親友からNTRビデオレターを送り付けられた話
ある日、自宅に親友の中野正文から俺宛の荷物が届いた。
その中には映像を記録した円盤媒体が入っていた。
送り主である正文と俺は小学校からの親友だ。
珍しいな、と思いながら俺はそれを再生してみる。
「ぎゃはははは。よお光利、見てるか? お前の彼女は俺が貰っちゃいましたぁ!」
「ご、ごめんなさい、光利……私、あんっ!」
だが、そこに映っていたのは激しく交わり合っている中野と長い黒髪の美しい女性。
……その女性は俺が交際しているはずの彼女、笹原恵さんだった。
何が起こっているのか、わけがわからなかった。
頭の中が真っ白になって、あらゆる思考がストップする。
「なんだよ。これ……」
なんとか絞り出した俺の呟きに答えるように、正文は恵さんを後ろから責めながら、悪意をたっぷりに滲ませた笑顔で自慢げに語った。
「この女、見た目は清楚なくせにドスケベなんだなあ! 少し声をかけて色々と吹き込んだだけで、ホイホイついていって、すぐに股を開くんだからよぉ! チョロ過ぎて逆に驚いたぜ。この際だ。定期的にお前の家に送ってやるよ。これを見て一人で慰めてるんだなぁ!」
「やめて。そんな最初から全力で……早過ぎるわっ! あぁー!」
恵さんが絶頂する姿を見ながら、俺は愕然とつつも、頭の方はようやく慣れてきたのか、現実を認識できるようになった。
――状況は理解した。こうしてはいられない。早く二人を探さなければ。
とはいえ、手掛かりはどこにもない。
正文や恵の両親や友人にも尋ねてみたが、みんな友人と旅行に行くとしか知らされておらず、彼らがどこに行ったのかは聞かされていないようだった。
そして、数日もしない内に二枚目が送られてきた。
正文は相変わらずの調子に乗った笑みで恵さんと交わっていた。
「お前の女まじでスゴイのな。上も下もマジで上手なんだぜ。まあ、今じゃもう全部俺がやってもらってるんだけどなぁ! ギャハハハ!」
「あぁっ、あっ、あぁー!」
「……まだ大丈夫そうかな」
僕は彼らの所在を探しつつも、正文たちの痴態を見ながらそう呟いた。
さらに数日、三枚目が送られてきた。
「よう光利。ついさっき一発ヤった所だ。あの女、今日も寝かせてくれねえんだよ。まいるぜ。……いやマジで」
「ねぇ。もっとぉ……!」
「おいおい、もう少し休憩させてくれよ。じゃあな光利」
言葉通り正文は少しばかり疲れているようだが、声には十分張りがある。
良かった。もう少し余裕はありそうだ。……これなら猶予はまだあるか。
さらに数日後、四枚目だ。
正文の顔色は一転して明らかに悪い。ちゃんと栄養は取っているのだろうか?
「ははは……。流石の俺ももうこれ無理かもな。今日は休んでもいいか……」
「全然足りないわ。もっとちょうだい!」
「ひっ……」
悲鳴交じりで正文は恵さんに押し倒された。
そろそろ危ないかもしれない。
さらに数日後、五枚目。
「お、お願いだから今日は勘弁してくれ」
「は? 最初に誘ったのはアンタでしょ?」
正文は必死に懇願しているが、恵さんは取り合ってくれなかった。
完全にスイッチが入ってるな。
上下関係も既に逆転しているようだし、いよいよ危険な状態に入ってきた。
急がねば。
六枚目が来た。
「光利、今までの事は謝る! 助け……助けてくれ! ここの場所も教える。ここは――」
「正文ぃ、シましょー」
「ああああああああああああああああああああああ!」
ブツッ!
完全に助けを求める声を出しながら、そこで映像は途切れた。
まずい。
七枚目。
「これを見ているという時にはもう俺はこの世にはいないかもしれない。あのサキュバスみたいな女に精魂搾り取られて俺はもう限界だ。――でも、――いや、だからこそ、せめて最後に一言言っておきたい。今まですまなかった。俺はずっとお前が妬ましかったんだ。勉強も運動も何でもできて、こんな可愛い彼女も持っていたお前が。せめて彼女だけでも奪えば少しは気が晴れるかもしれないと思ったらこのザマだ。笑ってくれ。――だが、――それでも、――厚かましいにも程があるが、――もう手遅れだろうけど、来世って奴が本当にあるのなら、今度こそ俺は胸を張ってお前の親友と言える人間に――」
俺は黙ってテレビの電源をそこで切る。
最早一刻の猶予もない。
俺は手元の資料に目を移す。
映っていた窓の背景とあの二人に縁のある場所、かき集めた全ての情報を照らし合わせる。
……ここだ!
俺は地図でその場所にあたりをつけると、そこに向けて、バイクを走らせ直行する。
そこは湖畔の傍らに建つコテージ。
恵さんは家が裕福で、いくつもの別荘を有しており、ここもその一つだ。
俺はドアを蹴破り、一気に中に押し入る。
「正文ぃ! どこだぁ!」
そこにいたのは痩せこけてミイラのように変わり果てた正文だった。
「み、光利……! きてくれたのか……」
俺は親友の元へと駆け寄って、持参したスポーツドリンクをゆっくりと飲ませる。
「あ、光利。遅かったねぇ」
なお、部屋のソファーの上で下着姿の恵さんが寝転がってテレビを見ていた。
「恵さん、加減してくれよっ! 正文をこんなにしやがって!」
「ごめーん。でも加減はしたよ? ほら、生きてるじゃん」
生きていれば、というか生きるか死ぬかという状態まで持っていく時点で尋常ではないだろう。
恵さんはその筋では有名な〇ッチで数え切れないほどの男性を廃人寸前まで食い散らかしてきた。
彼女とセフレであった別の友人にこのままでは死ぬと泣きつかれて、俺は彼女を説得しようとするも「じゃあ代わりにあなたが相手してくれるの?」と言われ、そのまま関係を持つが存外に体の相性が良かったのと、意外と気が合うのもあり、そのまま交際することとなったのだ。
俺の場合は、毎晩相手するのは大変だけど、体力がある方だったのでなんとかやれてた。
だが、普通の男では彼女の相手はやはり耐えられなかったのだろう。
ちなみに元セフレの友人にその事を話したら、お前も普通じゃないとドン引きされた。酷い。
「恵さん、付き合う際に言ったよね。もう他人でこんな無茶な絞り方はしないって!」
「ごめんってば。あなたから許可貰ったって言われたからそういうプレイなのかなって」
「俺に寝取られ趣味なんてない!」
彼女の事は愛情が無いわけではないが、半分この性欲モンスターを野放しにしてはいけないという使命感で付き合っている。
麦茶をあおっている彼女を無視して、俺は正文はゆっくりと手を伸ばす。
「光利、俺は……」
「何も言うなよ。お前の心の底をわかってやれなかった俺にも落ち度はある。お前のやった事は酷い事だ。でも、俺は許せるよ。……また一からやり直そう」
「光利ぃ! ごめん。ごめんよぉ!」
涙を流す正文、俺は何も言わずに正文を抱き締める。
「うんうん。美しい友情ね」
いや、恵さんは涙ぐんで頷いてないで、もうちょっと反省してほしい。