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MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
24/42

このまま、ずっと君と

「ねえ、次はゴーストライダーでしょ? もしいやじゃなかったら一般に並ばない?」

 食事が終わって、和音は石上君にそう提案してみた。超速パスの威力は十分にわかっているが、そうしたくなったのだ。

「本当はね、僕もそう思ってた」

 石上君が、本当にうれしそうに笑った。


 ここへ来る前、電車に乗っているときに二人でいろんな話をしたが、和音にはそれがとても楽しかった。これから始まる「楽しい一日」を想像しながら弾む二人だけの会話は、その人との距離を一気に縮めてくれる気がした。

 初めての夢ランドは和音の想像以上に楽しい場所だった。今まで経験したことのない絶叫マシーンで叫び、同じ体験をしたふたりで笑い合い、食事をしながらもう一度どんなに怖かったか語り合えた。

 だけど、あまりにも次から次に時間に追われながら、「これから始まるワクワク感」を感じるいとまもない。行列の中でゆっくりと少しずつ歩みを進めながら、まだ起きていないことへの期待とかを語り合う時間も楽しんでみたい。

 だから、石上君にそんな提案をしたのだ。そして石上君も同じことに共感してくれたのが、友達になれた気がしてとてもうれしいと思う和音だった。

 だからこそ、いつかは言わなきゃいけないんだよね。君に——


 和音と石上の二人はレストランを出て、ビッグエアーマウンテンと並んで人気アトラクション、「ゴーストライダー」のエリアへ向かう。

 和音の右側を歩き出した石上君の左手が、さりげなく和音の右手を探しているのを感じ、勢いで握った朝とは違い少しためらった。

 考えてみれば、女子同士だと普通に手をつなぐこともある。女子の姿の和音と詩もよく手を繋いでいる。男女の間でも手はつなぐ。それなら。

 和音がその手をそっと握ると、石上君は和音の右手を握り直して朝と同じように指を絡ませた。


 途中で夢ランドのマスコットキャラクター「ドリーミー」の路上パフォーマンスと遭遇し、一緒に写真を撮った。そんなことも、きっといい記念になる。


 想像した通り、夢ランド屈指の超人気アトラクションである「ゴーストライダー」はすごい行列だった。1回で結構な数でライドできるので、4列で並んだ行列も意外と早く進むらしいのだが、それでも最後尾は2時間待ちと看板を持った係員が告げている。


「石上君はこれは乗ったことある?」

 石上君を見上げる。160センチない和音からは、180センチを超える石上君はまるで摩天楼のようだ。普通に生きてるだけで、僕とは見える景色が違うんだろうなあ、と思う。

「中学のときに夢ランドにきたけど、まだこれができる前だったんだよね。だからすごい楽しみなんだ」

「ボクは夢ランドは小さい頃にきただけだから、絶叫系アトラクションはぜーんぶ初体験。ずっとドキドキが止まらないよ」

 きょう1日、ずっとそんな感じだよ。しかも男の友達と来るなんて僕には奇跡なんだよ。そこはグッと言葉を飲み込んだ。

「音ちゃんは、きっとまた大声で叫ぶね。そんときは、いつでもどうぞ」

 石上君がニヤつきながら、二人をつなげている自分の左手の上腕をポンポンと叩く。

「頼りにしてます」

 和音が言うと、石上君はとてもうれしそうだった。


 そうやっておしゃべりをしている間にも列は進み、あと少しでライドに近づけば近づくほど、和音はどんどん心が重くなるのを感じた。

 このまま、また自分を隠していいのかな。後悔するのは自分なのに。

 ——あれ?

 無意識にツーっと涙がひとつ、和音の右の頬を伝った。

「どした?」

 それに気がついた石上君が、その右手の人差し指で和音の頬を拭った。

 彼はどこまでも優しい人だ。

「僕、は……」

 堪えようと思っても、涙が溢れて喋れなくなりそうだった。

「僕は生まれつき……こんな……女子のような声、で」

 それでももう伝えよう。そうしなきゃいけない。

「中学……から、お、男のとも——友達も、いなくて。でも、うた」

 嗚咽を必死に堪えた。

「詩ちゃんが、これが僕に似合うって。この声と服が……僕に似合うからって。僕の個性なんだって言ってくれて」

 石上君の顔がみられない。

「詩ちゃんは、僕の、世界中で一番大切な人で。だけど——僕もいつか男子の友達とも遊んでみたくて……」

 もう涙を止めるのは限界だった。

 そのとき、つないでいた手を石上君から解かれた。和音はキュッと唇を噛んで俯いた。

 わかってる。当たり前だよね——

 次の瞬間、石上君はその太い左腕で和音の肩を抱いて強引に引き寄せ、顔を近づけた。

「じゃあ、もう友達がいないってことは今日でなくなったよな」

 えっ? 恐る恐る和音が顔を上げると、ニカリと石上君が笑う。

「で、でも。ぼ、僕は結果的に君を騙し——」

 その瞬間、後ろからすごい勢いで誰かから首に抱きつかれた。

「いいから! もうそれ以上言わなくていいから」

 飛びついてきたのは詩だった。彼女もポロポロと泣いていた。

「私、男らしいなんて音ちゃんに期待してないから。泣き虫の優しい音ちゃんでいいから。怖かったらさんちゃんの腕なら掴まっても許すから!」

 周りにいた人たちが、何事かと遠巻きに見ていた。

「なんだよ、詩子。お前、いつからいたんだよ」

 石上君が呆れたように言う。

「あ、朝からよ」

「ずっとつけてたってことか。暇か、詩子。しかも俺の腕は俺の許可がいるんだぞ。勝手に使うなよ」

 石上君はそう言って大笑いした。

 思っていたよりも、ずっと、ずっと石上君はいい人だった。

 できることなら、このままずっと友達でいたい。

「なあ音ちゃん。次も恋人シートで騒ごうよ」

 和音の肩を抱いた手を離さない。

「だめよ。次は私の番」

 詩がふたりを引き離そうとするが、石上君はさらに和音を強く抱き寄せて言う。

「だめ。今日は俺と音ちゃんの初デートなんだから邪魔すんな。もともと詩子がそうさせたんだろ?」

 そして和音の顔を見て、「なっ?」と笑う。

「うん」

 和音はそう言って頷いた。

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