転生したらモブ令嬢でしたが、勘違いヒロインに婚約者を取られたのでキラキライケメンと結婚します
乙女ゲームの転生物を一度書きたくて作りました。
ヒロインが残念なため、ご了承ください。
「シャーロット、お前が手を回したのだろう。何故家に入れない!!悪女め!!」
「クリス、あの女はきっとあなたに未練があるのです。私が現れたばかりにと憎んでおいでなのよ。」
学園の玄関前で大声で呼び止める元婚約者としなだれかかるヒロインに、私・シャーロットは内心ため息をついた。
男爵令嬢シャーロットには生まれながらに前世の記憶がある。しがない女性会社員だったところまでだから死因は不明だが、この世界にも見覚えがあった。
気付いたのは三歳の時、国王即位のパレードを両親に連れられて見物に行った時だ。国王陛下、王妃、そしてまだ幼い王子の顔が前世の記憶にある乙女ゲームと一致した。
ゲームの中でシャーロットなんて名前は知らない。どうやらヒロイン達とは無関係のモブに転生したらしい。魔法も竜もいない平和な世界に安堵し、王子と同世代で成長出来ることに喜んだ。
男爵家の一人娘である以上、婿を取らなければならない。が、あっさりと片付いた。親類の侯爵家から次男を是非とも婿入りさせたいと申し出があったのだ。
多額の持参金、領地への支援など至れり尽くせりの待遇に両親も私も「どれだけ愛されているんだろう」くらいに思っていた。
が、
顔合わせに現れた同い年の少年クリストファーは金髪碧眼。顔は美しいのに、俺様気質・上から目線・頭が弱い・記憶力もない・口は悪いとなかなかの物件であった。
もちろんお断りなど出来はしない。ブラウンの髪に緑の瞳。この世界では平凡なシャーロットが意識的に口角を上げて挨拶をすれば、睨んだ挙句に水をかけられる始末であった。
完全な仮面夫婦になることが決定したまま時は過ぎ、学園に入学するとヒロインが同級生だった。ピンクの髪をツインテールにして、幼く守りたくなる顔。天真爛漫な行動とは裏腹に成熟しきった肉体。おまけに元平民で最近子爵令嬢になったばかりらしい。
うっかりゲームの世界を忘れていた私には刺激が強いTheヒロインに驚いていたが、二学年上には王子殿下と側近の方々。一学年上にはその婚約者のご令嬢が並んでいる。
絶対にあのキラキラグループには関わらずにいようと思っていると、まさかのクリストファーが引っかかった。
ヒ・ロ・イ・ン・に。
進級まであと一ヶ月。素行不良と学力低下によって義父母となる予定の侯爵夫妻が学園に呼び出しを受け、何故か本人不在のため婚約者の私も含めて教師に怒られた。
指導担当の教師と四人で本人を探していると空き教室から微かに聞こえる嬌声。そっと覗けば馬鹿の上でヒロインが腰を振っていた。
もちろん停学。留年決定。持参金は慰謝料となり、婚約は破棄された。
かなりの温情措置である。
クリストファーは「愛し合っていただけなのに何が悪い。」と宣い、ヒロインは「襲われたのです。」と涙したという。
ヒロインの言い分は却下されたが。
それでも学園にはクリストファーの悪評が響いた。ヒロインを狙っている男は多かったし、何せクリストファーの評判は悪い。
ヒロインがノリノリだったのは分かっている。侯爵家には元婚約者以外に嫌いな人間はいない。しょうがないので、無知な振りをして周囲に聞いてみた。
「襲われたら、上に乗って腰を揺らさなければならないのですか?」
私には出来ません......と怯えて見せれば、ただのヤバいカップルの出来上がりだ。
学園には警備が増員され、二人には常に侯爵家から派遣された見張りが付いている。今後のためのテストケースにするという学園の配慮でそれぞれマンツーマンでの授業を受けている。
クリストファーは近くにタウンハウスがあるにも関わらず寮に入れられ、長期休暇も帰れない。私との接触は禁止。このまま卒業出来れば、侯爵家も領内の僻地に二人を送り込むことで許すと報告されている。
しかし、今ここで対面している。おまけに抜け出してタウンハウスにも行ったようだ。
(はい、アウトーーーー)と心の中で呟いていると、両隣にいた人物が私の前に立った。
「あぁ元弟よ。何故元婚約者を呼び捨てにするんだ?」
前に出て大袈裟に額に手を当てる男性はクリストファーのお兄様、侯爵家のご嫡男エドモンド様だ。見た目は似ているがとても有能だと評判だ。
「本当に残念な方ね、元お兄様は。シャーロットお姉様が本当のお義姉様になっていただけるからと慕っておりましたのに。時間の無駄でしたわ。」
左からはクリストファーの妹のアイビー様が扇で口元を隠しながら微笑む。圧倒的な美貌で社交界の華になるだろうと噂される方だ。
「兄上!!アイビーも。その女に騙されているのです。アイビー、お姉様とはもしやその女は兄上を婚約者から寝とったのか?なんて常識を知らない穢れた女め!!」
クリストファーは激怒し、唾を飛ばしながら喚き立てる。周りは凍りついたが、隣にいるヒロインは気付かずに眉を下げる。
「お可哀想なお兄様と婚約者様。シャーロット様に引き裂かれるなんて!!」
クリストファーに泣き真似をしながら抱きつく様子に場がシラケる。
「馬鹿は言葉を慎みなさい。私とシャーロットお姉様は姉妹になると誓い合ったの。結婚なんて関係ないわ。」
アイビーの口調が荒くなるのも気にせず、馬鹿二人は続ける。
「このままでは我が侯爵家は乗っ取られてしまう。」
「クリス様が跡取りになれば安泰ですわ。」
どこまでもお花畑な二人に思わず口が開いた。が、声を出す前にアイビー様に止められた。
「お黙りなさい、泥棒猫。その隣の男もね。」
凛とした声が響き、周りが凍りつく。
現れたのは学園内で一番高貴であろう公爵令嬢だ。一学年上の、王子の婚約者である。
「恥知らずのお二人ね。お似合いだわ。」
「あまり見ると移りますわ。」
王子の側近たちの婚約者たちもぞろぞろと現れる。あのゲームはヒロインが三年生でエンディングだったから、王子たちの攻略はまだ途中だった。ヒロインの醜聞に我に返った王子たちは、謝り倒して婚約を継続してもらっている。
「気の迷いだったと許しましたの。」
呼び出された私にニコリと微笑んだ高位令嬢の皆さんは『私の婚約破棄のおかげ』だと知っているし、私に危害が加わることがないように『配慮』すると誓われた。
クリストファーとヒロイン相手には喋るなと言われているが、ムズムズする口が少し開きそうになる。
恐らく取り巻きから状況を聞いて助けに来てくれた令嬢たちに目配せをされ、慌てて口をぐっと閉じてみせればエドモンド様が代わりに口を開く。
「愚弟が申し訳ありません。二人とも二度と目に触れないように致します。ご慈悲を。」
軽く頷かれたのを確認すると、見張りの騎士が二人を拘束した。
「何をされるんですか、兄上!!悪いのはシャーロットです。」
どれほど声を上げても拘束が緩まることはなく、ますます締め付けられて床に膝をついても諦められないクリストファーは兄と妹の隙間から私を睨みつけた。
「シャーロットの名を呼ばないでいただきたいな、クリストファー。」
テノールの良い声が響き渡れば、クリストファーの目が見開いた。静かになったその場に一人の青年が現れる。金髪碧眼はクリストファーと同じだが、お顔立ちは圧倒的に青年の方が美しい。
「お前はクリストフ。」
クリストファーの驚いた声に青年クリストフ様は嬉しそうに笑った。
「覚えていてくれたんだね、クリストファー。嬉しいよ。」
「お前、病気は?」
幽霊でも見る目でクリストフ様を見つめるクリストファーに、クリストフ様は両手を広げてみせる。
「母の母国で良い治療薬が見つかってね。おかげでこんなに元気になったよ。シャーロット嬢との縁談も決まって、幸せだよ。」
ご機嫌な様子のクリストフ様は私の前に立ち、手を取って口付けた。
「初めましてシャーロット嬢。お出迎えありがとう。手紙でも感じたが、とても聡明で美しい。君を妻に迎えられるなんて幸せだ。」
(こんなキラキラ知らない。同族のモブを紹介されたと思っていたのに。)滝汗が流れるくらいに焦りながら、意地で悠然と微笑んでみせた。
「初めまして、クリストフ様。クリストファー様と婚約破棄して、お詫びにと侯爵様から紹介いただきました縁ですが、末永くよろしくお願いします。」
代わりにと勧められたクリストフ様は同い年の公爵令息で、次男という立場と病弱であったために婚約者が空席だった。国を離れているからと手紙での交流であったが、センスが良い文章に美しい文字、相手の事を考えていると分かるプレゼントの数々にすっかり私は心を許していた。(いや、こんなに美形だなんて聞いてないけども。)自分の手紙に『自分はカッコイイ』なんて書く男がいれば、お断りなのだが。
「クリス様って、こっちじゃないの?」
幼い頃から名前という共通点で比較されて、何から何まで健康以外で勝てずに拗らせていたクリストファーは呆然とし、隣にいたヒロインがワナワナと震えて声を出した。
「なんで同い年に同じ名前付けるのよ!ややこしい。大体国内に居ないなんて知らないわよ。」
急に癇癪を起こし出したヒロインにクリストファーは狼狽えて、後ずさった。
「イケおじのクリス様の学生時代に生まれたからやったーって思ったのに、確かにおかしいと思ったのよ。イケメンで頭がいいクリス様が盛るなんて、もっと優しくしてくれるに決まってるのよね。」
訳の分からない話を続けるヒロインを護衛騎士が慌てて拘束し直し、その場から引き離しにかかる。
「前回のヒロインに生まれ変わったのに、クリス様を狙ったからバグったの?」
ぶつぶつと真剣な顔で呟くヒロインに怯えながら、隣を歩かされるクリストファーは先程よりも小さくなっていた。選んでくれたはずの恋人はクリストフ狙いだったと気付いたからだ。
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「大丈夫ですか?お嬢様。」
騒然としていた玄関ホールは、公爵令嬢とエドモンド様の手によって解散させられた。
気が抜けたようにヒロインを見送る私は、念の為に休みとされクリストフ様と共に男爵邸に帰された。
心配だからと屋敷の中まで送ったクリストフ様を見た両親が呼び止め、応接間で談笑している。私は私室でメイドに心配されながら着替え、ベッドに入った時点で一人にして欲しいとお願いした。ヒロインの話が気になったからだ。
「クリストフ様はゲームでイケおじ。私の知っているゲームに続編でも出たのかしら。ヒロインはクリストフ様推しだったから、愛称がクリスになるクリストファーを狙ったのね。髪も瞳も同じ色だし、こう爵家の次男が二人もいるなんて普通思わないし。」
一人で言葉にしてみると、疲労感がのしかかった。どうやら私は勘違いヒロインのせいで次作のキラキラ攻略対象をゲットしてしまったらしい。
何で毎回告白は卒業まで待たなきゃいけないのかが疑問だったので、ヒロインに勝負をかけさせてしまいました。
ヒロインとクリストファーの結末は別途あります。
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