表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/39

1.騎馬崎 駆馬・1


 今から六年前。

 西暦二千十八年、初春。

 世界中に突如として、『ダンジョン』なるものが発生。

 人々は混乱し、狼狽し、動揺し、困惑し、迷走し、――――そして順応した。


 社会というのはとても複雑で、単純だ。

 一つの決まり事さえ決まってしまえば、それをフックに様々な物事が芋づる式に進んでいく。そんなことを、中学生ながらに俺は感じ取った。


 その後。

 変わった世界に何が起こったかと言えば。

 医療系、飲食業、美容・ファッション、公務員。

 事務、秘書、建築、スポーツ選手や教員、その他もろもろの職種の中に。

 冒険者という職業が追加された。

 ただ、それだけのことである。






 そして――――現在俺に訪れているピンチは。

 そんな世界の、ごく一部地域の、ごく一部の学園での出来事だ。


 ここは、世界中に数多(あまた)発生するダンジョンの中の、Cランクダンジョン。

 普段俺たち見習い生が学園で潜っている『汎用ダンジョン』とは違う――――プロが潜るダンジョンだ。

 ランク調整がされていて、安全で、いたる所に監視カメラ(セーフティー)が設置されているものとは、危険度があまりにも違う。


 俺たち学生とプロの間には明確に差がある。

 安全の保障はなく。

 死と隣り合わせ。それが常。


 それは分かっていた。

 分かっていたのだが……、気が急いてしまい、つい挑んでしまった馬鹿野郎が、何を隠そうこの俺だ。


 そして。

 そんな危険極まるダンジョン内にて、パーティメンバーに置き去りにされ、途方に暮れていたところを――――


「ボクはキミを探してたんだ! さぁ、一緒に冒険しよう!」


 騎馬崎(きばさき) 駆馬(かるま)先輩に救出されたのだった。


「…………………………は?」


 いや、救出されたと言えば聞こえは良いが。

 そこからひねり出されたのは、新たなる問題(ピンチ)だった。


「さぁ冒険再開だ! ボクと一緒に最奥を目指そうっ!」


 どうにか無事に帰ろうと思っていた俺に対し、カルマ先輩はそんな誘いを口にする。


「えぇ……? い、嫌ですけど……」

「あはは! 秒で断るね!」


 笑いながらも彼女は俺の服の端を掴んだ。

 こつこつ貯めて買った冒険者用の外套(マント)である。丈夫なのが仇となり、掴まれている限り逃げ出せなかった。

 小柄ながら力が強い……!


「え? 何でイヤ?」


 きょとんとした瞳で真っすぐに俺を見つめる彼女。

 くッ……! 圧が強いのにかわいい……!


「その……、俺は別に、このダンジョンのクリアを目指して無かったというか……」


 俺は彼女に、ここのダンジョンに挑んだ理由を説明することにした。


「そもそも俺たち学生の評価基準は、プロのソレとは違うでしょう?」

「そうだねぇ」


 プロはダンジョンをクリアして生計を立てなければならないが、見習いである俺たちは、ダンジョンを『どれくらい踏破したか』で評価を得られる。

 勿論クリアするに越したことは無いが、それが出来ないのは最初から分かっているワケで。

 ちなみに強さの順番としてはこんなカンジ↓


 俺(見習いFランク)<<<超えられない壁<<カルマ先輩(見習いBランク)<<<平均のプロの壁<<<プロCランク(今いるダンジョン!)<<<<それ以上


 ……ね、クリアなんて無理ゲーでしょ?


「確かにダンジョンというものは、『クリア』があります。

 この世界に発生しているほとんどのダンジョンは、その最奥に設置されている宝箱内アイテムを取れば、ダンジョンが消滅して、外に脱出することが出来るんですから」

「そうだね。だから行こう!」

「同じ言葉しか返さないNPCかな?」


 まぁつまりだ。

 俺がこの場所から外に出て評価を得るには、最奥に行くか、入口まで引き返すかの二択なわけで。


「俺が組んでいたパーティは、最初から後者(ひきかえし)を選ぶ予定だったんです」

「ふむふむ。なるほどね?」

「というか。そもそも最初からクリアしようとは思ってないです。無謀すぎますから」

「むむむ~……、そっかぁ」


 そんな俺の説明に、カルマさんは納得いかないような顔のまま頷いた。


「まぁ……、残念ですが」


 本来ならば。俺たち冒険者見習いは、プロが挑むようなダンジョンには来ない。

 評価を上げるにしても、学園内でランクを調整された汎用ダンジョンに挑むのが普通だ。

 汎用ダンジョン内はモニターされており、命の危険がせまったり、トラブルに見舞われたりしたさいには、即試験を中断してくれる。

 ただそこで選択肢。


「真っ当に試験をクリアするよりも、プロも挑むようなダンジョンに潜って、『踏破率』で評価を得ようとしたんです」

「ほうほう」

「まぁ……、失敗したわけですが……」

「そっかぁ~」


 なるほどね! と元気に頷くカルマさん。

 ……どこに元気になれる要素があったのかは謎だ。


「俺たちは、この三階層まで進んだら、引き返すのが目的だったんですよ。

 ……他のパーティメンバーは、それよりも先に逃げてしまいましたが」


 俺だって本来なら引き返したかったが、道に迷った挙句にモンスターから逃げ惑う過程で、階下に降りざるを得なかったのだ。

 本来なら、いの一番に脱出したかったくらいです、はい。


「ふむふむ、オッケー! 事情は分かったよ!」


 彼女は変わらず元気に頷いた。

 もしかして、こちらを元気づけようとするため、わざと明るく振る舞っているのだろうか。


「じゃあ戻ろうか! ボクが上まで連れてってあげるから」


 カルマさんはそう言うと、てきぱきとした動きで先に進んで行こうとする。


「ちょ、ちょっと……! 良いんですか?」

「ん? 今度は何だろ?」

「いや、カルマさんのキャラ的には、『大丈夫だよ! 奥まで行ける行ける!』みたいなことを言って、強引に俺を連れて行くのだとばかり……」

「それでも良かったんだけどねぇ。でも、きみは望んで無さそうだし」

「はぁ……」


 もっと暴走機関車みたいな人だと思っていた。

 暴れ馬には間違いないんだけど。

 俺がそんなことを考えていると、彼女はとても真っすぐな瞳で見返してきた。


「そもそもボクはね。キミを助けにこのダンジョンに入ったんだ」

「え……?」

「プロのダンジョンは、前のパーティと一時間開ければ別パーティも入れるじゃない。

 だから、急いで追いかけて来たよ!」

「え……、誰と?」

「ボクが二人いるように見える?」

「ってことは……、六人用のダンジョンに一人で入ったんですか⁉」


 マジかこの人⁉ 正気じゃねぇ……。


「あはははははは! ――――おりゃあ!」


 真っすぐなエネルギーで笑っていたと思ったら、奇襲をしようと迫っていたスケルトンをノーモーションで蹴り飛ばす彼女。


「きみのパーティメンツを見て、万が一が起こりそうだなーと思ってさ」

「ど、どういう……、うわぁ!」

「あはは! また奇襲だね。おりゃー!」


 先ほどよりもやや可愛らしい声で蹴りを放つ。

 次々と襲い来るスケルトンの群れは、バラバラになって散っていく(ちなみにこのスケルトンも、上級のスケルトンだ。一体一体がけっこう強いはず)。


「ここにいるとどんどん敵が湧いてきちゃうね!」

「楽しそうに言わないでください!」

「よ~し! とりあえず、脱出だ!」


 そう言って。彼女は笑いながら、手を差し出した。

 俺はまるで、夜会をロマンチックに抜け出すお姫様のように、つい手を取ってしまう。


「――――あ」

「行こう!」


 手を引かれて、その場から駆け出す。


「……あーもう」


 謎は色々ある。

 どうして俺を助けるために、わざわざ有名人兼実力者が来てくれたのか。

 どうして俺と、パーティを組もうと思っているのか。

 あのスキル変化は一体何なのか……などなど。


 けれど。そんなことが頭の中からトぶくらい。

 破天荒に、強烈に、縦横無尽に爽快に。

 騎馬崎(きばさき) 駆馬(かるま)は駆けていく。



 そうしてこの日。

 俺は彼女に救われて。

 最底辺冒険者見習いという立場を、一気に脱却することとなる。


 これは。

 覚醒の物語。


 これまでうだつの上がらなかった月見 球太郎が。

 力技で、ほぼ無理やり上級ランクへと覚醒させられる(・・・・・)――――


 サクセスストーリーに似た、何かである。





プロフィール・1


名前:月見 球太郎 (タマ)

身長/体重:172センチ/60キロ

職業:付与術士(バッファー)


物理攻撃:F  魔法攻撃:E

物理耐久:F  魔法耐久:D

敏捷:D    思考力:A+++

魔力値:D   魔吸値:F



常時発動(パッシブ)能力(スキル)

強化成功率上昇:E



任意発動(アクティブ)能力(スキル)

魔法上昇(マジカロ):E、攻撃上昇(ストラク):E、回復術(トリトム):E、

ボール出し:A+++(元・防御上昇(ハーデン):C)、




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ