表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/39

3.激闘加速



 激闘の最中。

 敵を一体蹴とばした後、カルマさんの声が俺に届く。


「タマ、ボールお願い!」

「分かりました!」


 モンスターからターゲットにされないギリギリのポジショニングへと走り、掌に魔力を込めた。


「ふっ……!」


 カルマさんのことを考えてボールを作る。

 彼女が蹴りやすいのは、サッカーボール大のものだ。


「カルマさん!」

「おっ……」


 作成したボールを、掌から中空へと投げる。

 一発で二十二センチ大の魔法球が出てきたことで、一瞬だけカルマさんは驚きの表情を見せた。

 その後、再び戦いの顔へと戻り、ボールへ向かって大きなジャンプをして――――ジャンピングボレーを叩き込む。


「いっけぇッ!」


 ジャストミートで打ち出されたボールは、モンスター集団の一角へと飛んで行き、着弾の後、大きな爆発を見せた。

 跡形も無く吹き飛んだモンスター群を確認した後、華麗に着地したカルマさんはガッツポーズを決める。


「よしっ!」

「うまくいきました」

「すごいね! どんどんサイズの精度が上がってるね!」


 彼女ら一人一人を深く想うことで、自在に出せるようになったのだ。……変態チックだから言わないけど。


「じゃあもっとおっきいの欲しいって言っても良いんだね!」

「もっといっぱい出してって言ったら、それも可能なのね」

「ア、アツいのくださいって言ったら、出してくれますか……?」

「せっかく俺は言わずに我慢してたのに!」


 台無しである。

 全員口元を波打たせているのは、つまりそういうことだよね。


「というかお前ら、戦闘に集中しろ!」


 多種多様なモンスターが蠢く中、断章に興じているわけにはいくまい。


「いいわタマ、今度はこっちに頂戴!」

「分かった!」


 テニスボール大のものを作成し、すめしへと放る。

 今の俺は、わざわざ彼女の正面に立たなくてもイメージが出来るようになった。

 個人特訓のお陰である。


「フッ!」


 放たれたフォアハンドストロークの打球は、そのまま大型モンスターを三体貫いていった。


「カルマよりは少なかったか……。でもまぁ、こんなものね」


 剣をラケットのように扱いながら、彼女はこちらに視線を送った。


「ウィンブルドンの試合映像。その中の、『ボールボーイが選手にボールを投げて渡す部分』百選を見せた甲斐があったわ」

「……まぁ、役に立ったよ」


 実際のところ。けっこう人によって違いがあったのだ。

 なるほど距離があるからワンバウンドさせるのかとか、転がして渡したりもするんだなとか……挙げて行けばきりがないので割愛するけれど。


「タマせんぱい! 最後、こっちに!」

「るいちゃん! 了解だ!」


 後方からるいちゃんの声が聞こえる。

 彼女は現在、アタックをするために助走距離を確保していた。


「バレーボール大の球……っと!」


 俺は彼女が飛び上がるところ目掛け、直径ニ十センチの魔法球を放り投げる。


「あっ……、タマせんぱい。さすがです……!」

「へへ」


 助走する彼女が一瞬笑う。

 その後、バンッ! という地面を蹴る音がする。

 巨体は華麗に宙を舞う。

 胸を突き出し腰を逸らせ、右手を大きく掲げた後――――その一撃は放たれる。


「いっ――――けぇッ!」


 渾身のスパイク。

 俺の魔法球、プラス、彼女が付与する属性魔法。

 雷を帯びたバレーボール球は敵陣に直撃した後、広範囲へと拡散し、まとめて灰燼へと変えた。


「威力上がってたね、るいちゃん」

「は、はい! ……あの、タマせんぱい、覚えててくれたんですね」

「うん。勿論」


 この間るいちゃんに言われたことだ。

 本来ならバレーボールは、二十一センチの5号球を使用する。

 しかしるいちゃんがやっていた中学バレーまでは、一つサイズの小さい4号球(ニ十センチ)を使用するのだ。

 微妙な差だが、そっちの方が撃ちやすいのだと彼女は言ってくれた。


「うまくできて良かったよ。それに、るいちゃんへのボール出しは、一番イメージつきやすいんだ」


 何せ、同じ『手』を使ったボールの扱いだからだ。

 バレーにおけるセッター(主にパス回しをする係)をイメージすればイイだけだから、とても簡単だった(他と比べればだけど)。


「ある意味一番相性いいかもしれないね、るいちゃん」

「えっ! わわっ! あ、ありがとうございましゅ……!」


 巨体のままもじもじする姿は、何だか大型わんこみたいだ。

 餌を与えてご褒美をあげたくなってくる。


「一番相性イイですってよ、カルマ?」

「あははははっ! ……ちょっとだけモヤるね」


 なんか後方で太陽に曇りが現れていた。

 さておき、一戦目は無事終了だ。


「それじゃあ改めて、先に進みましょうか――――」


 再び足を踏み出そうとした瞬間だった。

 ゴゴン! と、背後で大きな音が聞こえる。


「えっ⁉ き、来た道が……!」


 見ると、俺たちが入ってきた入口が、完全に塞がってしまっていた。

 ダンジョン内は暗くないため視界が塞がってしまうことは無いが、一抹の不安に駆られてしまう。


「はわわ……、もしかして、閉じ込められたんでしょうか……」

「も、もしかして、ヤバイ……?」


 狼狽する俺とるいちゃんをよそに、カルマさんとすめしは余裕の立ち振る舞いを見せる。


「あはは大丈夫だよ。扉が閉まっちゃうのはよくあること」

「どうせそのうち上にいる人たちが、再び扉を開けてくれるわ。そうでないと、後続の冒険者たちも入れないものね」

「そ、そっか。なら安心ですね……」


 るいちゃんに続き、俺もほっと溜息をつく。

 しかし今度は、ブオン! と、魔法が起動するような音がした。


「あの、なんか……。扉のあった場所が、完全なる壁になってるんですけど……?」

「これは……、ねぇカルマ? これは大丈夫なの? 私は初めてのケースなんだけど? あ、初めてってそういうコトではないわよ? 異性とも同性ともそういうことはしてないというか、そういうことは一人で、」

「見るからに動揺するなすめし! そしてそのくだりは前にやった!」


 しかも初対面時にな! 考えてみればお前けっこうなことやらかしてるな!


「あは、あはは、大丈夫だよ! 扉がなんかアレしちゃうのも、よくあること……かも、よ?」

「こっちはこっちで自信なさ気だ!」


 そして極めつけに。

 ザリザリと壊れたラジオみたいな音がして。

 フロアに声が、響き渡った。


『――――いいですわよォッ!』


 高貴な声だ。

 けれど、どこか力強さを感じる。


やはり(・・・)最高の強さですわ~~~~っ!』

「え、ちょっと……」

『なのであなた方はこの場所にて、ワタクシが徹底的に支配して差し上げますわよ~~~ッッ!』

「は――――」

『ホホッ! オホホッ! オ~ッホッホッホッホッホッホホホホゥ!』

「なんか最後ゴリラみたいにならなかった⁉」


 特殊な笑い声と共に、再びザリザリ音が流れる。

 ぷつんという音がしたということは、通話(?)は終わったというコトだろう。

 一瞬の静寂の後、俺はカルマさんへ視線をやった。


「………………これは?」

「うーん」


 腕組みをしてやや考えた後。

 彼女は「うん」と頷き、元気に答えた。


「閉じ込められたね!」

「やっぱりかぁぁぁぁぁッッ⁉」


 さてさて。

 前途多難な冒険(クエスト)の、幕開けである。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ