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MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
21/42

超速?

 まったく、ひとりで? ふたりで? 盛り上がっちゃってさ。

 和音から送ってきたトークメッセージをボーッと眺め、ぶつぶつと独り言を言いながら詩はベッドに潜り込んだ。

 だいたいさ、どっちが先にトーク入れたのかわかんないけどさ、三人でグループトークだって作ったんだから、そこで話せばいいじゃん。

 つんと唇を尖らせた。

 音ちゃんは、どんな気持ちで私を誘ってるんだろ。

 さんちゃんが好きなのって聞いたら、うん、好きだよって言ってた。その「好き」はどっちの好き?

 だって最近、音ちゃんはもともと女子なんじゃないかって思うことがある。ちょっとした仕草も、笑う顔も女子の私がキュンとするほど可愛い。

 あなたに似合う服を着ればいい——

 初めて出会ったあの日に私が思ったこと、やっぱり間違いなかったんだけど、

好きになる人はどっちなのかな。

 あー、なんでこんなこと思うんだろ。まるで妬いてるみたいじゃん、私。

 返事も打ち込めないまま、詩はいつの間にか眠りについていた。


 目の前を寄り添って腕を組んで歩くふたり。左側の女子が振り向くと、それは音ちゃんで——

 音ちゃんは私を見て、意地悪い顔でニヤリと笑った。


「なんでこんな夢まで見るのよ!」

 なんて寝覚めの悪い朝。思いっきり枕に拳を叩き込んだ詩であった。


  ⌘


 教室に入ると、和音が顔を上げてこっちを見ているのがわかったが、詩は気がつかないフリをした。

「上杉君、今日の夕方ミーティングするから」

 その日、初めて言葉を交わしたのは、2時間目が終わった後だ。突然話しかけられたからか、驚いた顔で和音が首を縦に振った。

「私、ちょっと保健室に用事があるから、上杉君も来てね」

 詩と和音が、和音の着替え場所として見つけたのが保健室だった。先日はタイミングを間違えて先生に見つかったが、もともと先生は新体操部の顧問をしているので、一度保健室を空けるとしばらくは帰ってこない。時間を間違えなければカーテンも閉められるし、校内での和音の着替え場所としてこれほどいい場所はない。

 だから、詩が「保健室へ」と言ったのは、今日は上杉和音は音という少女になって例の「校内うろつき作戦」を決行するよと言う合図だった。


 授業が終わってから、先生がいないのを確認して保健室のカーテンの中で和音が制服に着替える間、詩は見張りをしていた。今は先生が帰ってくる心配は少ないとしても、この間みたいなこともある。気をつけるに越したことはない。

 

 無事変身した和音は、きょうは天気がいいので校庭を歩き回ることにして、詩は少し離れて後ろを歩く。

 音が校庭の外周を歩いていると、男子サッカー部——もちろん今年できたばかり——の練習場からボールが転がってきたので、手で投げ返す。「ありがとう」という男子生徒に、片手を小さく振りながら、「頑張ってねえ」と音が微笑むと、彼は二、三度振り返りニヤけながら走っていった。


 そんな風に何人かの生徒に印象付けをして、そのまま校門から出た和音に詩が追いついて、ふたりでそのままいつものカフェまで歩いた。


「で? 音ちゃんは行きたいって言ったわけね」

「うん。詩ちゃんも……行くよね?」

 当然、夢ランドの話になった。

「ごめん。私は行けない。後1回だけコンクールに出るってピアノの先生と約束したの。練習しなきゃ」

「やっぱりそうなんだ。返事がないから無理かなあって思ってた。じゃあ、石上君に断らなきゃね」

 和音はスマホを取り出した。

 よっぽと行きたかったんだろうな。だって、もうおかしいくらいがっかりが顔に出てる。昨日、さんちゃんと話しててあんなに楽しそうに笑ってたもんね。

 思い返して、詩はちょっと意地悪な自分に胸が痛んだ。

 ふん。まあ、仕方ないわね。大事な友達だし、いっちょやりますか。

 トークを打ち込もうとしている和音の手を詩は押さえた。

「遠慮しないで行けばいいじゃん。ふたりで」

 不思議そうな顔で和音が詩を見る。

「だって——」

「だってじゃないでしょ。もう行こうって約束したんでしょ?」

「でも。でもさ、夢ランドって結構チケットも高いから、詩ちゃんと行く時のためにとっときたいし」

 はっ、そこですか。

「だーめ。約束は守らなきゃ。さんちゃんが泣くよ。それと、ちょっと貸して」

 詩は和音のスマホを手に取って、まず和音の写真を撮った。それから、アプリをダウンロードして、いくつか操作した後、和音にスマホを返した。

「入場するときとアトラクションに入るとき、入り口でその画面を見せてね。無人の場所だったら、その画面を出してスマホをセンサーにかざすの」

 和音が驚いたように画面を見ている。

「その画面はサイオン超速パスっていって、うちの関係者だけが使えるパス。全部待ち時間ゼロになるからね」

「えっ、待ち時間ゼロって。えっ、なんで?」

 和音が詩とスマホを交互に見ている。

「夢ランドは、正式名称はサイオンリゾート夢ランド。うちのママの会社が経営してるからね」

 ポカーンと口を開けて和音が食べかけたチュロスを落としそうになった。

「そうそう、入場口でひとつだけ忘れないで。そのパスを持ってる人と一緒にいる人が入るためには、恋人つなぎをするか、腕を組んでいること。でないと入れないよ。わかった?」

 最後にひとつだけ軽く嘘をついた。

 これくらいいいでしょ。2人っきりで行かせてあげるんだから。

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