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 瞼越しに光の消滅を確認すると、私達は恐る恐る目を開ける。

そして────荒れ果てた様子の王都を見て、絶句した。

あれほど栄えていたというのに、今は見る影もなく……廃村のように朽ち果てている。

目も当てられない光景に、私はただただ衝撃を受けた。


 こ、これは……思ったより、酷いわね。

神の花嫁を害したと考えれば、当然の報いかもしれないけど……色々と複雑だわ。


 王都の惨状を目の当たりにした私は、どう反応すればいいのか分からず……押し黙る。

正直やり過ぎだとは思うが、旦那様たちの行動を非難することは出来なかった。

だって、彼らの感じる怒りや憎しみはきっと────私への愛情の裏返しだから。

『私を深く愛しているからこそ、人間達を許せないんだ』と考える中、民衆たちは我々の存在に気がつく。


「め、メイヴィス様……!?」


「それに神官長のハワード様まで……!」


「おい、あっちの金髪は天使様じゃないか……!?」


 宙に浮く私達を指さし、民衆たちは騒ぎ立てる。

そして、一縷の希望を見出したかのように────パァッと表情を明るくさせた。


「お、お願いします!助けてください!」


「私達は王家と教会に騙されていただけなんです!」


「心優しい聖女様なら、きっと分かってくれますよね!?」


 『自分達はあくまで被害者だ!』と主張する民衆たちは、期待の籠った目でこちらを見つめる。

どうやら、火あぶりの刑に処された私を罵倒したことも、石を投げつけたことも忘れているようだ。


 みっともなく縋りついてくる彼らを前に、旦那様はスッと目を細めた。

無機質な瞳で民衆たちを見下ろし、手のひらを上に向ける。

釣られるように視線を上げると────空いっぱいに広がる神の紋章が見えた。


「謝罪の言葉もなく、責任転嫁とは呆れたものだね。何故、これほどにまで愚かなのか……理解に苦しむよ」


 失望感を露わにする旦那様は、やれやれと肩を竦める。そして、手のひらを下に向けた。


「さあ、愚かな人間達よ────業火に焼かれて、罪の重さを自覚するといい」


 その言葉を合図に、空いっぱいに広がった神の紋章は赤く光った────かと思えば、地上に謎の炎が現れる。

意思を持った生物のように動く炎は、一瞬にして広がり────人間達を襲った。

瞬く間に炎の餌食となる民衆たちは、『キャー!』と悲鳴を上げる。

紅蓮の炎で覆われる王都は……いや、世界は地獄絵図と化した。


 覚悟はしていたけど、なかなか堪えるわね。全く罪のない人まで裁かれるのだから……って、ん?


 ふと目に入った親子の姿に、私は強い違和感を覚える。

何故なら────全く怪我をしていなかったから。それどころか、痛がる素振りすら見せなかった。炎の中に居るにも拘わらず、だ。

『あの親子だけ、炎の影響を受けていないのか?』と思い、視線をさまよわせると────同じ状態の人が他にも居た。と言っても、極小数だが……。

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