王城《ヘレス side》
────同時刻、フィオーレ王国の王城にて。
王家の処分を頼まれた俺とアイシャは、城の至る所に居る兵士を薙ぎ倒しながら、廊下を進む。
そして、玉座の間と呼ばれる場所まで辿り着いた。
扉を守る兵士は既に逃げ出したようで、俺達の邪魔をする者は居ない。
「居ない方が楽とはいえ、これはちょっと詰まらねぇーな」
拍子抜けするほど簡単な王城制圧に、俺は肩を落とす。
『張り合いがない』と落胆する俺に、アイシャは共感を示した。
「必死になって、抵抗する人間達の姿が見たかったのに……残念ね」
『味気ない』と肩を竦めたアイシャは、不満げに口先を尖らせる。
ご機嫌斜めの妻に苦笑しつつ、俺は尖った唇を指で押し返した。
宥めるように唇をなぞると、アイシャは擽ったそうに身を捩る。
思わずといった様子で笑みを零す彼女に、俺は心底ホッとする。
やっぱり、アイシャには笑顔が一番だな。
愛する妻の笑顔に目を細めつつ、俺は観音開きの扉に目を向けた。
『愚王の面でも拝みに行くか』と、ほくそ笑む俺は────勢いよく、扉を蹴破る。
「おっ……?思ったより、人が多いな!これは嬉しい誤算だぜ!」
珍しく声を弾ませる俺は、『こっちに来て正解だった!』と歓喜した。
キラキラと目を輝かせる俺の前で、綺麗に着飾った二十人の男女は固まる。
見事な間抜け面を晒す彼らは、『何故、ここに……?』と言いたげな目でこちらを見つめた。
シーンと静まり返る空間で、国王と思しき人物は表情を硬くする。
美しい装飾の施された玉座に腰掛ける彼は、タラリと冷や汗を流した。
俺達の正体に薄々勘づいているようだな。まあ、だからと言って、計画に支障はないが……。
「よぉ、お前ら。死ぬ覚悟は出来ているか?」
玉座の間へ足を踏み入れた俺は、ニヤリと口元を歪める。
悪意を剥き出しにする俺の前で、人間共は腰を抜かした。
「お、お願い!私だけでも助けて!助けてくれたら、何でもしてあげるわ!」
「なっ!?狡いぞ!!それなら、僕だって……!!僕を助けてくれたら、金貨五百枚やる!」
「なら、私は二千枚よ!!おまけに宝石だって、付けてあげる!」
「お、お前ら汚いぞ!!金で解決しようなんて……!!」
「じゃ、じゃあ!私は────この体をあげるわ!好きに弄んでもらって、構わない!たっぷり奉仕してあげる!」
助かりたい一心で媚びを売る人間共は対価として、金や体を提示した。
交渉の余地など、最初からないというのに……実に愚かである。
『救いようのない馬鹿って、居るんだな』と呆れつつ、俺は小さく頭を振った。