第13話 六年生の社会科見学。
父さんだって読まなかったからな
「新聞が出来て皆の処に届く迄、その最初と最後にバイクが必要なんだ。」
お父さんは何処か遠い所を見ている様だった。
「今、家にも新聞が毎日届いて居るよな、たまには読んでいるか?」
「僕はあんまり読んでない。」
「嘘言わない、あんたが読んだとこ見たこと無いよ!」
「別に気にしなくて良いぞ、父さんだって読まなかったからな。」
「そうなの?」
「そうだ仕事をする迄は殆ほとんど読まなかったよ。」
「何時も隅々迄読んでるよね?」
「読まないと失礼だろ?、新聞を作った方々に。」
「そうなの?、あたし学校の勉強の役に立つかなって位だけど?」
「皆知らないんだよ、毎日命懸けで新聞が作られて居る事を…。」
お父さんは又空を見上げて居た。
「命懸け?、あたし知らないよ、たまにだけど配達されてる人が事故に会ったって載ってたり、TVのニュースが有るけど?」
「確かにその配達の方々も大変な思いをされたと思う。」
何か僕が知って居る新聞の事と違うんだ…。
「父さんの仕事は新聞を作る現場、その最初の場所で仕事をして居たんだ、お前達が生まれる前の事に為るんだが、その仕事が大好きだった…。」
そう言いながらお姉ちゃんの頭を撫でた。
「お父さん、新聞が毎日命懸けで作られてるって言ってたよね?、社会科見学で東京の新聞の会社に行って見たけれどそんな雰囲気無かったけれど、どう言う事なのかな?」
お姉ちゃんが首を傾かしげて言って居た。
「そうだな、見学で回るコースなら、印刷の工場、印刷用に原版げんばんを造るのに活字を拾って居る所、発送のトラックに積み込む所、記者さん達が原稿を書いて居る所ってコースかな?」
「僕も見学行ったけど、お父さんが今言った通りだったよ?」
「あたしの時にもそうだった、毎日これを繰り返すんだから大変な仕事だと思ったけど、命懸けって雰囲気は無かったよ?」
「どんな仕事も大変な仕事、誰かが色んな仕事をして居て呉れるから皆が暮らして行ける。」
何時もニコニコして居るお父さんが真面目な顔、時々お母さんに怒られてる時に見るけれど。
「新聞にはどんな物が載って居る?」
「政治の話、事件や、事故、後地域で出会った事やお知らせ、後広告かな?」
「僕も同じかな?、一番最初に大事な事が大きく載ってるよね、事故とか災害とかかな?」
「その通りだ、でも文字だけだったか?、他に載って無かったか?」
「載ってたよ、最初のページには大きな写真も載ってたよ?」
「そうだよな、記事だけで無く写真も載ってるよな、ならその写真は何処で撮るんだ?」
「其れは起きてる所だよ?、何か変?」
「嫌いや、何も間違って居ない、その通りだ。」
お父さんの真面目な顔が何時もの顔に戻って居た。
「少し話変わるが、東京に偶たまに車で行くよな?、何時も後ろで退屈そうにしてるけど。」
「だって退屈なんだもん、何時も渋滞して中々着かないし、話す事も無く為っちゃうし!」
「僕も同じ、時間掛かるからお姉ちゃんが悪戯して来るし。」
「そうだな、車じゃ中々行先に着かないし、大分早く出ないと間に合わないしな。」
「酷い時は外歩いてる人の方が速いんだもん、見ててヤになっちゃう。」
お父さんはさっきもしてた苦笑いしてる。
「さて話を戻そうか、さっき何所どこで写真を撮るって言った?」
「それは起きて居る所だよ?」
「そうだよな、で新聞は何処どこで作るんだ?」
「新聞社だよ、其処で作ってるよね?」
「じゃあ、その写真は如何どうやって作る所に届くんだと思う?」
「誰かが持って来るのかな?」
「じゃあ如何どうやって運ぶんだ?」
「電車?、車かな?」
「電車の無い所は如何どうする?」
「じゃあ車かな?」
「新聞て毎日決まった時間に届いてるよな?、見学の時に何か言って無かったか?」
「なんか言ってたっけ?、あたし覚えて無いよ?」
「そう言えば、決まった時間までにって言ってた!」
「良く憶えていたな、その通りで決まった時間までに写真の元、フィルムがと記事が届いて無いとどんな大きな事故、事件、災害地の様子、後興味無いと思うけど政治や国会て決まった事も新聞に載せる事が出来ない、どんなに遠い処からでも決まった時間までに届かないとな。」
その時のお父さんの顔は、真面目できびしくて、そして悲しそうだった…。
「さあ問題だ、遠い処から決まった時間までに届けなきゃいけないどうやって運ぶかだ?、知ってる通り、新聞社は東京のど真ん中だ、選ぶ物が一杯在っても困るから一つ例題を出そう。」
「例題って何?」
「例題って例えばって事だよ、お父さんが考え易くして呉れるって。」
頷うなずききながら笑って呉れた。
「そうだな大きな台風が来て電車もバスも止まってる、そんな時にすぐ傍そばの大きな川で上に通ってるあの大きな国道の橋が流された、其処にはガスの大きな管も、水道管他にも電気電話線なんかも通ってる、それも一緒に流された、大変な事じゃ無いか?」
「そんな事有ったら大変だよ?」
「僕もそう思うよ!」
「そう思うよな?、これはたとえ話じゃないんだ、大分昔の事だが本当に有った事だよ。」
「お父さん、そんな事が本当に有ったの?」
「ああ、確かに有った事だ、風も酷ひどくて、大雨で前も霞かすんで見えない位酷ひどかった。」
また空を見上げてた、お父さんは本当に遠い何処どこかかを見て居る様な顔してた。
「大変な事に為って、消防、警察、市役所の人、ガス会社の人、電話会社の人、電力会社の人、水道局の人、TV局、新聞記者にカメラマン、本当に大変な事に為って居た。」
「それって、若もしかしてお父さんも其処そこに居たの?」
「そうだよ、お父さんも其処に居た…。」
「何でお父さんがそんな処に居たの、凄く危ない所じゃ無いの、僕に解るように教えてよ!」
「さて問題だ?、さっきの新聞社にその写真と記事を届けなけらばならない、決められた時間迄後一時間だ、さあどうやって運べばいい?、車でここから走っても最低二時間掛かるよな?」
「だって残り一時間しか無いって言ったじゃない!、電車もバスも止まってるって、車でも二時間かかるってお父さん言ったじゃない!」
其処で僕は気が付いた、でも凄い風と雨の中で本当に出来るの?、そんな事が…。
「お父さん、若もしかして台風の中をバイクで届けるの…?、それをお父さんが届けたの?」
其れには答えて貰えなかった、ただニッコリ笑って頷いて呉れた…。
今では、スマホから簡単に動画を送れる時代に成りました、この話はそれよりずっと前の日本が舞台に為ってます、記事も写真も人の手で物理的に届けなければ為らなかった時代のお話です。
それをお父さんが届けたの?