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「エッジリンクはわたしたち双子の特殊能力なの」
双子はそれぞれの至らないところを補うようにしながら、きみにエッジリンクについて説明した。
エッジリンク。それは双子の同一化能力だという。
ひとりが目を閉じて、まずは頭を空っぽにする。その暗闇のなかから、もうひとりのほうだけを思い浮かべる。
すると徐々に意識がそちら側へと移行し、鋭い痛みを伴いながら双子はひとつの存在となるのだという。
あくまでもこれは意識の問題なので一方は動けず、だから優希はベンチに座っていたと言う。
ベンチに座りながら、歩いている優花の視界などを共有していた。
エッジリンクにはもうひとつ特徴がある。二人の意識が重なりあっているとき、動けているもうひとりのほうは動物の言葉がわかるようになるというのだ。
双子はこの力を使い、猫をはじめとする動物から事情を聞いて調査を始めようとしたところだったという。
「……まさか」
きみはその話を素直に信じることはできなかった。双子に特別な力があるというのは聞いたことがあるが、それもあくまで都市伝説レベル。実際にそのようなことが可能だとは思えなかった。
「本当のことだよ。試してみても良いんだから」
動物の言葉はともかく、意識の共有なら確認する方法はある。
双子を離れた場所に置き、一方にだけきみが書いた文字を見せ、それをもうひとりに当てさせる。この公園に手品の仕掛けになるようなものはないから、正解が続けば双子の発言は事実となる。
「……当たってる」
きみは携帯のメモ帳に文字を打ち込み、何度も双子の間を往復した。長文では少しの間違いはあったものの、それはむしろ記憶の問題で、双子はほぼ確実に離れた状態で文字を言い当てた。
きみは確信した。この双子の言っていることは真実であると。あまりにも正確だったし、トリックの介在する余地もない。きみはミステリー好きなだけに、その辺りの不正についてはかなり厳格に防ぐ努力をしていた。
「どうしてそんな力が」
「わからない。気づいたらできるようになっていたの」
「きっと、猫殺しの犯人を捕まれるために、神様が授けてくれたんだよ」
動物の声が聞ける、きみはそちらの能力のほうも事実かどうか、知りたいという思うようになった。
もしそれが本当のことなら、小説のミステリーを超える興奮をきみに与えることになる。この機会を逃すわけにはいかない。
「そうだね。ぼくも猫殺しの事件は気になっていたから、是非きみたちに協力させてもらいたい。いつからその力は使えるようになったの?」
エッジリンクの能力に気づいたのは最近のことで、だからまだ本格的な犯人探しはしていないという。どの程度の距離までエッジリンクが有効なのか、今は二人は確かめようとしていたという。
「いまのところは数百メートルが限界。集中力にも左右されるみたいだから、何度も練習を繰り返していれば、もっと持続時間は延びるかもしれない」
「それぞれの役割りって決まってるの?」
「ううん、どっちでもできるよ」
「動物とはどんなやりとりもできるの?」
「はっきりとした会話は難しいかな。相手の意識がぼんやりとこっちに流れてくる感じなの」
「これも練習すればよくなるかも」
こちら側の意識を伝えるのは難しいらしい。それができればその能力も確認することが可能だったかもしれない。
「他の人はその力のこと、知ってるの?」
「知らない。お母さんにも言ってないよ」
「変に思われるのが嫌だから。でもここでずっとやってると、いつかばれちゃうかもしれない」
「近くに住んでるんだ」
「あそこだよ」
双子が揃って指差したのは、二棟が並んで建つマンションだった。一際目を引く高さの建物で、双子が住んでいるのはその上階らしい。
「お金持ち、なんだ」
「よくわかんないけど」
「普通だと思う」
どちらにせよ、きみは金目的ではない。双子の実家が裕福かどうかなどどうでも良いことだ。
一つ気になることがあるとすれば、見知らぬ男性と娘たちが遊んでいることを不審に思った親が通報することで、昨今の事情を考えると近所の人が勝手に警察へ、ということもあり得るかもしれない。
それに気づくと、きみは急に周囲の視線が気になった。道路のほうを視線をやると、歩行者がこちらをチラチラ見ながら歩いている。
ここに長居するのは危険かもしれない。彼女たちに会ってからもう一時間は経過している。さきほどの能力試験の様子は、端からみれば異様なものと映るかもしれない。
きみは双子と次に会う約束の日取りを決め、その場を立ち去った。