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エッジリンクがスムーズに行えるようになり、双子の役割を交換することもたびたびあった。
もともと妹の優希はもっと動物と触れ合いたいという願望を抱いており、いつまでもベンチなどで待機するのは嫌だと言っていた。
この日は優花が待機で、優希が捜索を担っていた。きみは優花の隣に座っている。
親に会ったことで周りの目は気にならなくなり、待ち合わせの公園でエッジリンクを行っている。
なによりこの辺りで猫が殺されるケースが相次いでいたので、情報を得るには最適の場所だと気づいた。
優花が目を閉じている間も、それなりのやりとりができるようになっていた。
意識を完全に向こうに渡すわけではなく、簡潔な会話ならきみとも可能だった。さすがに一緒に歩くことはできないが、相手の感覚をきみに伝えることもできる。
きみがどの辺りに優希がいるのかと尋ねると、それが優希にダイレクトに伝わり、優花の口から場所を知ることができる。やりとりはかなりスムーズで、歩いている優希からも質問が飛んできたりする。
きみが異変を察したのは、優希が出発してからしばらくしてからのことだった。定期的に状況報告を行っていた優花の口が閉ざされ、沈黙が長く続いた。
「どうかした?」
「猫がいるって、言ってる」
優花は目を閉じたまま、きみの問いに答える。
「猫と会話してるの?」
「ううん、人だよ」
どうやら、捜索している優希が誰かから声をかけられ、どこかへと案内されているらしい。ひとりでいる女の子がぶつぶつと呟きながら歩いているのを不審に思ったようで、そこで事情を聞いた相手が猫のいる場所を知っていると答えたようだ。
「どこへ向かっているの?」
「わからないけど、郊外のほうだと思う」
「相手はどんな人?」
「若い女性」
それを聞いたとき、きみの頭に真っ先に浮かんだのが猫が教えてくれた犯人像だった。女性が猫殺しの犯人。
優希に声をかけた人物が犯人かもしれない。まさか、という思いもあるが、何か嫌な予感もする。
そもそも郊外のほうで猫を発見したあと、たまたま優希に遭遇するというのも妙な話に感じる。
「ついていっちゃだめだ。いますぐ引き返させるんだ!」
「え?」
「その人が犯人かもしれない。早く優希ちゃんに伝えて!」
「うっ」
優花が短い呻き声を上げ、突然顔を歪めた。腕を上の方に曲げて、指で丸を作るようにしている。
「どうしたの、優花ちゃん?」
「あ、あ」
「いますぐエッジリンクを切るんだ!」
実際にエッジリンクを切ったからなのかどうかはわからなかった。優花の全身ががふいに力を失い、ぐったりとしたままきみのほうに倒れるようにして体を預けてきた。
「優花?」
優花は目をつむったまま、荒い呼吸を繰り返している。気絶はしていないようだが、きみの言葉には反応しない。
優希の状態が心配だった。とはいえ、ここに優花を置いたままにはできない。
「優希」
きみは彼女の無事を願うように、その名前を繰り返すしかなかった。




