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6.捻百舌鳥 逆示・6&鯨伏 るい・1



 本来ならば倒せないゴーレムと戦闘になったと思ったら、突如として抜群のチームワークをみせた俺たちはそれを討伐して、すめしが半裸になって、二メートルを超える女子と出会ったというのが、前回(ココ)までの流れである。


「カオス展開ね……」


 そうすめしは呟いた。

 現在着てきた服はほぼ脱いでおり、俺の上着を乱雑に羽織った状態で手ごろな岩に腰掛けていた。


「か、替えの下着だけはあって、良かったですね……」

「そうね。壁になっててくれてありがとう」

「い、いえいえ……。無駄に大きいので、これくらいしか……」

「そういうつもりで言ったわけではないのだけれど」

「はっ、はぅ……。ごめんなさい~……」


 座ったまま見上げるすめしの首の角度は、本当に急こう配だ。

 ほぼ直角レベルで見上げている。


 おどおどした女性は肩をすぼめて申し訳なさそうに立っているが、それでも背が高い。

 いや、背が高いというとスラッとしているイメージがある。

 なので言い方を変えると……、『でかい』だ。


「うう、ご、ごめんなさい……。でっかくて、邪魔で……、すみません……」


 俯いて謝る彼女を、あらためて遠目から見やる(すめしの服の件があるので、あまり近づかないでいる)。

 身長はたぶん、二メートル越え。

 それに準じて、なんというかこう……、身体が、む、むちむちしていた。

 決して太っているわけではない。

 むしろ鍛えられているのか、よく見ると太腿や肩回り、腕の筋肉はけっこうついている。

 腰も鍛えられてるっぽいし……、何より、その。


「タマ、どこ見てるか正直に言いなさい?」

「いやちがう誤解だ」


 胸が。

 巨大だ。

 正直、エロいとかエロくないとか以前の問題で。

 どんな人でも一度は目をやってしまうだろう。そんな、目立つパーツが彼女にはついている。


「まぁ、仕方ないけどね。かくいう私も見上げながら、でかいと思っていたわ」

「そ、そうだよな……?」

「でも女性に対しては失礼よ。改めなさい」

「お……、おう……。確かに」


 ごめんなさいと彼女に頭を下げると、「いえいえいえいえいえいえ」と高速で胸の前で手を振っていた。そしてその衝撃ですげえ弾む胸。

 乳袋って本当に出来るんだなと思いました。


「で、どれくらいあるの?」

「えっ……⁉ え、ええーと……、その、ひゃ、百十センチで、Hになりまして……」

「ちょっ! ち、違うわよ! 身長よ!

 ばか、(タマ)もいるのにそんなこと聞くわけないでしょ⁉」

「ひゃい⁉ す、すみません~……」


 俺は何も聞かなかった。そうだろう? だからこれ以上、外見と実数値の暴力で、俺の煩悩をブッ叩かないでほしい。

 ひゃくじゅっせんちって? いちめーとるがひゃくせんちだから、つまり? というか、えっち……、えっちなかっぷ……。


「……男ってクソね」

「い、いや! 不可抗力だろ⁉」


 玉突き事故だよ! 俺が言うのもなんだけど!

 くそう……。こういうときカルマさんなら、けっこう男心を加味してくれるというのに……。

 というかすめしは、ずっと身長のこと話してたんだな。

 女性のことを「でかい」と思いながら、物珍しそうに見るなって意味だったのか……。分かりにくいやつめ。


「まぁでもあなたも。そこまでボディライン出した装備(ふく)を着ているのが悪いわ。

 そういう目で見られたくないのであれば、露出が少ないものにしたらいいのに」


 確かに。

 控えめでおどおどとした性格とは裏腹に。彼女の装備はかなりぴっちり目のものだ。

 胴体の露出こそ少ないものの、太腿と二の腕はほとんど出ている状態だし、身体のラインもけっこう分かる。


「なんか……、女子バレーみたいな……?」

「あっ、そう、そうなんです~……。この服装が一番、激しい動きをするのに慣れてて……」

「あぁそうなのか。どうりで」


 どこかで目にしたことのある雰囲気だと思っていた。


「買った当初から、だいぶ大きくなっちゃって……。それでも使い続けてたら、こんなことに……」


 大きく。

 大きく、デスか……。


「タマ」

「はい大丈夫です! 邪なことは、決して!」

「いや……、これからどうするって話をしたかっただけなんだけど」

「あ、はい……」


 ぶんぶんと頭を振って、煩悩(というかこの空気)を打ち払う。

 どうしても圧倒され、ペースを乱してしまったけれど。ここがダンジョン内で、今がクエスト中だということを忘れてはならない。


「とりあえずえーと……。そうだ、名前。自己紹介するか」


 俺が言うとすめしも「そうね」と頷いた。


「私は捻百舌鳥(ひねもず) 逆示(すめし)よ。よろしく」


 ルビの振ってある言い方だ。優しい。


「よ、よろしくお願い、します~……」

「え、えぇ……」


 言って柔らかく、二人は握手を交わしていた。

 すめしがどこかおっかなびっくりなのも、うなずける。

 この子さっきから、おどおどしすぎだ。

 すめし的には普通にしか喋っていないのに、既にその言葉の音にびびってしまっていた。

 確かにはきはきしていて、圧倒されがちではあるけどな……。


「あ、俺か。えーと。俺は、月見(つきみ) 球太郎(きゅうたろう)。すめしとパーティを組んでるんだ」


 離れたところから「よろしくな~」と手を振ると、彼女はこくこくと首を振って、ぶるぶるっと震え出した。

 え……、今のでも何か、ビビらせるような何かがあったのか……?

 すめしもそう疑問に思ったのか、俺より近い距離にいたので心配そうに声をかける。


「大丈夫? そんなに警戒しなくても、あの男はそこまで大した強さじゃないわよ」

「おい」

「なんなら、今の魔力アリの彼の全力よりも、地上に出たあなたや私のほうがよっぽど力もあると思うわ」

「うん、それはそう」


 月見 球太郎はあまりにも非力(ヒョロガリ)である。

 まぁそこは仕方ないのだが……、じゃあ尚更、こんなやつにビビることなんてないだろうに。


「あっ、ち、違うんです……。怯んでるんじゃなく、て……。か、かんかん、感動して、て……」

「感動?」


 首をひねるすめしに対して、彼女はやや俯き気味に言った。


「た、『玉突き事故』の、月見、せんぱい……ですよね。遠目からじゃ、分からなかったんですけど……」

「えっ? あー、まぁ……」


 うわ。悪評が知れ渡っていた。

 まぁこの学園に在籍してる人の、三分の一くらいには広まってるんだ。仕方ないと言えば仕方ないか。

 ……ん? でも、感動ってどういう意味だ?

 俺もすめしと同じように首をひねった直後。

 背の大きな子は、意外にも俊敏な動きをして、こちらへと小走りに近寄ってきた(小走りというには一歩がでかいけど)。


「あの、あの……、せんぱい」


 ずんと。

 頭二つ分くらい上から、見下ろされる。

 俺の頭は彼女のでっっっっかい胸のあたりだ。そこからほぼ直角で、見上げなければならない。

 メカクレな顔は身体にしては小さく。少女のようだった。


「あの、わた、し……」

「は、はい……?」


 大きな身体だが、小さな声だった。

 そんな声のボリュームのまま。

 彼女は言葉を落とす。



「ファ……、ファンでした……」

「「いやうそだろ⁉」」



 まだ名乗ってもいない前から。

 その言葉はあまりにも衝撃的過ぎた。






 鯨伏(いさふし) るいというのが、彼女の名前だと判明した。

 すめしが普通に「そう、るいね」と呼ぶので、俺もそれに習うことにした(ただ、呼び捨てにすると怖がられそうなので、暫定でちゃん付け)。

 そんなるいちゃんは現在十七歳らしく。高校二年生になる年なので、俺とすめしよりも一つだけ年下だ。

 せんぱいと呼ばれるのも頷ける話だが、その……、あまりにも色々とでかすぎるので、後輩感は正直無い。


 ただ彼女の、引き気味というか、どこか窮屈そうな態度が。

 年齢や立場に関係なく、『下に見てください』と言った感じがして。ちょっと気になる。

 元々引っ込み思案なのもあるかもしれないけれど。


「あー、えっと? ……え、なに? 俺の、ファン……?」


 アンチとかじゃなく、ファンだって?

 そもそも『玉突き事故』野郎に、ファンとかつくもんなの?


「タマ、あなたこの子と面識あったの?」

「いやいや! さすがに会ってたら忘れないだろこのインパクトは! ……あ、ごめん」

「い、いえいえいえいえいえ! わたしはその、でっかくて、ごめんなさいな存在なので! 月見せんぱいが謝るようなことでは、けっして……!」


 再び腕の動きに合わせてぼるんぼるんと胸が弾むが、こうも至近距離だとありがたみより『圧』の方がすごい。

 挟まれたらすりつぶされてしまうのではないかという程の、肉密度だった。


「えーと……、ファン、ファンね……。え、何でファン?」


 色んな衝撃により言葉が出なくなってしまったが、とりあえず確認しておこう。

 俺の質問に、るいちゃんはもじもじしながら口を開く。


「す、すごいなあって……、思ったんです……」

「すごい? 俺が?」

「はい……」


 僅かに頷いて、彼女は言葉を続ける。


「だって……。

 あんなひどいあだ名付けられてて、ランクも万年上がってないのに、諦めずにいるし」

「うぐっ⁉」

「力も無くて魔力もそんなになさそうで、ぜんぜん冒険者になれそうにないのに学園に残ってるし」

「ぐはあああ⁉」

「今日もこんな怖い人に怒鳴られてるのに」

「私に飛び火した⁉」


 破壊力高い!

 周りを巻き込む大災害だよるいちゃん!


「なんか……、こういう子に言われると凹むわね……」

「俺もけっこうダメージでかいよ」


 以前すめしにも同じようなことを言われているのだが、ただの事実列挙だけだとここまで心に来るのか。

 言葉を伝えるのに雰囲気って大事だな。


 俺たちがまごついていると、

 しかしるいちゃんだけは空気を変えず。

 むしろ更に深刻な口調で、息を落とした。


「それ、なのに――――、」

「……え?」


 そこで彼女は言葉を切って。

 顔を覆って、その場にぺたりと座り込んだ。


「なのに、頑張ってて。

 ほんとうに、ほんとうに……、すごいなあって思ってるんです……」

「る、るいちゃん……?」


 座り込んでもそもそもが大きいので、俺の胸くらいに顔がくる。

 だからその……、嗚咽の音も、よく聞こえる。


「ちょっと、泣いてるのるい?」

「あっ……、す、すみ、ま、……せん」

「いや、こっちはいいけど。大丈夫?」


 俺も心配になって声をかける。

 少しだけ涙を流したあと、彼女は鼻をすすりながらも言葉を紡いでいった。


「わた、わたしも……、その。タマせんぱいみたいに……、あの……、いじ、いじめ……、」

「いじめられてるのね?」

「…………、」


 息をわずかに吐いて。小さくこくりと頷く彼女。

 しかし成程。肩をすぼめたりおどおどしていたり、あと、すめしの口調に委縮していたりしたのは、それが原因か。


「俺は虐められてるというよりは、避けられてるの方が正しいかな」


 まぁ、どっちが辛いかは人によるけど。

 少なくともるいちゃんは、泣き出してしまうほど、心にダメージを負っていることは事実だ。


「もしかしてダンジョンに一人でいたのも……」

「そ、そうです……。

 このクエストは、いっぱいの生徒が参加します。だから、一組一組はモニターされてなくて……」

「なるほど。置いてけぼりくらったってわけね」

「あれ? でもさ、るいちゃん。この試験、途中離脱(ギブアップ)は出来るでしょ? アイテム貰ったよね?」

「それも……、取り上げられてて……」

「マジか……。最悪だなそのいじめてるやつ」


 クエストによって様々だが。

 今回のクエストで離脱を伝えるアイテムは、今使用している魔物除けの筒みたいに、発煙筒みたいな形状のものを渡されている。

 本来ならば、声や合図を先に決めていて、モニターしている教官に即座に伝えるのだが。

 今回のように、一組一組モニターが出来ない以上、物理的な救難信号が必要になってくるのだ。


「ギブアップのための魔法筒は、必要とか不要とか以前の、命綱(ライフライン)みたいなものよ。

 それを取り上げてまでイタズラするなんて、度が過ぎてるなんてもんじゃないわ……!」

「す、すめし、落ち着け……」


 お前の怒気でるいちゃんがめっちゃ怖気づいてる。

 また泣き出しそうな勢いである。


「なら……、どこかで隠れてやり過ごすしかないか……? もしくは、教官がたまたま見てるであろうタイミングに賭けて、何かしら合図を送るか……」

「こちらからは、いつどのタイミングで見てるかなんてわからないわよ。下手したら会話も拾ってないだろうし。

 私たちの魔物除けも、今持ってるものが最後だし。ダンジョンの中でずっと合図を送り続けるのは、得策じゃないわね」

「向こうが気づくかどうかも分かんないしなぁ……」


 モニターされているときにギブアップを伝えるのも、実は色々大変なのだ。

 例えば俺たちに何かしらのトラブルがあり、ここでじっと隠れ潜んでいたとして。

 教官側からは、それがトラブルなのか、それとも『戦術的にそうしているのか』の判断が分からないためだ。


 何せ、冒険者は色々な考えや信念を持って行動している。

 傍目には混乱しているように見えるムーブでも、そいつにとっては必殺技のモーションだったり魔法を放つためのルーティンだったりもするわけで。

 音声が無ければ、尚更映像だけでは伝わりづらいだろう。そのための離脱アイテムである。


「私のさっきの半裸も、モニターされてないことを祈るわ」

「あー……それはたしかに」


 まぁ今回は、大型モニターに映し出されるタイプでは無いからマシだろう。

 最悪、教官に見られるだけである。今回の教官、女性だったし。


「同性でも見られたくないときもあるんだけど、それはまぁ置いておいて……。

 実際どうしようかしら、タマ? 正直私、あんまり良い案が思い浮かばないわ」

「うーん……」


 俺は腕組みをして考える。

 るいちゃんは未だに涙をすすっていた。

 そんな彼女の胸元からは、冒険者見習いのプレートが見える。

 そこには、この間までの俺と同じ記号。

 最底辺ランクの、『F』が示されていた。


「そっか、るいちゃんもFランクだったのか」


 胸のサイズの話ではない。

 シリアスな空気だけど、一応、念のため。

 そんな心配をよそに、彼女は「はい」と静かにつぶやく。


「わた、わたしも……。この一年で、まったくランク上がらなかったんです……」

「そうかぁ。ということは、試験自体には参加してきたんだよね? 成果を上げられなかっただけで」

「はい……。といっても、ソロで参加できるものばかりですけど」

「まぁ普通はそうよね。タマが謎の度胸を持っているだけで」

「どういうことだよ」

「あれだけ悪いうわさが流れてたのに、他の人とパーティ組みに行けるのは、心臓に毛が生えてないと無理でしょう」


 ひでえ言われようだった。

 それはともかくとして。


「るいちゃん、さっき自分で、俺の事すごいって言ってたけど。きみだって逃げてないじゃないか。すごいよ」

「…………、」

「るいちゃん?」


 俺がそう言うと、彼女はぽつりと言葉をこぼす。


「……わたしは、逃げなかったんじゃない」


 それはまるで。

 哀願のようにも、聞こえる言い方だった。



「――――逃げられないんです」








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