表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
15/42

結成

 真っ先に右手を挙げたのは詩だった。

「おっ、西園寺さん、やってくれるのか? 学級委員長と掛け持ちになるが」

 担任の谷岡先生が言われ、「はい。大丈夫です。ぜひ」と返事をした。


 今日は秋の学園祭の実行委員を決めるためのホームルームが開かれており、各クラスから2人ずつ役員を選出されることになっていた。

「自薦、推薦は問いませんが、自分がやりた——」

 と谷岡先生が言ってる最中に、「はい、やります」と詩が立ち上がって名乗り出たところだ。

 正直なところ、誰もこんな面倒な役員なんてやりたがらないのだ。ましてや、まだ1年生の役員なんて、3年生の使いっ走りになるのが目に見えている。

 だが、詩はむしろやりたくて仕方なかった。なぜなら、あわよくば自分がステージに立って、自分が作った曲を披露したくてうずうずしていたのだ。


 聖華学園のホールは全国的にも屈指の観客の収容数とプロも認める抜群の音響設備を誇っているため、人気の軽音部や、伝統的な吹奏楽部、合唱部、演劇部などが虎視眈々とそのステージでの発表の機会を狙っているという話だった。

 だからこそ、まずはこの学園祭の実行委員になってホールで行う催し物の調整を行う係を手に入れて初めて、この激戦区のスタートラインに立てると詩は考えていた。


「じゃあ、もうひとり我こそはという者は誰かいないか」

 先生が右手を顔付近まで上げてクラスの皆に自薦を促したが、もちろんいるわけもない。みんな先生と目を合わせないように下を向いている。

「先生、推薦でもいいですか」

 詩が言うと、先生が首を縦に振った。

「別に構わないが、誰か思い当たる人いるのか」

「上杉君はどうでしょうか」

 一瞬、クラスがザワっとして、全員が和音に一斉に視線を向けた。

「上杉、推薦があったが、どうだ。やるか?」

 きっと寝耳に水——

 和音が必死にかぶりを振り、「む、無理です」としゃがれた声で言った。

「だそうだ。西園寺、どうする? 他にはいないのか」

 ふう、と大きく息を吐いて、詩はゆっくりと立ち上がった。

「この実行委員は、学園祭までたくさんやらなければならないことがあります。そうなると、まず部活動をしている方は除かれます。次に、去年まではこの学園は女子高でしたが、今年から男子も入学しました。男子の出し物のことなど、私たち女子ではわからないこともありますので、実行委員のもうひとりは、やはり男子から選ばれるべきです。そうなると、このクラスでその両方を満たすのは必然的に上杉君、あなたひとりです」

 ビシッと和音に向かって指を差した。あまりの勢いに、ビクッと和音が後ろにそり返った。

「上杉君、あなたにしかできない仕事がここにあります。クラスのみんなのために仕事ができるなんて、なんて素晴らしいことだと思いませんか? だからもう、やらないという選択などありえないですよね?」

 は、はい。和音はそう言うしかなかったようだ。


「詩ちゃんはずるいよ。僕が返事できないって知ってるくせに」

 その夕方、実行委員だけの初回ミーティングをするということにして、詩と和音は教室に居残りをしていた。

「だって、私がやるって言ってるんだからさ、音ちゃんも自分から手を挙げたっていいじゃない」

 相変わらず引っ込み思案の和音に、詩は少し不満だ。

「だって僕、苦手なんだよね。知ってるだろ」

 和音が口を尖らせた。

「でもさ、私と音ちゃんは今のままじゃ学校内じゃ喋れないでしょ。同じ係だったら、一緒にいても怪しまれないんじゃない?」

「うん。それは——うれしい」和音が照れながら笑った。「詩ちゃんがそこにいるのに喋れないって、すっごいストレスなんだよね」

「へへ、実は私も」

 詩もペロッと舌を出して笑い合った。


 そのとき、ガタガタっと教室の入り口の扉が開いてクラスメイトの女子が2人入ってきた。

「あれっ? 今、上杉君が笑ってた? えっ、笑うことあんの? っていうか、詩ちゃんは上杉君と仲よかったの?」

 そのうちのひとり、山内さんが詩と和音が笑うのを見逃さなかったらしい。

「あー、違うのよ。上杉君がいつも陰気な顔してるから、たまには笑いなさいって練習をさせてたんだけど、もうひきつって全然だめ」詩が大きくため息をついた。「これじゃあ、先が思いやられるわ」

「まあまあ、自分が選んだ相手なんだから。じゃ、頑張って」

 山内さんは、自分の机のリュックからタオルを取り出し、待っていたもう1人とまた部活に帰って行った。

 2人は完全に姿が見えなくなるまで見送って、胸をなでおろし、またクスッと2人で笑い合う。


「ところでさ、私たちのグループ名は何にする?」

 詩が和音に話を振った。

「グループ名って?」

「だから、音ちゃんが歌って私がピアノを弾くの。デュオとして活動するなら、ちゃんと名前をつけなきゃ」

「なに? まだ諦めてないの?」

「いいじゃん。形だけでもいいからさ」

 詩がねだると、和音は仕方ないなという顔。

「わかったよ。じゃあ、詩ちゃんにまかせる。何か候補あるの?」

 待ってました。実はひとつ考えてた。

「ええとね、『しおん』ってどう?」

「しおん?」

「うん。2人の名前を繋げて、詩と音でひらがなか漢字で『しおん』」

 どうよ。我ながら、いい名前じゃない?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ