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MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
11/42

詩、バレる!

(ふーんなるほど。よーくわかりました)

 あきらかに無視を決め込む和音に、詩は覚悟を決めた。こんなことで挫ける詩ではない。

 ——よし、絶対に振り向かせてみせる


 詩はその日の夜から1曲ずつ、まだ誰にも聴かせていない自分が作った曲をトークアプリで和音に送ることにした。

「君に、届け」とタイトルをつけたあの曲を初めて聴いたときの和音は、間違いなく気に入ってくれていたと思う。あの時、たとえ一瞬でも和音がその気になったということは、決して希望がないわけではないはずだ。

 まず、自分が本気で音楽に取り組んでいることを伝えよう。思いつきで和音を誘ったんじゃないってことをわかってもらいたい。

 自室の遮音カーテンを下ろし、ピアノで動画を撮る。今夜送るのは「輝き」というタイトルのバラードだった。

 

 君と出会えてよかった。毎日が輝いて見える


 そんな思いを渾身のピアノで切々と語りかけるように動画に収めた。

 さて、送信っと——

 ポンとスマホの画面をタップする。

(ほら、早く既読になれっ)

 ワクワクしながら画面を睨みつけていると、思いのほか早くに「既読」がついた。

 やった。かかった。小さくガッツポーズをした。

 ちょうどその時、詩の部屋のドアをノックする音がする。

「詩さん、ちょっといいかしら」

 ママだった。今日はいつもよりかなり帰宅が早い。今までこんなことは滅多にない。どうしたんだろう。

 詩がドアを開けると、「入りますよ」と言いながらママが入ってきた。そしてなぜか部屋のシャワールームのドアを開けて中をキョロキョロと覗き、それからドアを閉めた。

「詩さん、そこへ座ってください」

 ママは詩をソファに座らせ、その隣に自分も座った。

「詩さん、土曜日はピアノの練習に行かなかったそうですね」

 ママはいつものように「詩さん」と言う。

「あっ、はい。銀座へコンクール用のドレスを注文に行ってました」

 ママと話すときは、詩も言葉がとても丁寧になる。

「まあ、あのお店に任せておけば素敵なドレスを仕上げてくれるでしょう」そこで言葉を区切ってママは小さく咳払いをする。「ところでその後、ここへお友達をお連れしたそうですね」

 ——葉子さんから聞いたんだ

「はい。帰りにお友達に街で出会って、部屋へお連れしました」

 ここは下手に隠さないほうがいい。警戒警報がピコピコと鳴り出した。

「あなたがお友達をお連れするなんて、小学校以来ですかね。お珍しい」

「はい。高校生になって、とても気の合うお友達ができました」

 

 和音はあのとき「友達の多い君にはわからない」と言った。だが、意外に思うかもしれないが、実は詩は「親友」と呼べる友達はいない。

「あなたはいつか会社を継ぎます。ですから友達はその立場に相応しい人を選びなさい」

 小さい頃からママにそう言われて育った。

 それに、学校が終わるとすぐにピアノ教室に通っていたので、友達と遊ぶ時間はほとんどない。

 遊びに誘われても、どうせ行けなくて寂しい思いをする——

 詩はいつの間にか、自ら人と深く付き合うことを避けるようになっていた。性格はとても社交的ではあるが、クラスメイトはクラスメイトと割り切っている。


「で、その方は男性用の服を着ていらしたそうですが、まさか、男性のお友達をお部屋にお招きしたということは——ありませんよね」

 いきなりママはズドンとど真ん中を攻めてきた。目が笑ってない。詩の真っ赤なパトランプが激しくクルクルと回る。

「わ、いえ、音さんはコスプレが好きな方で。あの日は男装をされてまして」

「コスプレ? 変わったご趣味の方ですね。シャワーを使っていたのもその方ですか?」

 どうやらコスプレという言葉は知っていたらしい。そして葉子さんがシャワーのことを話していたのはとっても想定外よ。泣きそう——

「こ、コスプレは厚塗りのお化粧をいたしますので、ここでお化粧を落として着替えをされるように詩がお勧めしました」

 っ苦しい言い訳!

「音さんと言われましたっけ。あなたの大事なお友達なら、一度お会いしたいものですね。今度の日曜日、お招きしてくださいね。葉子さんに美味しいランチをご用意していただきますから」

 日曜日、ママが口に出した以上、決定事項。だけど、さすがに。

「でもママ、音さんのご都合も——」

「あら、お忘れですか。今度の日曜日は詩さん、あなたのお誕生日ですよ? お友達をご招待するのは当然です。いいですね?」

 ママが口に出した以上、決定事項。うん。私は逃げられないね。涙の雨が降りそう。

 詩は観念した。

「もちろんです。きっと音さんも喜んでいただけると思います」

「では、日曜日を楽しみにしてます」

 ママは目が笑ってない笑顔を作り、部屋を出て行ったのだった。


 うわあ。どうしよう。どうしよう。

 オロオロと部屋を歩き回りながら、詩の頭はフル回転をする。

「あっ」

 ハッと閃き、詩はタタタッとピアノの上に置いたスマホに駆け寄った。

 最後の頼みの綱。お願い。

 だが、スマホにはやはり何も返信はなかった。

「返事ぐらいしてよ!」

 詩はそのスマホをソファに置いたクッションに投げつけたのだった。

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