業火
よく見てみると、重傷を負っている人もそこまで多くないわね……。
ほぼ全員、炎の影響を受けているとはいえ、症状の度合いは違うみたい。何を基準に決めているのかしら……?
コテリと首を傾げる私は、抱き合って怯える親子や身を寄せ合って震える老夫婦に目を向ける。
無傷のまま炎の中に閉じ込められる彼らは、困惑気味に周囲を見回した。
どうやら、彼ら自身も何故攻撃の対象から外されたのか、分かっていないらしい。
『当人ですら、分からないの……?』と混乱する私に、旦那様はクスリと笑みを漏らした。
「あの炎は罪の重さによって、熱さが変化する代物なんだ。だから、正しく生きてきた者達には害を与えない。逆に罪を犯した者達には、容赦なく牙を剥くけどね。例えば────メイヴィスに石を投げた奴らとか」
言葉の端々に憎悪を滲ませる旦那様は、冷めた目で地上を見下ろす。
『あの女の策に踊らされていたとはいえ、許されないこともある』と語り、怒りを露わにした。
僅かに殺気を放つ旦那様は、珍しく感情的になるものの……直ぐさま正気を取り戻す。
気持ちを落ち着かせるように何度も深呼吸を繰り返し、おもむろに顔を上げた。
「じゃあ、あとは手筈通り頼むよ。ハワードはカシエルについて行ってね。僕はメイヴィスと一緒にあの女とバカ王子を処分しに行くから」
事前に打ち合わせでもしていたのか、旦那様は手短に話を終える。
『さっさと行け』と言わんばかりに手を振る彼に、カシエルたちは苦笑を漏らした。
「では、与えられた役目を全うして来ますね!」
「余計なお世話かもしませんが、怪我にはお気をつけください」
「んじゃ、久々に大暴れしてくるか」
「そうね!完膚なきまでに叩きのめしてやるわ!」
カシエル、ハワード、ヘレス様、アイシャさんの四人は気合い十分といった様子で胸を張る。
そして、互いに頷き合うと─────どちらからともなく、動き出した。
バラバラに散らばった四人は、物凄いスピードで空中を移動していく。
あっという間に居なくなる彼らを他所に、旦那様は繋いだままの手をギュッと握り締めた。
「それじゃあ、僕達も行こうか」
「は、はい……!」
慌てて顔を上げた私は、黄金に輝く眼を見つめ返す。
『いよいよ、直接対決か』と緊張しながらも、しっかりと前を見据えた。




