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芹沢家から自宅へと帰ったとき、きみはまず母親のもとに行った。ちょうど夕飯をつくるために台所に立ってるところだった。


「え、芹沢さん?」


きみが質問したこと、それは芹沢冬馬と幼馴染みというのは本当か、ということだった。これまでその名前は母親の前では出さないようにしていたが、こうして向こうから近づいてきた以上は無視できない。


「ええ、そうよ。それがどうかした?」


母親の答え方には淀みがなく、とくに緊張は感じられなかった。


「どうして教えてくれなかったの?」

「どうしててって、お母さんはこの街の出身だから、幼馴染みなんていくらでも住んでるのよ」

「でも、芹沢さんは大きな会社の社長で有名人だよね」

「職業がどうかなんて関係ないじゃない。お母さんの友達にはモデルとして活躍した人だっているんだから」

「今日、芹沢さんの家に行ってきたんだよ」


これには母親の反応があった。一瞬、返答に迷うような間があった。きみは文芸部の活動について報告していなかったし、芹沢優愛と付き合っていることも内緒にしている。


「そうなの。どうして?」

「実は芹沢さんの娘である優愛ちゃんと付き合ってるんだ」


今度ははっきりとしたものだった。きみの母親の目から感情が失われ、口が中途半端に開いたままになっている。


「いつから?」

「一年くらい前かな。でもそれで自宅にお邪魔したわけじゃないんだ。文芸部で芹沢社長にインタビューっていう企画があって、それでいろいろ話を聞いたんだよ」

「そう」


素っ気ない口調だからこそ、きみには余計に母親の動揺が伝わってきた。


「芹沢社長は母さんのことを覚えてたよ。今度会いに来たらどうかとも言ってた」

「それはやめておこうかしら。お金持ちの家だなんて気が引けるもの」

「芹沢社長とは仲がよかったの?」

「そうでもないわね。お母さんはバスケットをやっていたから、文芸部の彼とは合わなかったのよね」

「文芸部であることは知ってるんだ」

「同窓会で話題に上ることがあるもの。芹沢さんは仕事で忙しくて顔を見せたことはないけど」

「そういえば、来栖カナタも同級生だったんだよね」

「あら、そんなことまで話したの?口が軽いわね。」


きみは来栖カナタのファンではないし、弟の事件についてもこの情報が関係しているようには思えなかったが、芹沢冬馬の反応が気になったので一応母親に鎌をかけてみた。

同級生であったことに驚きはない。おそらく、芹沢冬馬が好きだと言ったのも来栖カナタのことだったのだろう。


「来栖カナタの本名ってなんなの?」

「それは言えないわよ。いまの若い人はなんでもすぐにネットにあげるでしよ。」

「芹沢社長も女性であることまでしか教えてくれなかったよ」

「まあ、それくらいなら構わないのかしら。性別くらいなら特定できないものね」

「お母さんは来栖カナタとは親しかったの?」

「そうね。中学のときなんか、三年連続で同じクラスだったのよ。それでいろいろ話すようになったわね」

「いまでも交流はあるの?」

「それはないわね。彼女が作家になったというのも、あとで人伝に聞いたことだから。だからサインをお願いされても難しいわよ」


来栖カナタが好きなわけではない、ときみは言いかけて、ならどうしてここまでその存在にこだわっているのだろうと自分に問いかけた。

芹沢冬馬とつながる糸のひとつだからだろうか。いや、もしそうならもっと別のこと、芹沢冬馬本人について聞くべきだろう。


「風の噂だと彼女もこの辺りに住んでいるらしいから、偶然会うことはあるかもしれないわね。まあ、顔出しをしてないから、本人とはわからないでしょうけれど」

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