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5.きちゃう?



「しかし……、何者なんでしょうね、あの声の主さん……」


 更に三十分以上を進んだ後。

 るいちゃんはぽつりと疑問を口にした。


「そうだね」


 あの謎のお嬢様喋りの主が、ダンジョンを意のままに操っている。これはもう確定事項だろう。


「確実に普通の存在ではないよなあ」

「人語を操っているけれど、人間では無い可能性もあるわね」

「だね! というか、その方が確率としては高いかも」

「教科書には、時折ヒトの言語を覚えるモンスターもいると記されていましたけど……」

「インコみたいだね!」

「いや、モンスターと通常生物は違うでしょう。……違うわよね?」

「俺に聞くなよ……」


 授業で教わった常識で考えれば、違うとはおもうけど。でもそれも分からない。

 なんたって、このダンジョン自体がもう普通じゃないからなあ。


「ランクとかに関係なく、通常どおりに物事が進むと思わない方がいいかもな……」


 推理をしながらも通路を進む。

 するとほどなくして、るいちゃんが声を上げた。


「みなさん気を付けてください! 前方に!」

「っ!」


 戦闘態勢に移りつつ、前方を確認する。

 通路の出口の先。

 さっきみたいな大部屋が広がっていた。

 そしてその中央には、獰猛なオークが二体立っている。


「――――懐かしいね!」

「助けられたときのことを思い出しますね……」


 頷くとカルマさんは隊列を飛び出し、一番槍として飛び掛かっていく。

 目にも止まらぬ速さで、オークの一体に白い足(シンデレラ)が炸裂した。


「わぁ、やりました!」

「また一段と速いわね……」

「よし、ならもう一体もみんなで……ん?」


 華麗に敵を倒し着地したカルマさんだったが。

 しかし両膝をつき、その場にうずくまっていた。


「なんだ⁉」


 まさか、攻撃したときにどこか痛めたのか?


「私が行くわ! 後衛の二人はそこにいて!」

「りょ、了解です~!」


 すめしが先に大部屋へと入り、カルマさんの元へと駆け寄る。

 すると――――


「んあああああぁぁぁッッ‼⁉⁉⁉」

「す、すめし⁉」

「き、きちゃ、ら、めぇ……! いや、キ、キちゃ、う……⁉」

「すめしせんぱい⁉」


 彼女の言葉に従って、俺とるいちゃんは部屋に入るギリギリで足を止めた。

 見ると、すめしもカルマさんと同じように、身をかがめてうずくまっている。

 ……おなかいたいのか?


「る、るいちゃん、一旦部屋に入るのは待とう!」

「は、はいです……!」


 前衛の二人は、部屋に入った瞬間おかしなことになってしまった(主にすめし)。

 仮に、部屋へと入った者に何らかの阻害が入る罠だった場合、迂闊には飛び込めない。


「カルマさんは……、カルマさんはアレ、どうなってるんだ?」


 遠目でよく見えないけれど、立ち上がっても、何やら動きが鈍い。足もがくがくしてるし。


「なんだか股の間をもじもじさせてます……? はっ……!」

「るいちゃん、何か気づいたの?」

「はい――――おそらく、あっ、いっ、いいえ! わたしは、なにも気づいてないです!」

「え、そうなの?」

「はいです! おっ、おふたりの名誉のためにも!」

「……名誉?」


 何とも不思議なリアクションをするなぁ。


「たぶんこの部屋に入らず、モンスターを倒す必要があります! ……あったんです!」

「みたいだね?」


 先走った二人は大惨事みたいだけども。

 何にせよ、あのオークをどうにかしないといけないだろう。解決するかどうかは分からないが、あのままでは二人が危険だ。内股で回避し続けるのは、限度があるだろうし。


「よし、こういうときは遠距離攻撃だ。るいちゃん、狙える?」

「はいです! はぁぁっ――――えいっ!」


 やや助走をつけ、るいちゃんの魔法サーブが放たれる。

 風魔法を纏った緑色の閃光は、狙い通り、オークの頭部へと一直線に飛んで行った。

 しかし。


「えっ⁉」


 バチン! と、頭部の前で何かに阻害される魔法球。

 見ると、先ほどカルマさんが倒したオークの黒塵が、もう一体のオークの周りをまとっていた。


「まさか……、倒した一体が防御魔法代わりに……?」

『オーッホッホッホッホッホ! かかりましわわね愚かなニンゲン!』

「この声は!」

『あなた方を弱らせるには、ただモンスターをけしかけるだけでは効果が無いと思いましたので。一つ、趣向を凝らしてみましたのですわ!』

「趣向だと……?」

『オフフ。どうやら催淫(さいいん)耐性を持っているニンゲンはいなさそうでしたのでね』

「さ、さいいん……?」


 え、じゃあこの空間に入ったら、めっちゃエッチな気分になるってことか?

 ということはあの二人、もしかして、つまりそういうこと……?


「うぅ……。お、おふたりの名誉が……」

「そういうことだった!」

 

 るいちゃんの気づかいが全部台無しになってしまった!


「くっ……! と、とにかく助けないと!」


 先ほどの突入のさい。すめしも数秒だけなら動けていた。

 この数秒間の間に、あの敵をどうにかするしか方法はない。


『ホッホゥ! 気を付けることですわね! この部屋にはもう、すでにニンゲン種が二体入っていますのよ!』

「は⁉ ど、どういうことだ⁉」


 俺の疑問に、『それはですわね』と偉そうに付け加える変な笑い方のお嬢。


『この場に入った者には強制的に催淫魔法がかかり、倒したモンスターはもう一体のモンスターの防御魔法となり蘇生し、そして同時に三体以上の種族が入る事の出来ない――――部屋ですのよ!』

「めんどくせえギミック!」


 インフレしたカードゲームのテキストみたいになっていた。

 単純にセッ……しないと出られない部屋とかの方がまだマシだ。


『しかも、入れば入るほど催淫効果(エッチど)はアガっていきますのよ! さぁ、最後に入って絶頂を迎えるのは、いったい誰になるのでしょうねぇ⁉ オホホホホウホホゥ!』

「やっぱりゴリラになった!」


 途中もちょいちょい怪しかったけど!

 などと突っ込んでいる場合ではない。

 オークは今にも、身動きのとれなくなった二人へと、棍棒を振り下ろそうとしている。


「わ、わたしがイきます!」

「るいちゃん⁉」

「そもそもオークに力で対抗できるのは、わたししかいません……!」

「で、でもるいちゃん! それじゃあきみが……!」

「だいじょうぶです」


 広い背中で。

 彼女は俺の前に立つ。


「タマせんぱいは……、むこう、むいててくださいね……」

「るいちゃん……」

「きっとわたし、ケモノみたいになっちゃいますから……」

「――――分かった」


 俺は目を伏せ、後ろを向いた。

 その動作がスタートの合図。

 彼女が飛び出した音が、こだまする。


「くっ……!」


 涙を流さずにはいられない、

 おのれ……! なんて卑劣な罠を仕掛けるんだ……!

 つたうしずくもそこそこに。

 獣の号砲が耳に入る。


「おほぉぉぉぉぉぉっ‼ あぁっ! あぉおん! あぁぁぁぁああおおおんおんおん、おおぉぉぉぉ――――ん!」


 ……………………犬の遠吠えかな?

 うん。おとなしいるいちゃんから、あんな声が出てくるわけがない。


 俺は背中で、激闘の音を感じつつ。

 ちょっと感情を整理するのだった。








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