嫉妬《ヘレス side》
こいつらは、火に油を注ぐ天才か?よりによって、アイシャの前で『体を売る』発言をするとは……。ウチの奥さんは結構嫉妬深いのに……。
『まあ、そこが可愛いんだけど』と惚気けつつ、俺は肩を竦める。
何も言わない俺に業を煮やしたのか、一人の女性が暴挙に出た。
「なら、私は全てを差し出すわ!金も体も宝石も、全部……!!だから、お願い!私を助け……」
「────今すぐ、その汚い口を閉じなさい!私達を誰だと思っているの!?」
低い声で人間共を威嚇し、ズカズカと中へ入ってきたのは────他の誰でもない、アイシャだった。
苛立たしげに眉を顰めた彼女は、物凄い形相であちらを睨みつける。
そして、俺の隣に並ぶと、『私の夫よ!』とでも言うように腕を組んだ。
アイシャの勢いに呑まれる人間共は、一斉に口を噤む。
「これで、少しはマシになったわね!まあ、呼吸音がうるさくて堪らないけど……そうだ!いっその事────息の根を止めてしまいましょうか!」
名案だと言わんばかりに目を輝かせるアイシャは、ピンッと立てた人差し指に神聖力を集めた。
『話が違う!』と喚く人間共を他所に、彼女は神聖力の塊を放つ。
刹那────神聖力は弾け飛び、一瞬にして広がった。
蛇のように蠢くソレは、人間共の手足を掴み、内側へ入り込む。
人の神経や血液を通じて、魂まで侵食すると────強制的に幽体離脱させた。
「ぁ……がっ……!」
「な、にを……!」
「ご、べ……んぐっ!」
「だず、げ……ぁがっ……!」
肉体と魂の繋がりを無理やり絶たれた人間共は、言葉にならない声を上げる。
口端から涎を垂らし、彼らはバタバタと倒れていった────ただ、一人を除いて……。
「か、彼らに何をしたんだ······?」
ここに来て、ずっと沈黙を守っていたフィオーレ王国の国王────レイバン・ゼラニウム・フローレンスが口を開いた。
メインディッシュとして、取っておいた彼からの質問に、アイシャは一つ息を吐く。
「見ての通りよ。体から、魂を引き剥がしたの。直接危害は加えていないけど────心臓を抉り取られたような痛みがある筈よ」
サラッと、とんでもないことを口走るアイシャは呆気からんとしていた。
『彼らには、ちょうどいい罰でしょう?』と肩を竦める彼女に、国王は難色を示す。
「魂に干渉し、苦しめるなんて……神のやる事とは、思えん……」
 




