疎外感
悩ましげに眉を顰める私は、『一体、どうすればいいんだろう?』と考える。
困ったように視線をさまよわせると、旦那様が苦笑を漏らした。
「世界の崩壊は、もはや止められないけど────罪のない人々の救済については、一考しよう。他の誰でもない、メイヴィスの頼みだからね」
『仕方ない』とでも言うように肩を竦める旦那様は、やはりとても優しい。
最大限譲歩する姿勢を見せた彼に、私は眩しい笑顔を向けた。
「ありがとうございます、旦那様……!」
「どういたしまして」
ふわりと柔らかく微笑む旦那様は、優しい手つきで私の頭を撫でる。
心地よい感触に目を細める中、彼は執務机の上にある水晶へ視線を向けた────かと思えば、おもむろに立ち上がる。
「さて────そろそろ、決着をつけに行こうか。あまりのんびりしていると、復讐を終える前に世界が崩壊してしまうからね」
愉快げに目を細める旦那様は、ゆるりと口角を上げた。
天罰という名の復讐に思いを馳せ、彼はこちらに目を向ける。
「メイヴィスは、ここでハワードと一緒に待っていてくれる?」
穏やかな表情でこちらを見下ろす旦那様は、『直ぐに戻ってくるからね』と述べた。
当然のように留守番を頼まれた私は、疎外感に苛まれる。
『何故、事件の当事者である私とハワードが居残りなのか』と、不満に感じた。
納得いかないのはハワードも同じようで、不服そうに眉を顰める。
きっと、旦那様は私達のことを気遣って、天界に残るよう言ったんだろうけど……ここまで来て、知らんぷりは出来ない。
たとえ、どんな結末を迎えようとも、現実から目を逸らす訳にはいかなかった。
「私達も連れて行ってください。被害者として、人間達の最期を見届けたいんです」
「私からもお願いします。決して、邪魔はしませんから」
それぞれ席を立った私とハワードは、旦那様に詰め寄る。
『同行させてくれ』と懇願する私達に、旦那様は困ったように微笑んだ。
「う〜ん……結構酷いことをするけど、それでもいいの?」
「「はい!」」
「そ、そっか……」
間髪容れずに返事した私達に、旦那様は戸惑いを見せた。