表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

1000文字小説集

浴衣の娘と十五夜ドライブ

 十五夜と土曜日が重なり、夜の天気も晴れの予報。加えて久々に土曜出勤から解放されて時間的にも精神的にも余裕があった。

 だから「今夜はお月見ドライブしようか」と妻と子供たちに持ちかけた朝食の席。

 子供たちが小さかった頃、よくそんなささやかなイベントを設けた。

 しかし中3の娘は勉強がしたいと言うし、小6の息子は面倒くさいと言う。妻は子供たちだけで留守番させたくないと言い、結局その話は流れた。

 そして午後は妻は友人たちとお茶会、子供たちは塾で、私は一人仕方なく投稿サイトにアップする小説の執筆。

 寂しかった。


 夕方前、娘が帰宅するなり私に告げた。

「やっぱり今夜、お月見ドライブに行きたいな」

 娘は成長とともに私と距離を取るようになっていた。そんな彼女からの申し出は意外だったが、私は無性に嬉しくなった。

 夕食後、娘は外出の準備。

 浴衣を着て行きたいとかで、妻が着付けの手伝いをした。

 十五夜に、しかもドライブに浴衣とは?と疑問だったが、無理もないとも思った。

 2年前に買った浴衣はまだ一度も袖を通していなかった。コロナ禍で夏のイベントが2年続けて中止となり、さらに今年は彼女自身がコロナに感染して自宅療養を余儀なくされた。

 彼女の成長とともに浴衣もいよいよサイズアウトしそうで、今夜が最後のチャンスかもしれないとの事だった。

 浴衣姿の娘は親の私から見てもハッとするほど大人びていて、キティちゃんの甚平を着て笑い転げていた10年前が大昔のように思われた。


 目的地は、都市の夜景も楽しめる稜線上のドライブウェイにした。

 しかしせっかくの2人きりのドライブだというのに、互いにほとんど無言。

 いや、娘と2人きりになっても無言なのは、もういつもの事だから別に何とも感じなかった。

 彼女にしてもそれは同じだったろうが、車が稜線上に出て大きく丸い月がフロントガラス越しに現れると、「わぁ、きれい」と歓声を漏らした。


 途中、展望台に立ち寄った。

「寒くない?」

 私は聞いたが、娘は「ううん、ちっとも」と首を振った。

 眼下には煌びやかな都会の夜景、振り向けば凛とした秋の月。

「わぁ、きれい!」

 今度は大きな声で歓声を上げる娘。

 私も娘と並んで柵にもたれる。

 そこに娘の方から話しかけてきた。

「お父さん、あのね・・・」

「何?」

 しかし彼女はしばらくの沈黙ののち、「なんでもない」と答え、今度は月に目を向けた。(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ