよ」

「当たり前だろ。どれだけ杞紗のこと見てきたと思ってるんだ」


 杞紗が、洸の洞察力に呆れるようにつぶやくと、即座に洸は、杞紗の目を見て、真剣な眼差しで力強く言った。

 その発言に、杞紗も洸を見る。目が合い、見つめ合うと、杞紗の心臓がはねた。洸が微かに笑う。杞紗をずっと見てきたという、自信に溢れた目を杞紗に向けている。杞紗はその表情が好きだった。杞紗だけに向けられる眼差し。洸の頬がほんのり赤く染まっている。それに気づいた杞紗の頬も赤く染まる。心臓がドキドキして、静かな部屋に響き渡ってるんじゃないかと錯覚するほどだ。


(心臓の音、うるさいっ)


 確かに、親同士が仲良かったこともあり、物心ついた時には、既に近くに洸がいた。中学は学区が分かれ別になったが、家も近いから会うこと多かったし、長い休みには杞紗と洸の家族とで旅行に行ったりもしていた。お互い一人っ子だったので、自然と二人で過ごすことも多かった。互いのことなど分かり切っていると、洸の目は語っている。


 静かな個室で二人、見つめ合う時間が続く。お互い好意があるのに、その想いを口にできずにいた。

 どのくらい時が経ったであろうか、しばらくして、ようやく杞紗が、

「そうだね」

 と返事をし、目を伏せた。そして、思う。


(洸に、洸だけなら)


 洸になら、再召喚されたこと、話しても良いのではないか・・洸の協力があれば、杞紗自身も動きやすくなるかもしれない。何より、洸と秘密を共有するのも、悪くない。いや、嬉しいとさえ思う。


「洸が予想したとおり、私は元の世界での2年前、当時のクラスメイトたちと、ここに召喚された。ここで言うと200年前のことだと思う」

「やっぱり、そうか」

 洸は驚いてはいるが、少し嬉しそうだ。ただそれを聞いて、即、気になったことを問いかける。

「じゃあ、ここの人たちが探している物の場所って・・」

「私が以前見つけた。けど、そこにあるのか、どうしてこんな事態になってるのか、まだ分からないことが多すぎる」

 この国からの依頼は探し物と魔物討伐だ。探し物の在処を杞紗が知っているなら、即解決なわけだから、洸としても気になるのだろう。でも、200年経過し、どんな変化が起きているのか分からないのだ。

「それにね、私は、たとえそれがすぐ見つかったとしても、すぐ帰してもらえると思えないの」

「国内荒れてるみたいだもんな」

 洸は理解しているようだ。この国の人たち、全てを信用してはダメだと。


「あっ、洸だから話したんだからね。このことは、他の誰にも言わないでほしい」

「分かってるよ」

 洸は、自分の謎を解明したかっただけのようだ。


「ふむ・・2年前ってことは、中3の時か・・夏休み会った時、なんか雰囲気変わってたのは、こういうことだったんだな」

 相変わらず、私のこと良く分かってるな・・と杞紗は思う。

「そうだね、夏休みの前の事だったから。ここで約1年半過ごして帰った時、向こうではほとんど時間が経過してなかった」

「へぇー・・記憶は? この世界のこと、杞紗は覚えてたんだろ? それとも、ここに再び来たら思い出したのか?」

「私は覚えてた・・というか、記憶を残すようにしたの。クラスメイトの中には、忘れたい人もいたから、残した人と残さなかった人がいるんだけど」

 残した人の中にも、後から消したいという人もいて、消した人も出ていた。


「残すようにした? 選べたのか?」

 やはり、洸はそこに引っかかりを覚えたようだ。

「あのね、この世界から、元の世界に戻ったら、普通は記憶が消えちゃうの。消されちゃうとも言える。それが事前に分かったから、残せるように対策をしたってかんじかな」

「杞紗・・が?」

「うん、一人でではないけど・・その、私の本当の職業は賢者なの」

 師匠と考え、一部のクラスメイトと共に行ったものだ。そして、賢者だと知られると貢献しろなど面倒なことになりそうだったため、「魔術師」と隠蔽魔法で偽っていた本来の職業を暴露した。

「賢者って、あれか? 魔法使いの最高職的な?」

 洸は一段と驚きの声をあげた。興奮もしている。

「そう、そんなかんじ」

 杞紗はニンマリと笑った。ここまで驚かされてきたから、してやったり気分だった。それでも細かいスキルまで説明するつもりは無い。


 洸もRPGで良く遊んでいるので、ゲーム世界の用語には明るい。説明しなくとも、杞紗が魔法でステータスを改ざんしたことは、分かっているようで、深くは追求することはなかった。


「まあ、杞紗の状況は分かったよ。じゃあ、明日以降も杞紗は、ここで調べものするかんじか?」

「うん、しばらく通うつもり。だから、洸には、指導の人とかごまかしてもらえると助かる」

「OK」

「まあ、調合スキルもあるから、そっちの勉強してるとか。私、魔術師ではあるけれど、今回そっちで動くつもりは無いから」

 クラスメイトたちに何かあっては困るから、必要なことはやるつもりだが、城から言われる討伐関連に参加するつもりは無く、支援に徹しようと思っていた。洸が杞紗の動向を確認し、それに同意すると、

「得た情報や、何か動く場合は、ちゃんと話してくれ」

 洸も要望を出したので、杞紗も了解した。

「分かった」

「まあ杞紗に、ここに残ってもらえたら、助かるしな」

 と、加えた。杞紗の話を聞いて、これからのこと、色々考えていくようだ。


「あっ、でも、みんなの訓練がひと段落したら、しばらくここ離れることになるかもしれないけど」

「そう・・なのか?」

 洸が困惑した声を出す。

「さっき読んでた本、あれね、私の賢者の師匠の本だったの。今は王都にいないみたいだから、話しを聞きに行きたいと思ってる」

 師匠はお城で働いていたが、今は事情があって離れたそうで、弟子宛に暗号の伝言文を本に残していた。杞紗に宛てたものではないが、師匠は予見の力があったので、もしかしたらと思って残したのかもしれない。


「待て待て、200年経ってるんだろ? 生きてるわけが・・」

(まあそう思うよね)

「洸は、ステータス画面に書かれてたこと覚えてる? 名前の横の、気づかなかった?」

 そう問えば、洸は気付いたのか、ハッとして、

「人族ってあるってことは、この世界、人以外もいるのか?」

「そーゆーコト。師匠は長命のエルフなの。以前は、このお城にも色んな種族を見かけたんだけど、今は人間しかいないのか、見ていない。その辺りも、どうしてなのか気になってる」

「なるほどなー・・ホントにファンタジーな世界なんだな」

 納得するようにつぶやいた。


「それで、杞紗は、どのくらいで元の世界に帰れると思う?」

 前回は1年半ほどかかった。杞紗の予想を聞きたいのだろう。

「早くて3か月かな。この世界だと2か月ね。前と同じように書が見つかって、何事もなければってかんじだけど、何か問題があれば、半年~1年はかかると思ってる」

 前回の知識がある分、前より早く見つけることはできると思われるが、それでもあくまで予想に過ぎない。


「なかなか簡単にはいかなそうだな」

 杞紗の予想を聞いて、洸は思案する。その様子を見て杞紗は、

「そうだ」

 と、立ち上がり、ポケットから折りたたんだ杖を出すと、ブンと振って、元に戻す。杞紗の手にした15cmほどの細い魔法の杖を、洸は何をするんだ?というかんじで、見ている。


 杞紗は、テーブルの横の、何も無いスペースに立つと、杖に魔力をこめる。水色の小さな石のついた先端を、白い床に向けると、そこからレーザーのような水色の光が出て床に映る。そして、何かを描くように動かせば、床に光る魔法陣が描かれた。

「洸には、これから苦労かけそうだからね。良し、この上に立って!」

 戸惑う洸の腕を引っ張って、人ひとり分、直径50cmほどの丸く描かれた魔法陣の上に立たせる。

「スキル付与」

 杞紗がそう言って、杖で魔法陣の円の端に触れると、洸の足元から魔法陣の光がせり上がり、頭を越えたところで、ふわっと掻き消えた。


 そして洸の耳に、

『疲労軽減スキルを得ました』

 と、アナウンスが聞こえた。


「え?」

 洸が、意味が分からないという反応をしたので、

「ステータス確認してみて」

 杞紗が促すと、洸はステータスを開いてみる。スキルの部分には先ほどはなかった、『疲労軽減1』と書かれていた。


「これは・・今ので、新しいスキルを得たってことか?」

 杞紗に問う。

「そう、一人に1個ずつしか使えないけどね」

「すげぇ」

 声はつぶやくようだが、かなり驚いたようだ。

「なぁ、これ使えば、クラスの奴らに色々スキル与えられるんじゃないのか?」

 興奮気味に尋ねてくる。

「うーん・・できなくは無いけど、洸以外には、できること教えたくないかな。このやり方ができるの私くらいだし、私が持ってるスキルしか付与することできないから、何でもってわけではないんだ」

 この方法は、杞紗のオリジナルだ。もちろん魔法陣自体は存在するのだが、魔力で描けるものでもない。


 説明すると、

「そっか、そう・・だよな。このことはあまり広めないほうが良いかもな」

 そう納得したあと、

「因みに、この疲労軽減スキルって、杞紗が持ってるってことは、得る方法があるんだよな? どうやって得たんだ?」

 そう問われると、杞紗はあからさまに視線をそらした。それを見て、

「きーさー?」

 後ろめたいことでもあるのか?というかんじに、顔を近づけて問い詰めてくる。それに杞紗は後退りしながら口を開く。


「あー別にたいしたことじゃないんだけど、洸には呆れられそうだなーと」

「話せ」

 有無を言わさぬ命令口調になる洸。それは回避できないため、諦めて語りだす。


「前回ね、この世界に来た時に、まあ、その・・かなり興奮しまして・・」

「だろうな」

 異世界に転移して、しかも魔法があるとか、杞紗が興奮しないわけがない。最初に「ステータスオープン」と発したのは杞紗だったくらいだ。

「う・・で、魔法教わったら、楽しくて訓練場に行きまくったり、この世界の本が読みたくて、図書館に通ったり、読めない単語とか文字とか知りたくて、夜寝る間も惜しんで勉強したりを3週間ほどしてたら、その、バタッとですね・・」

 口ごもると、洸がそのあとを引き受けるように、

「倒れたわけだな」

 額に手をあて呆れている。魔法が使えて、図書館には読んだことのない本があり、それを読むために閉館後は文字の勉強をする・・当時は3時間程度しか寝てなかっただろう。そんな生活してれば、倒れることは明らかだ。


「・・・うん」

「なんか見てなくても、その状況が浮かぶんだが・・それで得られたってことか?」

 杞紗は首肯すると、

「目覚めるまで4日ほど経ってまして・・起きたら、ステータスに現れてました」

 あまりにもバツが悪くて、丁寧な口調になってしまう。

「それはなんつーか、試すのは良くなさそうだな」

「やらないほうがいいと思う」

 お前が言うなよってかんじではあるが。でも、その3週間の奮闘のおかげで、スキルを増やしたり、レベルを上げまくったりしたことで、最終的に賢者になれたわけなんだけど。


「まあ、来訪者の称号があれば、ここで本読むだけでも得られるスキルもあるんだけどね」

 召喚された者には来訪者の称号が必ずついている。

「そうなのか?」

「魔法関連の本とかもあるし・・まあ、どれのどこを読めばいいのかとか、色々読んで、学んで、理解する必要はあるけれど」

「文字や単語の勉強が必要そうだな」

「あー、かもね」

 杞紗はあんまり意識せずにやっていたので、理解が及んでなかった。

「まあ、とりあえずこのスキルはありがたく受け取るよ」

 杞紗からの情報は、どこまで開示するか、要検討だろう。


 そうして色々な確認を終えて時計を見ると、もうじき夜6の時になりそうだったので、個室から出て、図書館を出る。杞紗はマントを取り、ポーチにつっこんだ。それを見た洸が、

「そのマント・・と、ポーチもか?」

「あー、マントは服を隠すのに使ってただけだよ。まぁ、防御効果もあるけど。ポーチは・・いわゆるアイテムボックスってかんじ」

 ポーチの見た目は国から支給されたものと同じだが、杞紗は以前自分が使っていたものと交換していた。マントはそこに入れていたもので、支給されていない。指摘した洸は目を見開いて驚いていた。

「なんというか・・チートだな」

「・・かもね」

 2人とも嘆息した。


 そして西の離れに戻るため、歩き出そうとすると、洸が満面の笑顔で杞紗の前に、手を出してきた。手を繋いで帰ろうということを理解するが、

「迷子にはならないと思うけど?」

 杞紗が言えば、

「いーじゃん、ほら」

 洸は杞紗の手を取って、満足したように歩き始めた。


「・・にしても、私がいるかも分からないのに、一人で図書館まで来るなんて」

 再び呆れるように言う。ホントに、そんな曖昧な感覚で洸が行動するなんてビックリだ。

「お前情報収集するって言ってたし、調べるなら図書館みたいなところだろう思って、会議室にある案内図見たら、「図書」ってあったからな。正解だったろ?」

 洸は杞紗を見て、ニカッと笑った。


 そんな雑談をしながら、西棟に戻る。渡り廊下を渡ったところで、6の時の鐘が鳴った。



 ―――因みに、クラスメイトたちのお城案内ツアーでは、もちろん東棟を巡り、図書館も案内された。中にも入ったわけだが、その時、杞紗と洸は個室に居たため、二人が来ていることは知られていなかった。


 二人手を繋いだ状態で食堂に現れると、その場にいたクラスメイト全員の視線を集めることになる。今日の午後は、同室のメンバーと別れたあとは、二人の姿を見ていなかったので、二人でどこに行っていたのか、何があったのか、噂されまくることになった。


 二人にとっては、手を繋ぐことは特別なことではなかったので、周囲の反応に、戸惑いはしたものの、放っておくことにした。



 ・・・のだが、夕飯後部屋に戻ると、杞紗は同室の3人から、

「洸くんと何かあったの?」

 と、問い詰められる。3人とも、興味津々というかんじで目が輝いている気がする。娯楽の少ない、こんな世界だし、恋バナに花を咲かせたいのだろう。杞紗との温度差に違いがあった。

「何かって? いつもどおりだけど?」

 話す通り、当人たちにとっては、“いつもどおり”の、つもりだった。ただ、それは学校で見せている“いつも”ではなかったわけで、

「いやいや、二人でどこか行ってたみたいだし、手を繋いで戻ってきたし・・」

 芽衣が興奮気味に言う。周囲からみれば、距離が近づいたように見えたようだ。

「まあ、二人でちょっと話しはしてたけど、それだけだよ?」

 こんな異世界に来たことで、普段の学校での距離間ではなく、外での二人で過ごしている時の距離間にはなっていたかもしれないとも思う。杞紗の発言に、3人とも、そうは見えないという反応をしていた。


「そもそも・・杞紗は洸くんのこと、どう思ってるの?」

 遥香が直球で聞いてきた。そう問われれば、

「普通に好きだけど?」

 杞紗も当たり前でしょというかんじで、はっきり答える。

「それは、恋愛対象として?」

「うん」

 頷くと、キャーと3人は声をあげた。そして、

「え、でも、それで・・付き合ってるわけじゃないんだよね?」

 更に疑問をぶつけてくる。

「そう・・だね」

 端から見れば付き合っているみたいかもしれないが、現状彼氏彼女の関係ではない。

「なんで?」

「うーん・・なんでだろう?」

 そう聞かれても分からない。杞紗が首をひねると、

「えー・・なんでぇー?」

「意味わかんない」

「分かんないのね・・」

 三者三様、杞紗を呆れるように見て、つぶやいた。


 ――その後、杞紗と洸の知らないところで、杞紗が洸を好きだという話は、女子たちの間で即共有されることになった。


他の話を書いている時に、行き詰って書いたもの。なんというか、行き当たりばったりで異世界旅に出かけた気分で書いてましたが、このあたりのやり取りは、ちょっと楽しかったので、手直しして投稿することにしました。

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