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MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
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黒髪ロング

「それで、今日はその格好で遊びに来た、と」

 詩は静かにティーポットを傾け、左手で持ったストレーナーで茶葉を漉しながら二人分の紅茶を入れていた。詩の所作を見る人が見れば、なかなか本格的な手つきだということがわかるだろう。

「うん。僕が小さい頃から、絶対男子用よりも女子用の服の方が似合うって思ってたんだってさ」

 ガマゾン・ユーズドから上杉家へ送ってきた箱には、たくさんの和音用の服が入っていたという。どうやら和音の母の好みはゴスロリ風であるらしく、詩の家に遊びに来た和音が着ていたのは、ふわっと裾の広がったスカートで幾重ものレースのフリルが可愛い。

 箱には服と一緒にカチューシャやリボンなどの装飾小物とウィッグなども入っていたといい、その中から今日の服に合わせて黒髪ストレートのロングヘアにしたという。和音の母のチョイスはなかなか侮れない感覚を持っていると感心しきりの詩である。

「どうぞ」詩はソーサーに載せた紅茶を静かにテーブルに置いた。「イギリスではミルクを入れない紅茶は邪道なんだけどね。あいにく切らしてて」

「紅茶ってドリップバッグで入れるものだと思ってた」

 和音がカップを手に取り、香りを嗅いでから一口啜った。

「いつ頃からバレてたの?」

「この間、バスケの応援に行く時に差し入れを買いにショッピングモールへ行ったら、そこでばったり。髪型とかも変えてたし、メイクもしてたからバレてないって思ってたんだけどね」

「さすがに自分の子供の顔はわかるんでしょうね」

「だけど、その前からお化粧の匂いとか、かすかに僕の体臭に感じてたんだって。お母さんが言うには、女の感ってやつ?」

「まあねえ。女子ってそんなところ、敏感なんだよね。そのバッグも?」

 和音の傍には、可愛いショルダーバッグがある。

「うん。メイク道具も入ってるよ。これで着替える場所に苦労することはなくなったよ」

 和音が笑いを浮かべる。その和音を見ながら、メイクや髪型、服も、いつもと変えてあり、詩の服を着ているときと全然雰囲気が違うなと思う。

 もう少し変えると、別人になれそ——

 その瞬間、詩はハッと気がついた。これはまさしく天啓を得たと思った。

「これよ、音ちゃん。これ、これ」

 思いつきに興奮が止まない。

「何? これこれしか言ってないよ」

「学園祭よ。音ちゃんの一人二役、いや、一人三役の方法を思いついたのよ」

 詩は立ち上がって寝室に入り、メイク道具を手に和音の前に座った。

「ちょっと動かないでね。メイクを変えるから」

 詩はそういうと、和音の顔の突貫工事に入ったのだった。


「どうよ」

 詩は勝ち誇ったように、和音に手鏡を渡した。

「えっ…… 結構衝撃。全然違う」

 和音は自分の顔を触り、手鏡に映る自分の顔を角度を変えながら見ている。

「要は、学園祭で歌う音ちゃんと、メイドカフェにいる音ちゃんを、別の女の子と思わせる作戦を思いついたのね」

 自信満々に和音の反応を伺った。

「ええっ、さすがにそれは無理くさくない? いくらなんでも絶対バレるって」

 ないない。そんな風に和音が顔の前で手を振った。

 和音に秒殺されたが、絶対上手くいくという自信がある詩は、色々考えた末に、詩がスマホを手に取って石上に電話をかけた。

「どした? 電話なんて珍しい」

 いつもはトークでしか話してないので、そう思うのも仕方ない。

「今日、暇?」

「まあな。暇だから和音ちにでも遊びに行こうかと思ってたとこだったんだけど、和音に入れたトークが既読にならないからどうしようかな」

「それなら、ちょうどよかった。実はね、うちの学校の同級生がね、この間のさんちゃんの試合を見て、その……、紹介してって頼まれてさ。よかったら、これからロダンで会わない?」

 もちろん、口から出まかせである。ロダンとはいつものカフェだ。

「まあ、会うくらいならいいけど」

 石上はさらに「その子、可愛いのか?」と小声で囁いた。

「もちろんよ。さんちゃんの好みバッチリよ。激推しよ。じゃ、30分後にロダンに来て」

 詩はそういうと、電話を切って和音を見た。

「音ちゃん、これからさんちゃんと会うんだけど、音ちゃんは——そうね、なごみちゃんという違う人格になってね」

「なごみ?」

「そっ。和音の和でなごみちゃん」

「違う人格になるってどういうこと?」

「つまりさ、音ちゃんがいつもと違う女の子を演じて、さんちゃんに気づかれなかったら、学園祭も大丈夫ってことよ。さっ、ロダンに行きながら練習するよ」

 勢い込んで詩が立ち上がると、和音も渋々ついてきた。


「いつもはさ、音ちゃんはほんわか系だから、なごみちゃんになるときはツンデレ系で行ってみましょ」

 カフェに向かってテクテクと歩きながら、詩がレクチャーをする。

「ツンデレ?」

「そっ。できるだけ笑わないようにね。言葉遣いも、いつもはつんつんしてるの。さんちゃんに、この子本当は自分に興味はないのかなって思わせておいて、二人っきりになった時に、ちょっとだけ甘えてみせるの。どう、できる?」

「そんなに上手くいくかなあ」

 和音は明らかに疑いの目をむけていたのだった。

 


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