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無慈悲《カシエル side》

「────は、ハワード……!お前からも天使様に頼んでくれ……!私を許してやってくれ、と!」


 『私達は苦楽を共にした仲間だろう!?』と叫ぶ教皇は、みっともなく命乞いをした────偽聖女の糾弾に巻き込まれ、命を落としたハワードに……。

自分のせいで死んだと言っても過言ではない相手に縋るとは……実に愚かだ。


 全く……なりふり構わずと言っても、限度があるでしょう。

何でよりによって、彼なんですか……。


 『無神経にも程がある』と(かぶり)を振り、私は深い溜め息を零した。

『付き合いきれない』と判断し、私は無視を決め込む────が、しかし……ハワードは違った。


「────神の教えに背き、メイヴィス様(真の聖女様)を殺した貴方に与える慈悲など、ありません。いい加減、諦めてください」


 無機質な声で要求を跳ね除けたハワードは、海色の瞳に怒りを滲ませる。

鋭い目付きで教皇を睨みつけ、僅かに殺気を放った。


 ハワードの怒った姿を見るのは、初めてかもしれません……彼はいつも怒りより先に、メイヴィス様を助けられなかった後悔に苛まれていますから。


 絶望に打ちひしがれるハワードの姿を思い返し、私は内心苦笑する。

『怒りの感情を忘れていた訳では、なかったんだな』と安堵しつつ、私は教皇に向き直った。


「ハワードの言う通りです。悪足掻きはやめて、自分の運命を受け入れてください。まあ、『嫌だ』と言っても、やめるつもりはありませんがね」


 『拒否権はない』と宣言した私は、室内へ足を踏み入れる。

『ひっ……!』と短い悲鳴を上げる教皇は、直ぐさま後ずさりした。


「く、来るな……!」


「誰に指図しているんですか?」


 『身の程を弁えろ』と叱りつける私は、ズカズカと奥まで入り込む。

無遠慮に歩みを進める私は、壁にピッタリと張り付く教皇の前まで来ると、足を止めた。

後ろに控えるハワードに目を向け、私は三歩ほど下がるよう命じる。

そして、彼の安全をしっかり確認してから、復讐を決行した。


「貴方はもう少し他人の痛みを知るべきです」


 『あまりにも無知すぎる』と吐き捨てた私は、神聖力で黄金の剣を作り出す。

実体化された剣を握り締め、私は────一思いに教皇の胸を貫いた。


「ぐはっ……!!」


 大量の血を吐き出した教皇は、『あっ……ぁ……』とよく分からない声を上げる。

口の開閉を繰り返しながら、彼はこちらに目を向けた。


 必死の形相で何かを訴えかけてくる彼に、私は『遺言ですか?残しても、意味ありませんよ』と吐き捨てる。

慈悲の欠片もない私の態度に絶望したのか、教皇はついに息絶えた。

床に突っ伏す形で倒れた彼を一瞥し、私は後ろを振り返る。


「さて、そろそろ帰りましょうか。レーヴェン様たちを出迎える準備をしなくては」


 己の役目を終えた私は、『本来の仕事に戻ろう』と呼び掛ける。

笑いながら手を差し伸べると、ハワードは直ぐさま手を重ねた。

『絶対に離さないでくださいね』と注意を促してから、私は行きと同じように転移を発動させる。

そして────ハワードと共に天界へ帰還するのだった。

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