時間の無駄《カシエル side》
『人間の尺度で神を測るな』と主張し、私は冷めた目で男性を見下ろす。
みっともなく、地べたに這いつくばる彼は怯んだように視線を逸らした。
ガタガタと震える男性を前に、私は『はぁ……』と深い溜め息を零す。
この程度の殺気で怯えるくらいなら、最初から逆らわないで欲しいものですね。時間の無駄なので。
血まみれの男性を一瞥し、私は破壊された玄関の扉に目を向けた。
「この人のことは放っておいて、中に入りましょうか。メイヴィス様の断罪に手を貸した教皇に、地獄を見せなくては」
まあ、放っておいてもそのうち本物の地獄に行くんですけどね。
最悪の末路を辿る教皇に思いを馳せ、私はハワードに目配せする。
彼はハッとしたように目を見開くと、『は、はい!』と大きく頷いた。
どうやら、ようやく正気に戻ったらしい。
「教皇の潜んでいるところに心当たりって、ありますか?」
「えっと、一応あります。確証はありませんが……」
「それでも、構いません。案内をお願いします」
「分かりました」
おずおずといった様子で頷くハワードは、先頭に立って歩き出した。
迷いのない足取りで進んでいく彼を追い掛け、私も建物の中に入る。
案の定とでも言うべきか……屋内は随分と荒らされており、泥棒でも入ったかのようだった。
割れたガラスの破片や剥がれた壁紙を見つめ、私は『廃墟の方がまだ綺麗だな』と考える。
そして、何とか二階まで上がると、一番奥の部屋に足を運んだ。
細かい装飾が施された扉を前に、私は『随分と豪華ですね』と呟く。
質素倹約をモットーとする教会にしては、かなり派手だった。
「恐らく、教皇はここに居ます。非常時に備えて、この部屋の扉はかなり厚くしてあるので。籠城するなら、ここでしょう」
『床や壁の厚みも相当です』と語ると、ハワードは横に移動し、場を譲る。
『どうするのか?』と問う眼差しにニッコリと微笑み、私は一歩前へ出た。
「どれだけ頑丈な扉であろうと、問題ありません。人間の作り出した物など、たかが知れていますから」